11/10私は信号「歌う信号銃」

「愛海の声はよく通るね」

「そうかな?」

「どこにいても、愛海が歌えば絶対にわかると思うよ」

 大きい声が何かに活かせるとは正直思っていなかった。そんな私にバンドのボーカルという立場をくれたのは理紗だった。理紗には感謝している。何かを変えたい。何かを始めたい。けれどなにをすればいいかわからなかった私に、新しい世界をくれたから。

「それじゃあさ、もし二人で山の中で遭難したとして」

「何その物騒な話」

「もしの話だって」

 そんなことは多分ないだろうけど、私が誇れるのはこのどこにいても聞こえそうなくらい大きな声だけだから。

「二人で遭難したときは、私が歌えば見つけてもらえるかなって」

 理紗が助けてと声を上げることはきっとあまりないだろうけど。私が代わりに声をあげれば問題ない。私はこれからもあなたの隣にいて、あなたのために声をあげる。

「それは頼もしいね。愛海の声なら山の中でも聞こえそう」

「本気にしてないでしょ」

 私は至って本気なのだが、きっとりさはわかっていない。でもわかっていてもわかっていなくても関係ない。私はあなたの信号銃。あなたが助けて欲しいときは、いつでも大きな声で叫び、歌おう。

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