Ring-a-Ring-o' Roses

言うべきか迷ったが、知らないうちに彼に連れ去られるのも危険だろうと判断して、皆を集めた。

三人がいなくなり、広くなった部屋。今ではサイスとトレイの二人が探索に出てしまっているので、八人だ。

「ジョーカーのカードが落ちていたんだ。誰かが落としたというわけではないよね?」

皆の様子を見たが、心当たりのある生徒はいなそうだ。

「彼が犯人である可能性が高い。というかそれしか考えられない。皆も、もしどこかで呼びかけられても返事はしないでくれ。声が聞こえた時点で、誰か近くにいる人を探して」

「ジョーカーの意図が読めませんね。嫌がらせなのでしょうか」

エースが壁に寄りかかりながら静かに呟いた。一応こちらを向いてはいるが、目線は合わない。

「……ジョーカーについて、気にしないことが一番だとは思うが、ある程度の対策は立てておきたい。皆からジョーカーの情報を聞ければと思ったんだが……」

私がジョーカーについて知っていることは、少し前までここにいたが、消えてしまった人物ということぐらいだ。彼らの服を作り、彼らの役割を決めた。いや、決めさせたのか。

彼らに名前をつけるように決めたのもジョーカー。ジャックは嫌いにはなれないとも言っていた。呪いのようだと。

「ジョーカーは先生のような人でした。貴方のような人間という意味ではなく、私達をまとめる役職という意味で」

「ジョーカーが僕らに名前を決めさせました。十三人だから、トランプがいいと」

「俺達に服を作ってくれたぞ! 制服っていう、お揃いの服なんだって」

「ジョーカーのことなんて、ほとんど記憶に残ってないよ。先生」

エイトがこっそりウインクを送ってきた。それに惑わされないようにしながら、まだ発言していない子達に目を向ける。

「急に現れて急に消えた、ヒドイ奴。それだけだろぉ? 俺にジャックの使命を与えた奴だ」

「ジョーカー対策ですかぁ? んーとそうですね。とりあえずこのクイーンをお供にして、常に一緒にいるのはどうです? 何かあれば大声でお知らせしましょう。僕は誰も襲わせませんよ。特に先生、貴方はね」

「……ふふ、ジョーカー。ジョーカーはね、何のマークもないんだって。仲間はずれなの」

「ジョーカーがここに来るのであれば、何か理由がある……はず?」

「キング、理由があったら許されるの〜? 君はついていっちゃうのかな〜」

「別にこいつは何も言ってねーだろが。突然仕切り出してウゼー」

「はい! お口わるわる点追加〜。ジャックはいっつまでもお子ちゃまで困るなぁ。僕も守らなきゃいけないのに、君だけはうっかり忘れちゃいそう」

「お前に俺が守れるって? ギャハハ、くっそ、想像するとめっちゃ面白え! やってみろよ」

キングの横で二人が騒いでいるが、真ん中にいる当人は気にしていないようだ。

「相変わらず仲良しだなぁ、お前ら」

「サイス!」

廊下から現れたサイスに皆が振り返る。後ろにはトレイもいた。

「ああ、良かった。無事だったんだ」

「ごめん皆、心配かけちまったな」

「トレイも大丈夫だった?」

「……あ、ああ。別に何ともねえよ」

「おかえりなさ〜い、トレイちゃん。寂しくなっちゃったんですか〜?」

クイーンを無視して、トレイがこちらへ来た。

「先生、ナインは消えたか?」

「ああ、三人ともいなくなってしまったよ」

「……そっか」

「んん〜思わせぶりな態度だけど、結局トレイくんも何も分かってないんだよね〜? そんな意味深な顔すんのやめたら〜? あっはは、カッコイイ、カッコイイよ〜」

「こら、クイーン。あんまり茶化すな」

クイーンの首根っこを掴めるのはサイスぐらいだろう。手をバタバタさせてぎゃあぎゃあ騒いでいた。

「サイスがパパに見える……」

ちょっと離れた場所から見ていたエースが呟いた。

「パパ?」

「あ、想像ですけどね。僕らに家族はいないから」

「忘れているだけじゃなくて?」

「その可能性もありますよ。ここに来るまでの記憶が曖昧ですし。家族というのは本で読んだだけ、映像で見ただけの存在で……実際どんな感じなんでしょうね」

エースの顔を見ると、そこまで興味はなさそうだった。それもそうか。私も、頭のどこにも残っていない家族を惜しいとは思わない。

二人が来たことにより、更に騒がしくなった室内を眺める。ここにいると血よりも時間の繋がりが大事だと、そう感じる。


Ring-a-Ring-o' Roses,

A pocket full of posies,

Atishoo! Atishoo!

We all fall down.


みんなで輪になって、大声で歌おう。

不安を吹き飛ばすように。

闇に負けないように。

恐怖が襲ってきても、手を離してはいけないよ。

みんなで一緒に新しい世界へ、飛んでいこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る