水底に溜まる澱
ところで、自称"ナレーター"の ' ネコ ' は ' ネコ界 ' と呼ばれる空間にいる。
そこは、この世のすべてを見ることのできる神域である。彼は自分で言うように"全知全能"であり、つまりそれは彼が ' 神 ' であるということを意味している。
しかしながら、彼は猫という姿をしている。なぜか? それは彼より上位に存在する者が彼を"猫"と認識しているからである。
' ネコ ' はその上位者の存在があることを知っているが、' それ ' を見ることはできない。彼より上位の者だからである。
(ちなみにであるが、彼は猫の姿ではあったが1メートル程の身長があり横幅もかなりある。つまりそれは彼がかなりでかい"デブ猫"であるということを意味している。)
' ネコ ' は〈紫スライム〉サツマイモが暴走トラックに轢かれ死んでしまうのを見ていた。
' 神 ' である彼にとってはたかがスライムである。そのたかがスライムの"死"をなぜ見ていたかというと、その暴走トラックが彼の眷属であったからである。
「あ、うちの ' ネコトラ ' がスライムを轢いたにゃ。」' ネコ ' は呟いた。
普段であれば、スライムの死などに着目したりはしない。しかし、彼の眷属が起こした事故であったため、' ネコ ' は気まぐれにそのスライムを生き返らせることにした。
' ネコ ' は ' 時を司る者 ' を呼びつけた。' 時を司る者 ' は ' ネコ ' に従う神である。すらりとした長身であり、' ネコ ' の身長の倍はあった。女神である。
' 時を司る者 ' は ' 時の糸 ' つまり時間軸を司る専門神である。
「' ネコ ' 様、お呼びでしょうか。」
' ネコ ' は ' 時を司る者 ' を見上げた。
「あの ' 時 ' を解きほぐして欲しい。」と〈紫スライム〉サツマイモが死んだ ' あの時 ' を指さした。
「あの ' 時 ' をでございますか? ......はい、......しかし、それはとても酔狂なことと存じますが......。」
「そうにゃ。酔狂にゃ。しかし、たまにはそんなこともしてみたくもなるものにゃ。」と ' ネコ ' は 言った。
' 時を司る者 ' は ' ネコ ' を訝しげに見たが、' 時の糸 ' をほぐし始めた。
この世には、無限大に近い幾重にも重なる世界がある。そしてその無限大に近い世界に、さらに無限大に近い時が存在する。
無数の空間軸、無数の時間軸を彼女は丁寧に解きほぐしていく。
無数の空間軸、無数の時間軸の姿がそこに
その水底に溜まる澱のようなものは、妖しく蠢いていた。
' ネコ ' はその澱に向けて杖をかざすと ' 光 ' をあてた。' 光 ' をあてたのだが......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます