第18話 王妃様ご来店 3
「テーブルセッティングこんな感じでいいかな?」
真っ白なクロスにお揃いのナプキン。
ナプキンにはレースのリボンで蝶々結び。
ワンプレートになるようにし、小皿にジャムを入れ、スコーンは4つ程タワーになるよう盛り付けてみた。
ジャム用のナイフを置き、花を飾り、苺とリンゴのミックスフルーツティー入りポットは王妃様がいらしたらティーウォーマーで温めながら置いておくことにする。
見た目が華やかになるからだ。
「いいんじゃないか?きっとこれで大丈夫だろう」
ぐったりとした様子のジュリー。
「緊張するね」
朝一番に昨日と同じ手順でスコーンとジャムを用意し、お互いの身なりもしっかりと整え、今に至る。
ドアがノックされる音が聞こえた。
ジュリーと共に緊張しながらドアへ行く。
ジュリー、右手右足一緒に出てるよ。
「王妃様ご来店である」
ボディーガード?らしき人が3人入ってくる。
「「いらっしゃいませ」」
ゆっくりと入ってきた女性は少しふくよかな体つきで見た目は50代くらい。
ツンツンしてそうな、ものすごい美人が来ると勝手に想像していたが、全く違った。
それはそれは優しそうにニコニコと微笑まれ、派手ではなく年相応の落ち着いた感じのドレスに大きなパールのネックレスとピアスをつけていらっしゃる。
「こんにちは、初めまして。マスター」
ニッコリと微笑んで挨拶をされる王妃様。
「は、はい、お初にお目にかかります!」
だ、大丈夫かなジュリー……
「貴女のお話も聞いています。初めましてお嬢さん」
「は、はい!初めまして!」
話しかけられてもろくな返事が出来ない残念な庶民の我々。
「突然でごめんなさいね。空いている日が今日しかなくて」
「とんでもございません、準備はしてありますのでどうぞお座り下さい」
ジュリーが王妃様を席にご案内する。
私は急いでお茶の準備にとりかかる。
「まあ!とても素敵なテーブルコーディネートね!嬉しいわ!」
王妃様……なんというかまるで少女のように嬉しそうに座られた。
可愛らしいお人だ。
さ、お茶お出しするぞ。
「失礼致します、こちらウェルカムティーです」
少量のセイロンティーをお出しする。
もちろん蜂蜜は入れてあるのだ。
「ありがとう」
「陛下」
ボディーガードが声をかけてくる。
「大丈夫よ」
「しかし」
「大丈夫」
ん?何がだろう?
「ごめんなさいね、とても失礼なのだけど毒味をさせろと言いたいのよ。何も悪いものなんて入っていないのに、貴女もそう思うでしょう?」
え?私?
クイッと優雅に紅茶を飲まれる王妃様。
「「「あっ!」」」
ボディーガード達の驚いた表情。
大丈夫です、毒は入っておりません。
カップを置き、ほーっと息をつく王妃様。
「とっっっても美味しいわ!紅茶って苦くて渋いイメージだけど、貴女が淹れるとこんなに甘くて美味しくなるのね」
王妃様、お口に合いましたか。
良かったです。
安堵のあまり泣きそうです。
「光栄です」
緊張のあまり声も笑顔も震えます。
ジュリーがスコーンの説明をしている間にフルーツティーの用意をする。
いちごとリンゴのティー、苦味が出そうなリンゴの皮は切ってしまおう。
「スコーン?こんなお菓子初めてだわ!」
「「「陛下!!」」」
ボディーガード達に制止されながらもパクっ1口食べられる王妃様。
「あらっ?これは、あらっ?」
黙々と次々口にスコーンを運ばれる王妃様。
その様子をハラハラしながら見ているボディーガード達。
「お、美味しい!美味しすぎるわ!今まで食べたどのお菓子よりずっとずっと美味しいわ!」
目を輝かせながら食べ続け幸せそうに微笑まれる。
フルーツティーのポットが出来たのでテーブルへ。
「こちら、苺とリンゴのフルーツティーです。このティーウォーマーでしばらく香りを紅茶に移してから飲みますので少しお待ちください」
ティーウォーマーでポットを温める。
「まあ、とっても可愛らしいポットね。フルーツがキラキラ輝いてまるで宝石のようだわ!」
王妃様がはしゃいでいるのが伝わってくる。
可愛い、可愛すぎる、王妃様。
「こちら、ミルクティーです」
ジュリーがミルクティーを持ってくる。
「ありがとう、これが飲んでみたかったのよ。良い香りだわ」
「「「陛下、まずは我々が……」」」
ボディーガード達の言葉を無視し、大事そうにミルクティーを口に含み、目をつぶりじっくりとテイスティングしている様子の王妃様。
ゆっくり目を開き、それはそれは嬉しそうに微笑まれる。
ボディーガード達、ちょっと可哀想になってきた……
「ミルクティー、想像以上の美味しさよ。甘くて香りが良くて、何より穏やかな気持ちになるわ」
ジュリーを見て微笑む王妃様。
いつの間にかジュリーも私も緊張が解けている。
王妃様の優しい雰囲気がそうさせるのだろう。
「マスター、これはジャムよね?」
「はい、スコーンに付けて食べて見てください」
スコーンにジャムを塗り口に入れる王妃様。
ボディーガード達が諦めたようにガクッと肩を落とす。
「これは……なんて……なんて美味しいの!」
ボディーガードの方を振り向く王妃様。
「あなた達も頂いてみなさいな!こんなに美味しいお菓子食べなきゃ人生勿体ないわ!」
そう言われたボディーガード達はジャム付きスコーンを1口づつ口に入れる。
しばらく噛み締め、飲み込み……そして泣いた。
泣くんかいいいい!!!
「そうよね、涙腺が崩壊する美味しさよね!」
王妃様も涙目になっておられる。
ミルクティーを飲み干されたので最後にフルーツティーだ。
ジュリーが静かに丁寧にカップに注ぐ。
「これも楽しみだわ」
ボディーガード達はもはや何も言わずに無言で泣いている。
「ああ、とっても美味しいわ」
ハンカチで涙を拭いながらフルーツティーを飲まれる。
「この果物の紅茶、すごく素敵だわ。魔石と果物が輝きあってお話をしているようだわ。とてもロマンチックね」
ロマンチックは貴女です!
「果物の甘みと香り……口の中で紅茶の茶葉が仲良く踊っているみたいだわ」
満面の笑みでそう言われる王妃様。
可愛すぎて思わずドキッとしてしまう。
ジュリーなんて頬を染めてしまってるよ。
惚れたなこれ。
■□▪▫■□▫▪
「今日はどうもありがとう。幸せな時を過ごせたわ。今度はこちらがおもてなしをさせて頂くわ」
王妃様が帰り際に挨拶をされる。
「とんでもございません!王妃様に喜んで頂けただけでとても光栄な事です」
ジュリー、顔真っ赤です。
「あの、よろしければこちらお持ち帰りください」
たくさん焼いたスコーンとお手製ジャムだ。
気に入って頂けたようなのでいくつか箱に詰めてみた。
「まあ!どうもありがとう!これを宮殿でも食べられるなんて夢のようだわ!」
大切そうに両手で受け取られる。
「本当に本当にどうもありがとう!お茶もお菓子も今まで食べた中で1番に飛び抜けて美味しかったわ。素敵な時間をどうもありがとう」
なんて気さくなそして礼儀正しい王妃様なんだろう。
最初に冷たいイメージしててごめんなさい。
「また来てもいいかしら?」
恥ずかしそうにそう小声で言われる王妃様。
「「はい!お待ちしております!」」
それはそれは満足そうに王妃様は帰っていかれた。
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