第17話 王妃様ご来店 2

「小麦粉、バター、ミルク、塩、砂糖、ふくらし粉、全部買ってきたぞー、材料こんだけでいいの?」



 ジュリーが荷物を抱えて買い物から帰ってくる。



「うん、こんだけ」



 スコーンってシンプルよね。



「チョコいれたり、バナナ入れてもいいかもね。食事スコーンにするならベーコンチーズとかかぼちゃやさつまいも入れても美味しいけど。まずはプレーンから作ってみよ」



 あーすごい食べたくなってきた。

 ティールームのキッチンにはちゃんとした料理道具一式が揃っている。

 ジュリー曰くここに住んでいた老夫婦が使っていたものだそうな。

 スケールやボウル、クッキー用の型抜きなんかも見つけた。

 有難く使わせて頂こう。



「まずはボールに、小麦粉200g、ふくらし粉は小さじ2、塩ひとつまみに、砂糖大さじ2を入れてふるいあわせ……」



 粉類を、しっかりと混ぜ合わせる。



「バター50gを粉に入れて、擦るようにすり混ぜて」



 火起こしするかのようにすりすりと。



「生地がパラパラになってきたら牛乳100ml投入して再び混ぜる」



 こねるように混ぜ合わせ、ベタつかない程度になったら生地の完成だ。



「よし。次は生地を2センチ位の厚さに伸ばして、このクッキーの型で抜く!」



 よくある菊の花の形をしたやつだ。



「それから180℃に温めたオーブンで20分くらい焼く……ん?ジュリー、オーブンはどれ?」



 これだと言われたのはよくピザ屋さんで見るような窯だ。

 小ぶりだがスコーン焼くには十分なサイズ。



「どうやって使うの?」



「……知らん」



 ん?今なんつった?



「使った事がない」



「おいいいい!」



 よくそんなんでスコーン焼こうと思ったな!



「焼かなきゃ出来上がらないよ」



 どーすんのこの生地。



「とにかくこれも魔石と杖みたいの付いてるから、コンコン叩けばいいんじゃね?」



 ずいぶんと適当だなおい。



「もう!時間ないし色々試してみよう」



 杖を持ってコンコンしてみる。

 何も起きない。



「「おいいい!!」」



 困った!どうしよう。

 そうだ、もう一度集中してお願いしながらやってみよう。



『火の魔石さんいつもお湯を沸かさせてくれてありがとう。そんな中、新しいお願いです。美味しいスコーン焼くのに窯を使わせてください。180℃に温めてください。温まったらスコーンを20分位焼かせてください。この通りです、異世界の小娘のささやかなお願いです。多くは望みません。どうかお願いします』



 ぶつぶつと小声で懇願するように杖を握りしめ再びコンコンと窯を叩いた。

 すると窯の内側から大きな火が燃え上がり、一気に熱くなりだした。



「熱っ!」

「うわっ!」



 あまりの熱さにジュリーと共に二、三歩離れる。

 少しすると熱さが治まり、窯の中で小さな火が燃え出した。



「すごい……」

「驚いたな……」



 はっ!ほうけている場合ではない。



「ジュリー、スコーン焼かなきゃ!」



 急いでスコーンの生地を窯に入れる。

 うう、魔石さんどもありがとうございます。

 美味しく焼けますように……



「さてジュリー、焼いてる間にテーブルセッティング」



「はっ!そうだな。この店はおっさん向けでシンプルだから華やかさに欠けるな」



 そう、このお店はシンプルなのだ。

 私は好きだが王妃様がいらっしゃるのだから少しは華やかにしなきゃね。



「何がいるんだ?買ってくるぞ」



「よっ、太っ腹! ええと、テーブルクロスでしょ、お揃いのナプキン、卓上用の花 ……そんなもん?」


 あとはお店にあるので大丈夫よね?


「あ、スコーン以外に何か召しあがるならそれもかな?でも王族の人ってよく考えたら市販のお菓子食べなさそうだよね……専属シェフが作ってそうなイメージがあるわ」



「それもそうだな……」



 ジュリーも私も庶民すぎてどうしたらいいのかわからない。



「もうスコーンだけでいいか。お茶飲みに来るんだからお茶のメニュー増やすわ」



「そうね、それがいいかも……あ、スコーンにつけるジャムがいるよね。折角だからジャムは作る?」



「よし、任せた!俺は買い物に行ってくる!今日は苺が届いてるからそれでジャムだ!」



 そう言ってジュリーは買い出しに行ってしまった。



「さて……レモンあったよね?」



 まずはレモンを見つけて半分に切る。

 カゴいっぱいの苺からキレイそうなのを両手いっぱいに選び、ヘタを取って綺麗に洗い、4分の1に切り鍋に入れ、砂糖大量、レモン汁も入れてひたすらグツグツと。

 途中アクが出たら取り除く。

 煮立ってきたら杖をコンコンして弱火に。

 意思疎通が出来る魔石ってすごいわ。

 しばらくこのまま放置だ。



「あ、そろそろスコーンの焼き上がる頃かな?」



 窯を見てみると、中ではまだ火が緩やかに燃えている。

 もう少し、かな?



「ただいまー」



 ジュリーが帰ってきた。



「早っ!おかえりー」



「店のマダムに選んでもらったから間違いないぞ」



「うわー!キレイなクロス!」



 真っ白なレースで縁取られたクロスはそれはそれは可愛らしい。



「そろそろスコーン出来たかな?」



 窯を見ると火が消えている。

 出来上がったスコーンをひとつ取り出す。



「美味しそー」

「いい匂いだな」



 熱々だけど持てなくはない。

 2つに割ってジュリーにひとつ渡す。

 試食だ。



 2人顔を見合わせパクっと1口。



「「うんまっ!!」」



 何これめちゃくちゃ美味い。

 自分で作っておいてアレだがお世辞抜きに美味しい、どうした私、こんな美味しいスコーン食べたことないわ。



「めちゃくちゃ美味いぞこれ、サクっとしてふわっだぞ。夢子お前何かしたのか?うんまっ!」



 目を輝かせモグモグしながら話すジュリー。



「いや、何もしてないけど」



「とにかくこれはプレーンでもいける!紅茶はまずはセイロン、次にミルクティー、最後にフルーツティー、これで行く!」



 おっ、なんだか珍しくやる気になっているじゃないか、ジュリー。



「あ、ジャムもできたみたい。つけて食べてみて」



 スコーンにジャムを少し付けて1口かじるジュリー。



「うっうっ」



「どうしたの!?」



 もぐもぐしながら泣き出すジュリー。



「う、美味すぎて涙が」



「んなわけあるかー!」



 ギャグ漫画じゃあるまいし。



「いや、これは美味い本当に。こんな美味いもん作ってくれてありがとう夢子」



 キャラ変わってるよこのおっさん……



 自分もジャムを付けて1口かじる。

 ん?んんん?ナニコレオイシイ……あまりの美味しさに時が止まった。

 私、シェフになれる。

 きっとなれる。

 そうこう準備をしているとあっという間に1日が終わってしまった。

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