第10話 芸術家は甘いものがお好き
ティーカップをじっと見つめるダリアさん。
「とても……良い香りです。いただきます」
大事そうにカップを持ち上げ1口飲み、驚いた顔で私を見る。
「すごく、すごく美味しいですわ!これは本当に紅茶なんですの?甘くてコクがあって……ミルクと混ざり合って……ああ!とっても温かで幸せな気持ちになりますわ!!」
お、大袈裟だな……
目を輝かせながら微笑み、再び嬉しそうに飲み始めるダリアさん。
まあ気に入ってもらえたようで何よりだ。
「な、なんだこの香りは……」
うお!
び、ビックリした……
いつの間にかヒートさんが私の横に!
隠密か何かですか。気配感じませんでしたよ。
しかもここカウンター内……
「失礼。あまりにも良い香りに誘われて……これは紅茶ですよね?」
「はい、紅茶にミルクをいれたものです」
男は黙って無糖の紅茶だからすすめるのは良くないよね。
「僕もいただきたい!」
そう言うと光の速さでカウンター席に移動してダリアさんの横に座るヒートさん。
え、飲むの?男は黙って無糖の紅茶じゃないの?ミルクはいいの?
「ヒート様は激甘党なのです。人の目など全く気にしません」
どうやら私の戸惑いがダリアさんに伝わったようだ。
「甘いものを食べるとアイディアがたくさん浮かんでくるのですよ」
そうすか……なら蜂蜜たっぷり入れてしまおう。
「ところでヒート様、夢子様の制服デザインは終えられたのですか?」
「ああ、最高傑作が出来たよ」
そう嬉しそうに微笑むヒートさんの前にティーカップを置く。
「ありがとう」
1口飲むヒートさん。
カッと目を見開き、勢いよく立ち上がる。
「な、なんてコクのある紅茶なんだ!こんなにも美味しい紅茶は飲んだ事がない!紅茶にミルク、素晴らしいデュエット!!
そしてこの濃厚な蜂蜜がミルクと紅茶をさらに引き立てている!!
ああ!口の中で広がるハーモニー!!
今なら世界最高のデザインが描けそうだ!!
素晴らしい!素晴らしいよ!夢子さん!!
いや、親しみを込めて夢子君、こう呼ばせて頂こう!!」
そう言うとストンと品良く座り直し何事も無かったかの様に再びミルクティーを飲み始める。
……芸術家って面白いな……
にしてもダリアさん我関せずだな。
きっと彼はいつもこんな感じなんだろう。
「夢子君、もう少しだけ時間をくれないか?先程も言ったが今ならさらに素晴らしいデザインを描けそうだ。」
な、なんか話し方がフランクになったな……
そう言うとまた1人席を離れ、デザインに没頭し始めてしまった。
私もミルクティー飲もうと思ってたんだけどな。
もういいや、別のもの飲も。
自分用にお茶を淹れ、ダリアさんの横に座る。
ようやくゆっくり出来そうだ。
「ダリアさんはこのお仕事長いんですか?」
ちょっと気になって聞いてみる。
「いえ、ヒート様の助手になったのはここ最近ですの。それまではヒート様の御屋敷でメイドとして働いておりました。 」
ヒートさん……お坊ちゃんなのかしら?
「御屋敷での私の刺繍デザインがヒート様の目に留まり今に至るのです」
「そうなんですね……才能があるって凄いことだと思います。」
「とんでもございません。ヒート様に比べれば私などまだまだですわ」
残りの紅茶をグイッと飲み干すダリアさん。
「終わったようです」
制服デザインが出来たようだ。
「夢子君、いかがかな?」
見せられたデザインはどれもシンプルだけど形がとてもキレイでウエストが締まっている。
透け感があるもの、生地が何枚も重ねられているもの、首元がしっかり閉まっているもの、逆に開いているもの、サイドが編み上げられリボンで縛られているもの等々……
「凄い、どれもオシャレでかわいい!」
しかもどのデザインも動きやすそうである。
「色はピンクやボルドー、深いパープルなんかも似合うと思うよ。」
なるほどなるほど!
「夢子様、先程のネックレスと合わせるなら少し首元が開いていているものがよろしいかと思いますわ。色はピンクベースをオススメしたいですわ。」
ダリアさんに言われる。
別にネックレスと合わせなくてもいいんだけどなあ……
「ネックレス?僕にも見せてくれるかい?」
ヒートさんに言われ服の中にしまっているネックレスを出す。
ヒートさんは真剣な眼差しでネックレスを見る。
眉間に皺を寄せながらも目を見開き驚いたような表情で私を見てこう言った。
「これは……水龍の涙……?」
なんだそれは……
精霊王からいただきましたって言うべき?
「間違いない、とても純度の高い魔力が込められている。……水龍の涙の結晶だ。」
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