第9話 蜂蜜たっぷりロイヤルミルクティー

「おっはよー」



「おはよーさーん」



 いつものようにカウンターにてご挨拶。

 そーいやふと気になることがあったのだ。



「ねえ、ジュリー、私がここに来る時ってパッってカウンター席に現れるの?」



 瞬間移動みたいな感じかな?



「ん?まずなんとなくピカーって光って、その後シュッってお前が出てくるな」



「……そうすか」



 適当な効果音だな。

 まあいっか。



 読んでた新聞らしきものを閉じてジュリーが元気よく言う。



「おし!制服だ制服!もう少ししたら仕立て屋くるからな。どんなんが良いとか希望はあるか?」



「好きな感じにしていいの?」



 てっきりデザイン決まってるものかと。

 初めに借りた服みたいなやつかと。



「脚出てなきゃなんでもいいぞ。好きにデザインしてもらえ。」



 ふおおおお!!



「オーダーメイドっすか!まるでセレブ!!」



「こっちの世界ではオーダーメイドがわりと普通だよ」



「そーなんだ。なんかドキドキしちゃうなー」



 ジュリーと話していると出入口から声が聞こえてきた。



「こんにちはー」



 ジュリーがドアを開けて招き入れる。



「どーもどーも、ヒート、今日はよろしくお願いします」



 スラリと手足の長い男性がひとり。海外ファッションモデルのような女性がひとり。

 2人ともお美しすぎる……



「ジュリー、今日は仕事をありがとう。このお嬢さんの制服だったね?」



 私の方を見て優しそうに微笑む男性。



「はじめまして、夢子です。よろしくお願いします」



「はじめまして。僕はヒートで、彼女はダリア。彼女は僕の助手だよ」



 ヒートさんはダリアさんをチラと見る。



「よろしくお願いします」



 優しそうに微笑むダリアさん。

 美女の笑顔……眩しい……



「んじゃ、任せたから後よろしくなー!せっかくの休みだからちょっと出かけてくるわー」



「え!」



 おい、おっさん待たんかーい!!

 サクッといなくなるジュリー。

 い、行ってしもうた……



「ふふ、相変わらずですね」



 ヒートさんとダリアさんが笑う。



「大丈夫ですよ、夢子さん、我々に任せて下さい!」



 そう言うとたくさんのデッサンを見せてくれる。

 50枚くらいあるだろうか。

 どれもこれもふんわりとしてボリュームのある華やかないわゆる煌びやかなドレス。

 中世ヨーロッパの貴婦人が着てそうなやつである。



「今の流行りはだいたいこんな感じですね。ふんだんにレースをあしらいウエストが細く見えるようにスカートにボリュームを。」



 ええと……



「夢子さんは可愛らしいしまだまだお若いのでより華やかなものが宜しいかと」



 そうにこやかに言われ、悪い気はしない。

 しかし……だがしかし。



「あの、私はここでの仕事用の服を作ってもらいたいのですが……」



 こんなヒラヒラふわっふわしてたら仕事出来んわ。


 ヒートさんとダリアさんが顔を見合わせ、不思議そうな顔で私をみてくる。



「もちろん、そのつもりでデザインを持ってきてますが……」



 そうか、この世界ではこの服が制服として普通なのか……



「ええと、今私が着ているようなスラリとした形のものがいいんですが……」



 今日のマキシワンピースは無地の薄緑色。

 日本ならそこら辺に売っていそうなごく普通のデザインである。



「それは、その、もちろんお似合いですが、少しふる……クラシカルなデザインかと……」



 おおっと!古臭いをクラシカルと表現されましたな。



「あまりボリュームがあると動きずらいですし、派手すぎるのもちょっと……」



 顔が地味なんでね、私。



「出来ればこういったスラリとしたものがいいのです。それにあまり綺麗なデザインだと汚した時悲しくなるので」



 あははと苦笑いする。

 どうしても汚しちゃうだろうしね。



「では……」



 ふむ、と少し考えているヒートさん。



「少しクラシカルに、可愛らしさも忘れず……貴方の瞳と髪、その肌色に合う色を……レースやフリルは使わずに……」



 なんかブツブツと考えはじめてしまったようだ。

 ダリアさんが私に耳打ちする。



「ヒート様は今頭の中でデザイン中です。集中すると周りが見えなくなるのでどうぞそのまま放っておいてくださいませ。」



 ダリアさんは、いつもの事ですのでと笑顔。



「この間に夢子様のサイズを測らせてくださいませ。」



 ダリアさんと2階へと移動する。

 ちょっと恥ずかしいけど服を脱いで、下着と肌着姿に。



「失礼致します。」



 そう言われるとあちこちメジャーで計られる。

 すごく慣れた手つき。



「はい、これで終わりでございます」



 あっという間に終わってしまった。



「夢子様、そのネックレスの石は何の石ですか?初めて見ます。こちらの世界のものでは無いのでしょうか?」



 私が招かれ人だと言うことは伝わっているようだ。



「これは……」



 どうしよ?

 素直に話していいものか。



「その……知り合いから貰ったもなので、なんの石かはわからないのです」



 ああなるほど、というように微笑むダリアさん。



「そうですか、とても綺麗な石ですね。羨ましいですわ」



 ふふふっと嬉しそうに微笑むダリアさん。

 ん?もしかして何か勘違いしてる?

 まあいいや。

 色々突っ込んで聞かれると困るし。



「そろそろヒート様の所に戻ってみましょう」



 下に降りてみると、集中してデッサンしているヒートさん。

 まだかかりそうだ。



「あの、ダリアさん、もし良ければ紅茶飲みながらヒートさんを待ちませんか?」



 ただ何もせず待ってるのもなんかね。



「紅茶、ですか?」



 あ、しまった。



「私、紅茶は少し苦手でして……」



 この世界では女性はコーヒー派だったね。



「飲みやすい紅茶もあるんですけども……いえ、無理にとは言いません、なんだかすみません」



 無理強いはよくないよね。



「いえ、招かれ人の夢子様がオススメなさる紅茶ならば……頂けますか?」



 ■□▪▫■□▫▪



 さて。

 何を淹れよう。

 ダリアさんにはカウンターに座っていてもらう。

 女子にはやはりこれでしょう。

 ミルクたっぷりロイヤルミルクティー!


 まずはアッサムを用意。

 ティースプーン2杯で少し多めに。

 ココットに茶葉を入れ熱湯をさっとかけてしばし置く。

 鍋にミルク9割水1割を入れて火にかける。少し温めたら先程熱湯をかけた茶葉を鍋に投入。

 そのまま沸騰直前まで火にかける。

 ミルクは沸騰させると美味しくなくなってしまうから注意せねば。

 よく見極め、沸騰直前で火を止める。

 茶葉の香りがミルクに移るよう蓋をしてしばし蒸らし……

 出来上がりー

 うん、美味しそう!

 温めたカップに注いでダリアさんには蜂蜜たっぷり入れちゃおう。

 ダリアさんの前にそっとティーカップを置く。



「どうぞ、蜂蜜たっぷりロイヤルミルクティーです」

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