5 Egoist Unfair


二人の間で会話が進んでいく。

エルドレッドは一人、理解が追いついていない。


「エル、お前はとんでもないことをしてくれたようだ」


隣にいるカーネリアンが彼をにらみつける。


「とんでもないこと、ですか?」


「あんまり怒らないでくださいね。

彼のおかげで、あなたとこの情報を共有できるんですから」


「別に怒っているわけじゃ、ありませんよ。

そちらの状況について、まずは説明してくれませんか?」


狩人同盟はシオケムリで発生している誘拐事件を追っていた。

ナキリによる犯行であり、被害者たちは実験により改造人間にされていた。

改造人間たちはクーデターを各地で起こし、社会に牙を向けていた。


カーネリアンの言っていた通り、思っていた以上に根が深い。

捜査はかなり進み、ナキリたちの拠点まで分かった状況だ。


「それで、手に入れた邪神をどうするつもりだったんです?」


「アイツら、偶像が欲しいんですよ。

信仰対象といってもいいかもしれませんね」


「信仰って……ナキリは宗教と無縁の団体じゃなかったのか?」


「ええ。あいつらに信仰心なんてもんはありません。

しかし、宗教にしちゃえば、どんな要求も通っちゃいますから。

血の貴族なんかがいい例でしょ?」


血の貴族は特殊な魔法を扱うカルト教団だ。

自分たちの能力を神から与えられたものだと考え、他の能力者を襲う。


実際、二人も彼らに何度か襲われたことがあった。

後で分かったことだが、彼らは自分の血液を利用して攻撃をしているらしい。

信者同士で交わることもあり、能力強化さえできれば何でもする団体だ。


「自分らの私利私欲を肯定するために、神様をでっち上げようとしてるんです。

誘拐事件やクーデターは、邪神を隠すためのただのフェイクだったんですね」


「なぜ、そのことが分かったんです?」


「実は、あなたたちが摘発した商人団から邪神を買い取った記録が見つかったんです。その記録をたどっていくうちに、邪神を利用しようとしていることが分かりました」


離れていたはずの点と点が結ばれていく。

それが大きな網となって、エルドレッドの脳内を駆け巡っていく。


「そうですね、リョウメンスクナって聞いたことありますか?

要はあれと一緒です。邪神を神様として、奉ろうとしてるんです」


「そんなこと、できるんですか?」


「方法はいろいろとあると思うよ。

非合法的かつハイリスクではあるんでしょうが」


「非合法どころの騒ぎじゃない、そんなこと許されるはずがない」


カーネリアンは首を振る。

ナラカなどの神秘は隠しておかなければならない存在である。

そのために、封印の騎士団は存在する。


「エル君にも言ったんですが、被害者たちは言っていたんですよ」


「正義は俺たちを助けてくれなかった。

本来、味方であるはずなのに、助けてくれなかった」


ステラの言葉をエルドレッドが続ける。

彼女は何も言わなかった。


「だからと言って、クーデターを起こすのは違う気もしますけど」


「もうちょっと冷静に考えて、そのへんを言語化できたらいいね」


クーデターを起こし、社会に反逆する。

決して、意味がないわけではない。

彼らは大きな被害を出しながら、叫び続けている。


いつかは誰かが止めなければならない。


「それで、その突入作戦とやらはいつになるんです?」


「そう焦らないでくださいよ。

この後、狩人同盟本部でそれについての話し合いがあるんです。

中継できるようにしておきますから、ここで確認してください」


ステラは机に置いてあったパソコンを二人に画面を向ける。

チャットソフトが開かれており、通信画面が映し出されていた。


「本部のパソコンから中継できるようにしておきます。

会議中に聞きたいことがあったら、チャットのほうでお願いしますね。

お二人の声は届かないようにしてるんで」


「私たちの声が聞こえないんじゃ、通話する意味がないんじゃないか?」


「そもそも、こういうのって基本的にアウトなんですよ。

本部には内緒でやってるんで、声とか聞こえたらヤバいことになります」


もちろん、作戦会議の時に彼らのことは話すつもりではいる。

ただ、流れによっては、隠しておいた方がいいこともある。

そのときの状況次第と言ったところか。


「ちなみに、騎士団のみなさんは何人くらい動員できそうですか?」


「別の任務に当たらせている者を省いた場合、100人くらいは呼べるかと」


「それだけいれば、上等です。

シオケムリにいるナキリたちもそんなに多くありませんしね」


規模が小さいからこそ、信者を増やそうとしているのだろうか。

人数がいれば、それだけ欲望も通りやすくなる。

ステラは席を立つ。


「それじゃ、通信会議をお楽しみください」


彼は二人を残し、本部へ向かったのだった。




本部に戻り、彼は会議室で準備をしていた。

テーブルはカタカナのロの形に並んでいる。


一足先に来てしまったからか、会議室にはまだ誰もいない。

とりあえず、適当な席に荷物を下ろす。


ざっと会議室全体を見渡す。

席に座れなかった者は立ち見で、クリップボードと資料を渡しておけばいいか。


さて、クリップボードは倉庫に置いてあったんだっけ。

後はスクリーンとプロジェクターが必要か。

台車も倉庫にあったはずだから、それを使えばいいかな。


必要なものを頭の中で並べながら、会議が聞けるようにソフトを立ち上げる。

通信画面に二人が映る。

手を振ると、向こうも手を振り返してきた。


今のところは順調だ。


「あれ、エルドレッドは?」


モモが紙の束を運んできた。彼女になら話しても大丈夫か。


「いや、さすがに他団体の人間は連れてこれないでしょ。

タナバタで会議を聞いてもらうつもり」


パソコンの通信画面を見せる。

画面にはエルドレッドと見知らぬ女性が一人いる。

オレンジ色の髪の女性は彼に何やら話しかけている。


「ついでに、騎士団の隊長さんも呼んでもらった。

封印の騎士団、輝石のカーネリアンって聞けば分かるだろ?

これでお互いに満足いけば、話し合いは成立する」


その名前は聞いたことがある。

若くしてシオケムリを任され、数々の任務をこなしてきた。

かなりの美人であるらしく、狩人の中でも人気が高い。


パソコンの画面越しだからか、その美しさはいまひとつ伝わらない。

音声は出ないように設定してあるらしく、チャットが次々と更新されていた。


『初めまして。封印の騎士団シオケムリ支部のカーネリアンと申します』


『この度はカーチスが大変なご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした』


『話はカーチスとケリーから聞きました。

どうやら、そちらが追っている誘拐事件と我々が探っていた事件と繋がりがあるらしく、騎士団としてもお話を伺いたいところでして』


公共の場だからか、思っていた以上に堅苦しい言葉が並んでいる。

もっとフランクな人だって聞いていたんだけどな。

適当に返すわけにはいかないか。


『初めまして。こちらこそ我々の事件に巻き込むような形になってしまい、申し訳ございませんでした』


とりあえず、この一言だけ返しておいた。


「それにしても、そこまで話を進めてくれてたんだ。何か悪いね」


「いやいや、そこまでのことじゃないさ。これで話がうまくいくといいけど。

じゃあ、モモは資料作るついでに誰もいじらないように見張ってて」


「アンタ、どこ行くのよ」


「倉庫に資材取ってくる。

誰かにいじられでもしたら、たまらないしさ。

ちょっと見ててくれない」


「別にいいけど……」


ステラはモモを置いて、席を離れた。




商人団の記録を突き止め、騎士団と話し合いの場が持てそうなところまではいい。

問題はここから先だ。


狩人同盟は他団体からの介入を好まないだろう。

それが輝石のカーネリアンが率いる騎士団であったとしても、よくは思わない。


タイミングを見計らって、彼女から直接話してもらえばいいかもしれない。

説得力は十分あるし、何よりインパクトがある。


「おっと、あった」


資材をまとめて、台車に乗せる。

あそこで待機してもらったのは、正解だったかもしれない。


そう思いながら、会議室へ戻った。

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