第30話 復讐するは少女にあり、必殺の手段も少女にあり

 ヨハンが洞窟から脱出するのと同じくして、洞窟の崩落が突如として始まった。もしかしたらさっきアバドンを攻撃した衝撃で崩落させたのかもしれないと思い肝を冷やしたが、直ぐに違うとわかる。

 しばらくすると山の斜面に亀裂が走り、そこから抜け出すように大きな手がにゅっと突き出された。

 黒光りする鋼鉄の手、ヨハンはその手に既視感を覚え、脳裏に蘇ったマーシャル遺跡の手と同じだとわかった。それはつまり先程発掘現場で見た巨大物体という事であり、そして巨大物体が復活したということでもある。


「マジか」


 驚きすぎてもう、いっそ笑い飛ばしたい気分だった。


――――――――――――――――――――

 

 巨大物体の出現は当然付近で戦闘中のスコッチとレッドも気付いていた。流石に大きすぎて唖然となってしまい、思わず巨大物体に見入ってしまう。

 直ぐに戦闘中だという事を思い出して再び剣を交える。


『随分大きな玩具を持ってるじゃないか』

『羨ましいか? てめぇにはくれてやんねぇよ』


 まるで子供のような返しをしながら、ローンレンジャーがペンギンダーと距離をとった。


『あんたとの戦いはとっておくぜ』


 捨て台詞を置いてレッド・キャベンディッシュはローンレンジャーで走り去って行った。

 巨大物体が蘇ったのだから一度戻るのは道理かと納得したスコッチはローンレンジャーと入れ替わりに帰ってきたペイルライダーを迎える。

 ローンレンジャーに見つからなかったのかと危惧したが、そもそもこっそりアジト襲撃などという外道み溢れる行為を行うヨハンが、好戦的なレッド・キャベンディッシュに見つかるというヘマをするとは思えない。


『よくキャベンディッシュに見つからなかったな』

『いや、見つかったと思うぞ。あいつすれ違い様にこちらをチラッと見たからさ』

『見逃してもらったわけか』

『だが今はとにかく』

『わかってる。巨大物体をどうするかだ』

『まだ山から抜け出せていない、一〇分ぐらいは時間がある筈だ』

『どうするつもりだ?』

『アジトでクリス・アダムスの日記を見つけた。これをメルに読んでもらう』

『大体わかった。巨大物体の相手は任せて貰おう』

『頼む』


 余計な言葉はいらない、可及的速やかに対策を練る必要がある。ヨハンはペイルライダーを後方へ走らせてメルの元へ向かわせる。

 メルは指揮所で待機していた。ペイルライダーを迎えると側へ駆け寄る。

 コックピットからヨハンが飛び降りた。手には紙の束が握られていた。


「メル! 日記だ!」


 それだけで充分だった。

 ヨハンの意図を理解したメルは一回だけ頷いてからひったくるように日記をとる。その場で座り込み指揮所から漏れる明かりで内容を読み始めた。


「オービタルリングの格納庫について……違う。フロンティアシリーズ……違う。海水が砂に変化する現象……気になるけど違う」


 どうやらこの日記には出来事を記したわけではなく、各施設や現象について記録したもののようだ。


「ナノマシンによるクラッキング……これだ! 見つけました!」

「ほんとか!?」


 ここまででおよそ五分、スコッチはどうなってるかと見れば。アバドンと交戦状態に入っていた。


「アバドン! ちっ……倒し方はわかるか?」

「はい、ですが詳しい説明は移動しながらで。これは私が直接やらなければいけないみたいです」


 前回の日記で巨大物体はコアを何とかしなければ行けないという事がわかっている。つまりメルをあの巨大物体の中に連れていかなければならないわけである。


「わかった、乗って!」

「はい!」


 促されるままメルはペイルライダーのコックピットへと入る。思えばここに誰かを入れるのは初めてだなとヨハンは思った。

 再起動して立ち上がる。するとカメラアイにこちらを見つめるヴァージニアの姿が映った。


『ヴァージニアさん! 後をお願いします』


 勝手な事を言ってるのは重々承知だが、今は時間が無い。

 ヴァージニアもそれをわかっているのか、発する言葉は短い。


「倒せるか?」

『おそらく』

「なら任せる。後ろは我々にゆだねよ」

『了解です』


 話のわかる上司で助かる。

 ヨハンはペイルライダーを操って戦場へと戻った。

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