第12話

 私達は、勝者の責任として、砂を噛む思いで、裁判を行いました。

 王国軍の凶行は、この戦いを始めた私達の責任でもあるのです。

 私達が素直に王都で討ち死にしていても、いずれは同様の事件は起こったでしょう。

 それでも、この凶行のきっかけは、私達が作ったのです。


 今後の事を考えて、正義の側に立つように立ち回ってはいますが、馬鹿ではない私達は、責任の一端が自分達にある事を、十分理解していました。

 ほとんどの責任は、このような凶行を許した王太子と側近貴族にあります。

 でも、私達に全く責任がないとは言えないのです。


 だから、せめてもの償いに、復讐出来るようにしてあげました。

 我々にむりやりやらされたという状況を作って、王国軍兵士を殺せるようにしました。

 ろくに訓練をしていない雑兵です。

 王家王国の権威と、武器の力で民を虐めていた者達です。


 辛く厳しい農耕を、その身で行ってきた民は、辛抱強く体力もあります。

 王国軍から奪った食糧を腹一杯食べさせてあげたら、その全力を振るうことが出来ます。

 逃げようとした者は、戦闘侍女達が弓で射殺しました。

 許しを請う者には、御前達は許しを請うた女子供に何をしたのだと言って、住民に報復させました。


 二万を超える雑兵が、住民に叩き殺されました。

 いや、私達にむりやり殺すように命じられ、仕方なく殺したのです。

 王太子と側近貴族の近衛隊と言える二万兵を殺した私達は、王国軍が来た侵攻路を逆にたどりました。


 私達を探そうと、外周部を捜索していた部隊は、散り散りに逃げました。

 王太子と側近貴族が捕虜になったと言う噂を、私達が流したので、これ幸いにと逃げ出したのです。

 何より、近衛部隊が住民裁判で殺された事が大きかったのでしょう。


 外周部の部隊も、大なり小なり住民から略奪していました。

 婦女暴行も横行していました。

 誰だって命は惜しい。

 凶悪犯であればあるほど、自分の命を惜しむのです。


 私達は、莫大な鹵獲物資を運ぶために、引き続き住民を強制徴用しました。

 ただし、ちゃんと対価を払いました。

 王国軍に明日の食糧まで奪われた人達に、食糧と銅貨銀貨で対価を払いました。

 その労働に相応しい対価を払いました。


 これで、次の収穫まで、余裕をもって生活できるでしょう。

 私達は、周辺の住民にも、労働者が必要だという噂を流しました。

 各地から労働者が集まってきました。

 私達も、外周部の王国軍部隊が略奪暴行を行ったところまで、丹念に回ることは出来ません。


 王国軍本隊が、住民から略奪した場所を中心に、逆進撃する事しか出来ません。

 私達も、生きてジェダ辺境伯領に帰り着かなければいけないのです。

 王太子と側近貴族を人質にしているとは言っても、楽観は出来ないのです。

 何時王都で政変があるか分からないのです。


 第二王子以下の王位継承権者が、王都内でクーデターを起こせば、王太子と側近貴族に人質の価値はなくなるのです。

 逆に私達の手で、王太子と側近貴族を殺させようとするでしょう。

 出来るだけ早く、民に富と食糧を返してあげなくてはいけないのです。

 私達自身の心の罪悪感を宥めるために。

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