決着の刻


 力を奪われた双つ影は極度に体力も失い、その場から満足に動けなくなっていた。駅ビルの中で羽山は自分の力が無くなったことを認識して涙を浮かべ、看病している少女に慰められていた。それでも多少は調子を戻したことを安堵した。

 ただ1人、ほんのちょっと前まで双つ影であった少女が1人、駅ビルをあとにしてビルの谷間へと消えていく。自分が出来ることを探して


 同じように並べられた力を同じような力の2人が扱い、巻き添えとなった建築物や地面がえぐれ削られ、崩壊していった先に笹良と閻魔が対峙している。同じように荒く息を吐き、同じように手のひらに炎を浮かべ。


「やれやれ。これじゃいつ決着がつくか判ったものじゃない」


 ぼやく笹良に閻魔は表情を浮かべぬまま、手の中の炎を消して腰を落として構えて見せて、突きだした手の中に槍を握る。


「……そうか。アンタはオレの知らなかった双つ影の力をそれこそ山ほど吸収しているんだったな」


 頬をつたう汗をぬぐい、ふと気付く。そして自然と浮かぶ笑み。


「あぁ。判った。ようやく判ったよ。あの時の秋山の言葉の意味がようやくわかった」


 照れくさく笑って見せて、伸ばした手の中に、刀を創り出す。


「あの時にオレにこれをあずけたんだ。だからすべて……ってことか」


 刀を肩で構え


「アンタの槍はオレが吸収していないものだ。オレの刀はアンタが奪う前にオレが受け取ったものだ。お互いに持ち得ないもの。これなら、終わらせられるんじゃないか?」


「いいだろう。終わらせよう。この闘いを」


 槍の穂先を下に構え、肩で構えていた刀を両腕で握り直す。

 じりじりとお互いに間合いを詰め始め、どちらが先に動いたか判らないまでに同時刻、地を蹴り片方は斬り上げて片方が穂先を突きだし、お互いに行動の結果が狙い通りにならなかったことを悔やむ間など無く2撃を加える。地面が削られビルのガレキがさらに細かく裁断され、この辺りで1番目立って荒廃以前から建っていたビルの足元が大きくえぐられてビルごと大きく傾き始める。そのビルの登頂部分2つに分かれていた先端の内の1つに亀裂が走り出した途端に横にスライドし、数多くの破片をまき散らしながら落下を始める。それに気を取られた笹良の横腹に槍の長い束が繰り出され、引っかけられるように大きく回転を加えられて隣りのビルの根本へと投げ飛ばされる。すでに一階部分しかなかったビルの中程までガレキもろとも埋め込まれ、上空からはビルの一部が今にも地表に落ちてきそうな中、それよりも早く槍の穂先が迫り、それすらも凌いで笹良の視界が奪われる。

 どすっと言う肉を貫く音と、数滴の血液が半身がガレキに埋もれている笹良の顔に飛び散った。それがまったく気にならないように、今見ているものがまったく信じられないように、目の前に立った少女の背中を、槍の突き刺さった背中を見つめていた。


「今の私になにが出来るか……ずっと考えていた。なにも出来ないかもしれない……でも、今ここでキミを死なせるわけには……いかない」


 笹良をかばうように手を広げて、苦しそうに声を絞り出す。その少女を、今自分が突き刺した少女を無表情で見ていた閻魔の表情が微かに変わり始める。


「…………真央」


 思い出したように呟かれた名前に苦しそうにしていた秋月に笑顔が浮かぶ。体に突き刺さっていた槍の穂先が抜かれ、崩れ落ちる彼女を支えようと力を入れて埋もれたいたガレキから体を起こす笹良、


「……父さん」


 小さく叫ぶ秋山、その言葉に本人すら気づかぬ内に涙を流す閻魔。彼女の名を叫ぶ笹良の酒部を覆いかくしてしまうように、上空から落下してきたビルの一角が辺りに散らばった。

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