第9話 回想(4)

結局、ジャックは命に別状はなかったものの、右目はもう一生ものを見ることはできなくなった。

眼球破裂による失明。

小石は、彼の眼球を跡形もないくらいに破壊してしまった。

そんな勢いのついた石が骨を突き破って脳内に到達しなかったって事がむしろ奇跡的だとも聞いた。

当然、警察も介入してくる。

俺も含め、その場にいた誰もが証言した。

あいつは指一本だって自由になってはいなかったと。

なぜそんなことになったか、どう考えてもわからない。

先に手を出したのは向こうなので、バーンは傷害事件の被害者として家に戻された。

この事件からさ。

あいつが自分の感情をまったく表に出さなくなったのは。

喜怒哀楽という感情を全て封印してしまった。

あの日以来、あいつは笑いもしなければ、泣きもしない。

もちろん、怒ることも。

あいつは……。

この事件を自分のせいだと思っていた。

自分の持つ金色の右眼が招いた不可思議な現象が原因だと信じて疑わなかった。

抜け落ちた記憶。

恐怖に満ちた目。

周囲に残る大量の血痕。

どれをとっても5才の子どもにとってはとてもじゃないが耐えられる代物じゃない。

俺だって、しばらく物が食えなかったくらいだ。

おふくろの心配の仕方も尋常じゃなかった。

恐れていたことが現実になったと、親父の胸で毎晩のように泣いていたのを覚えてる。

バーンの前じゃ何事もなかったように、笑って接していたけど。

家に引きこもり、まるで生気が抜けたようになっていたバーンを必要以上にかわいがっていたっけ。

でも、あいつは両親にも関心を示さなくなっていた。

青いカラーコンタクトをつけるように勧めたのもおふくろさ。

Primary School にあがるのに、せめて外見だけでも普通の子どもに見えるようにってな。

あのあと、街では心ない中傷や噂話が大きく広がっていった。

あいつは悪魔の申し子だとか。

人殺しだとか。

きっと何かに取り憑かれているだとか、いろいろと。

6才の秋。

Primary Schoolに入学する。

学校には、あいつの性格上きちんと通っていってた。

けど、周囲の目は厳しかった。

その噂を知ってのことだと思うけど。

誰もあいつのそばには、近寄らないんだ。

先生も同年代の子もみんな。

遠くであいつの様子を窺い、煙たがり、ひそひそ話をする。

あいつはいつも独りでいた。

何をするのも独りだった。

俺もできるだけあいつと一緒にいるようにしていたけど、これはずっと変わらなかった。

俺が話しかければ、あいつも話はするさ。

でも必要以上は話さないし、自分から話しかけるなんて事は、まったくといっていいほどなかった。

そして、二度目の事件が起こる。

まるであいつを、あいつの心を追いつめていくかのように、執拗に。


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