記憶を踏みつけて愛に近づく

赤色にはプチトマト

　初めてのデートには、我が家に伝わる秘伝のレシピ。

　前日から準備したわ。

　貴方が大好物だと教えてくれたからあげを。

　大変だったけれど、食べてくれた貴方が私に笑顔を向けてくれるのが嬉しくて。

　だけど、今の私は袋から取り出した凍ったからあげを電子レンジに放り込む。

　500Wで40秒。

　たったそれだけで出来上がり。

　中のお皿が回る音を聞きながら、大きさの異なる二つの容器に他のおかずを詰め込んでいく。

　今の私を見たら、昔の私はなんと言うだろう。

　手抜きは駄目だと叱るだろうか。過去の努力を台無しにしてと怒るだろうか。

　でもね。

　良いこと教えてあげるわ、お嬢さん。

　大好きなあの人に良く見てほしいと背伸びして頑張った努力の記憶。

　そんな自分を踏みつけて、楽を見出だしそれでも一緒に居たいと思い合えたとき初めて、

『七時ちょうどになりました！　皆さんおはようございます！』

　ニュースキャスターが元気に挨拶してくれて、同時に電子レンジが温め完了を教えてくれる。

　エプロンで手を拭きながら、おそらく同じ寝相となっている二人が眠る寝室へと声を張る。

「起きなさい二人とも！！　会社と学校に遅刻するわよ！！」

　貴女の恋は愛に近づくのだから。