第51話 夫の親友

『俺たちは兄弟みたいなものだから』

夫が常々彼のことをそう言っていました。

高校から40年の付きあいだって言うから、

私は、『ま、いいか』

と思ったんですよね。


余命いくばくもない、

というから、

かわいそうだな、と思って、

彼と寝ました。


兄弟って夫は言ったけど、

確かにそっくりだった。


体温とか、匂いとか、あそこの感じまで、

ほぼ同じ。


まっくらな部屋だったら、

夫だと思ったと思う。


だから私、まったく罪悪感も、

トキメキもありゃしない。


向こうも実はそうみたいね。


なんか悪びれた感じもなく、

私が寝るのがもう、当たり前みたいな顔をしていた。


特別な感動も、感想もなかったみたい。


なんなの。


私、これまで、

浮気なんかしたことなかったのに。

浮気ってもっと、とんでもない、

めくるめく世界へのロケット旅行みたいな

ものだと思っていたのに。


ただ夫と寝ただけみたい。


だからって、また会おうなんて、

甘いわよ。


こんな思いするくらいなら、

夫としたほうがまだいいわ。

だって私の夫だから。


でも私、もう夫とも寝たくないな。

夫と親友は寝ているのよ。

体液が混ざり合っているのがわかった。


昔からそんな気がしていたけれど、

とんだ兄弟ね、

あなたたちって。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る