女のショートショート〜second love~

第26話 巨体のマウンティング女

彼女は本音を隠しているから、あんなに巨体になってしまったのだった。

もう105キロになったという。

しかしもう、私の言葉は彼女には届かない。

何を言っても無駄だった。

巨体の奥に隠れた真実は、もう彼女自身にも探せない。


『今世はただ流れるように生きていく』


野心もなくし、ただ、巨体にブランドものをはりつけていた。

そして、金を配って、若い男に抱かれていた。

抱かれるというのは、妄想だろう。

きれいな若い男と、彼女の行為の想像がつかなかった。


しかし、見たわけではないので、

なにかとてつもないエロスが、そこには展開されているのかもしれなかった。


私は彼女に同情した。

なぜなら、彼女が本当にやりたいことを我慢して

家族のために、家庭を壊さないために、夫を不機嫌にしないために、

良妻賢母を演じていると思っていたからだ。


しかし、それはどうやら、私の浅はかな憶測に過ぎなかった。


一年後、彼女は銀座の一等地に、南ヨーロッパの輸入雑貨屋さんをオープンさせた。

『今世はなにもしたいことなんかしないで流れていくだけ』


そう言って彼女は私を油断させたのだ。

そして私は完全に騙された。


45キロのダイエットに成功した彼女は、

ディオールのドレスを着こなすまでになった。

そして私は、安心しきって、ぶくぶくと太ってしまった。

間もなく、100キロの大台に乗るところだ。


これがあの女のマウントの取り方だ。

命がけで、私にマウントしてくる。


巨体の私は、

さらに命がけで、あの女にやり返さなくてはならない。

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