第19話 恋愛が下手すぎる女 Y41才

どうしたらこんなに下手な女が出来上がるのかと私は思う。

恋愛に上手とか、下手とかあるのか?

ある。


Yを見ていると思うからだ。

『下手すぎる』って。


まず、スタートの時点で、Yは下手だ。

なぜなら、優しすぎる。


Yは、こう言う。

『ジャガイモの芽が出ると、

かわいそうになって、

生ごみとして捨てられない。

だからあたしは、夜中にこっそり畑に埋めに行くんです。

バイバイって』


これがYのすべてを物語っているように私は思う。


(ジャガイモの芽は、くりぬいてしまえば、

食べられるよ。

芽が出たからって、食べてもらえない方が

余計にかわいそうだよ)


そんなことは、Yには言えない。


せっかくの慈愛に満ちた彼女のエピソードを、

私はせめて守ってやりたかった。

なんとなく彼女の下手さ加減をわかってもらえると思う。


Yはまず、必ず女ったらしに引っかかる。

寝た後に冷たくなるタイプの男を好きになってしまう。


『すごくかわいくて、きれいな顔なの』

というけれど、

申し訳ないけど、大したことがない。

『あたしは面食いなのが欠点』と

言う。

それは違うよ、と言いたい。


Yはとてもきれいな顔をしている。

犬のコリーのような整った目鼻をして、

恵まれた黒髪を、腰まで伸ばしている。

一見、すこぶる『いい女』だ。

だけど、そのジャガイモを夜中にバイバイしにいく、

不器用さが、あだになる。


ただ、不器用な割に、性に貪欲である。

節約家のYが、片道千円もかけて、

10才も年下の男に抱かれに行く。

『若いからものすごい』らしい。


抱かれた後で男はYに言うのだという。

『この辺、知り合いが多いから、

離れて歩け』

『俺の友達で、いいとこのお坊ちゃんがいるんだけど、

紹介しようか』

『俺は誰とも結婚しない』


クズの言いっぷりに私は聞いていて顔がゆがんだ。

(なにそれ)

(ふざけないでよ)

色々と言いたかった。


だけど、Yは、そんな言葉も慈愛に満ちて受け止める。

『彼は、人を信じられない生い立ちなのね。

だから、あたし、いつも癒してあげてる。

彼の知らないこと、たくさん教えてあげてる』


Yがあまりにも幸せそうで、

日々、きれいになっていくから、

私はそれでいいと思っている。


だって、恋愛ってそういうものでしょう。

下手だろうが、何だろうが、

Yは今、この世でもっとも好きな男に抱かれているのは事実なのだ。


きっと、三か月もしたら、

また、前みたいにYは泣くだろう。


私は、『好き』と言ってくれる男としか付き合わない。

それが多少タイプと違っても、とりあえず、ご飯にはいく。

とりあえず、車で送ってもらう。

だけど、好きじゃないから、

面白くもない。

最後には男を傷つける。


じゃあ、それが恋愛上手なんですか?

Yに聞かれたら、私はなんだか違う気がする。


『好き』と言われて大事にしてくれそうだから、

それほど好きでもない男と結婚をした。


抱かれることもなくなった。

今、こうして、人生をしらけ切って歩く私は、

恋愛上手なんかじゃない。


待って待って。

ひたすら恋愛を繰り返すYって、

もしかして、恋愛上手なのだろうか。

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