第31話 中里毅

病室の天井が見える。


生きていた。

良かった。


いや一概にそうとは言えない。


俺たちはあの事故の後、後続車の運転手の男性に救急車を呼ばれ病院に担ぎ込まれたらしい。


全員違う病室なのが救いだった。


俺はもう織絵とはやり直せないだろう。


未練がないと言えば嘘になるが、不倫の事実を知ってしまってからではもう同じ屋根の下では暮らせない。


よりにも寄って志村などと。

まだ山口とデキていた方がマシだったかもしれない。

「あんな稼いでる奴だもんな」と折り合いが付いたかも知れない。


それが自分より遙かに収入の劣る介護士の志村に我が妻を寝取られたとなれば、それはもうスペックで負けたのではなく「男性」としての敗北を突き付けられた様で余計に絶望感がある。


今は織絵への怒りで何とか繋いでいる。

とりあえず不倫の物証を掴む為に、織絵よりも早く退院して探らなくては。

ただでは転びたくない。

男をなめるな。

あの家から追い出してやる。キッチリ取る物も取ってやる。


しかし何より山口には悪いことをした、様な気がする。

まだ表だって何をしたわけではないが疑って悪かった。


俺は胸骨が折れ、破片が肺に刺さっていたと医者は言う。

舌も噛んでいた様で数針縫ったらしい。


しばらく言葉での意思疎通が出来ず、しかも流動食と言うのが悲しい。


数か月は入院させられるだろう。


正直数か月後、あの住宅街に戻るのかと思うと気が滅入る。

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