グルメが口にしようとしている越餡子と御手洗団吾の何気ない会話。 黒銘菓短編集75弾

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

私は越餡子。見ての通りのこし餡よ。




僕は御手洗団吾。見ての通りのお団子。








僕と私は今、皿に載せられてグルメさんに食べられる寸前だ。


でも、食べられる前で暇だったから、話しているんだ。














「越さん…」


「何?団吾君?」


「最近さ……土用の丑の日あったじゃない。」


「有ったわね。鰻を食べる日でしょ?でも…私達と関わりって無いでしょ?だって鰻使った甘味なんて……」


「パイは有るでしょ?」


「……あぁ、あったわね。」


「ソコじゃないんだ。丑の日に思ったのはさ…扱いの違いなんだよね。」


「何の?」


「鰻と団子の。同じ串系なのに扱いの差が酷いんだよね。」


「そう?」


「そうだよ。だって、向こうは『串打ち三年、割き八年、焼き一生』って言葉があるでしょ?


しかも、土用の丑の日って言って皆こぞって鰻を食べるんだよ?」


「あぁ、聴いたことが有るわね。」


「でもさ…団子には無いんだよ!そういうの!」


「だって割かないから…それに……団子を食べる必要のある有名行事も無いし……」


「でもさ、良いじゃない。そういう言葉あっても。『串打ち三年焼き十年水加減一生』みたいなの。有ってもいいじゃない『団子を皆がこぞって食べる日』。」


「団子屋さんに頼みなさいよ。」


「一時期は団子の歌が一世を風靡したのにさ。今はもう下火だよ。


団子屋さんだけだと厳しいよ。」


「それを言ったら私もよ。


この前、新宿の一個十円の饅頭の中の餡が言ってたの、大学生が買って行ったんだけど、『若い人が買うのは珍しい。』ってお店の人が言ったのよ。珍しいって言葉聞いて哀しくなってきたわ。」


「残念ながら…そうかもね。残念ながら和菓子はタピオカに人気を取られているしね。」


「団吾さんは成分だけ見たら同じ筈なのにね。」


「米で出来た粉か、キャッサバで出来た粉か。ってだけで、炭水化物に違いは無いのにね。」




「僕は餅つきマシンに殴られて、挙句串刺しにされて、止めに火炙りの目にあって………。」


「私は銅鍋で釜茹で。しかもその状態で隠し味に塩を顔に撒かれて……しかもその後で濾される……ハァ。」








「「お互い苦労が絶えないね。」」








「和菓子だって映えるのに。」


「餡子さんの練り切り。栄えの極致みたいなスイーツなのにね。」


「団吾さんだって、食べ歩き性能に関してはチーズドック以上なのにね。」




「「もう少し、和菓子に目を向けて欲しいなぁ。」」
















 しかし、和菓子達の会話は人には聞こえない。


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