第22話 やっぱかっこええ子はちゃうわぁ
「じゃあ、どこから話そうか」
アルフレッド、和夫、拓郎そして風呂からちょうど帰ってきた祐奈の四人はまたリビングに戻ってきていた。
光沢のあるダークブラウンの木製テーブルを囲み、周りに配置されたソファに座っている。
重い話を聞いて若干テンションの下がった和夫は仕方なくノリスを見つめる。
若干テンションの上がった拓郎は風呂上がりで若干湯気の立ち昇る祐奈の首元をチラチラと盗み見る。
「……どこから言うてもやな、俺ら何がなんやらサッパリやで。ジブンがアルフレッドさんに何したんかもわからんし、何でそんなんしたんかもわからんし、何で俺らに話すんかもわからんしやな……」
両手を広げて、『そういわれても困る』のジェスチャーをする和夫に祐奈がかぶせ気味に言う。
「なあ、いっこ聞いていい?」
ニコニコしている祐奈に、ノリスはゆったりとした様子で返す。
「何かな?」
「ドライヤーある?」
和夫は額に手を当てて俯く。
「……お前すごいな」
しかし、ノリスは全く気にしていない様子で微笑んで言う。
「いいよ気にしなくて、っていうかドライヤーって?」
「え? ドライヤー知らん? 熱い風ぶわーってなって髪の毛乾かすやつやで?」
「なるほど、女の子だもんね。ちょっと待ってて?」
そう言って立ち上がると、ノリスは奥の棚の方へと歩いていく。
「……なんかすまんの」
「いいよ、ちょっと待っててね」
ノリスはひらひらと片手をあげて応えた。
「やったーありがとう! やっぱかっこええ子はちゃうわぁ」
「……ある種羨ましいわ」
☆
「うわぁ、なにこれすごいやん! コンセントないのにめっちゃ風出るやん、ええなー、ええなー」
ノリスが持ってきた器具を触りながら祐奈がはしゃいでいる。ノリスが持ってきたものは何やら陶器のようなものでできた筒で、祐奈が軽くポンと叩くと風が吹き出した。
「何個か持ってるからよかったらそれあげるよ」
「ホンマ? ありがとー! ちゅーしたろか?」
「……あはは」
むちゅー、と唇を突き出すポーズをする祐奈にノリスは苦笑いする。それを見た和夫は申し訳なさそうに手を合わせ、
「すまんの、そしたら話してくれや」
「別にヤバいことなるんやったら上に報告もせんしやな」
この少年を陥れてまで金を手にするのはなんだか嫌だ。
何やら訳ありのようだが自分たちを信用してくれているし、最初の敵意めいたものもこれまで自分を守るために仕方ないものだったのだろう。
そう思うくらいには和夫はノリスに好感を抱いていた。
「そっすよそっすよ」
拓郎は軽い様子で同意を示し、祐奈は一生懸命髪を乾かしている。
「――じゃあまずはじめに、僕はアルフレッドに所有されている奴隷なんだ」
「はぁ」
拓郎はわけがわからないというふうにキョトンとする。
彼には奴隷と言われても、歴史の教科書に出てきた可愛そうな人というくらいのイメージしかないし、そういった社会の仕組み自体嫌いなのであまり深く知ろうともせず歴史の授業も聞き流していた。
一方和夫は先ほどの会話の節々とアルフレッドの様子を思い出していた。
調査しにくる人間を警戒すること、弱りきったアルフレッド、それをノリスがやったということ。
そのあたりの情報が頭の中をグルグルと回る。
「いや、なんかそんな気はしてたわ。けどよ、俺らあんまそのへん、……奴隷がなんちゃらの法律がどうとかすらようわからんねんほんまは」
「……調査の仕事をしているのに?」
ノリスは侮蔑ではなく、親近の念を匂わせて嘆息する。それに対して和夫は頭をポリポリと掻くと、
「まあワケありでよ? そういう書類チラっとは読んだんやけどな」
「奴隷は誰かの所有物、法的に物扱いやってことと、例外的に性的な欲求の捌け口として利用してはいけないということと、あと暴力、命の危険を伴うようなものとそれを匂わして脅すみたいなことはしたらあかんってくらいしか知らんねん」
「なるほど、けど、大体それがすべてだよ。……法的な部分はね」
「……せやろな、そらぁなんでもかんでも法律通りにはいかんわな。俺の地元でもわりとそうやったし」
「そっすよねー」
「こいつと初対面の時も法を犯しとったしよ」
ふいに話を振られた拓郎は拗ねたように、
「……もうそれはいいじゃないすか」
二人のやり取りを見てノリスは少し微笑んでから一度頷くいてから言う。
「じゃ、僕の生い立ちから話そうかな、それで奴隷がどういうものなのか、どう扱われる存在なのかもある程度分かると思うし」
「おう、それで頼むわ」
「うん、ありがとう、僕は……」
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