第3話 物乞いへの第一歩

 家賃が払えないことが発覚してから数時間後、二人は途方に暮れながらも、妙案は何も思いつかず、とりあえず外へ出かけることにした。


 阪神尼崎駅、通称「阪尼」。やたらとパチンコ屋の多い商店街や、安くてうまいホルモン屋、6畳くらいしかないショボい違法カジノ店などに囲まれた、非常に素敵でスパイシーな場所である。


 二人は途方もなく歩き回り、とりあえずこの駅前にやってきた。


 時刻は午後5時。沈みかけの夕日が11月の澄んだ空気とともに、活気にあふれた商店街を優しく包み込んでいる。しかし、2人にその優しさに浸るだけの余裕はなかった。


 ギラギラとした目で只前だけを睨みつけ、幸せそうにする家族連れや、パチンコに負けたのであろう意気消沈した様子の中年男性をかき分けながら、あてもなく進み続けていた。


「なあ、この商店街に人間何人くらいおるんやろな」


「……さー、1000人くらいちゃう?」


「んならよ? 一人頭俺らに35円ずつくれたら家賃払えるやんけ、それくらいやったらちょーだい言うてもカツアゲちゃうやんけ」


「ほんまやん、楽勝やん、カズくんはともかくあたしかわいーからそんくらい絶対くれるやん」


 もちろん、1000人もの人間に金銭を要求するという行為は時間的に不可能であるし、1000人全員が怪しみもせず、見ず知らずの胡散臭い男女に金銭を受け渡すなんてありえない話だ。しかし、今の二人にはそれに気付けるだけの精神的余裕はない。


 和夫は、普段ならば何かしら苦言を言いたくなる祐奈の自画自賛発言を完全にスルーし、とてもいい笑顔で言った。



「最高やんけ」

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