第10話 マイノリティ

 学級で何かを採決した後で、先生が「でも、少数の意見も大事に考えなさい」なんて言ったりしなかった?

 先生の言っていることは、それこそ、大事なことなんだろうけど、小学生や中学生で「大事にする」って難しいと思うんだよね。じゃあ、具体的にどーすりゃいいのよ?って。

 いろいろ意見を出した後に、それでも、多数決で決めることになって、そんで、多数の意見が採用されてみんな喜んだり、ホッとしたりしているときに、この先生の天からの言葉は、水を差す以外の何物にも感じなかったもんだけどなあ。


 俺が先生だったらさ、少数派への慰め半分のような天からの言葉を言うんじゃなくて、決まった後でも、少数派の意見の中身を取り上げて、その良さや有効性を褒めるけどなあ。少数派の意見を褒め続けることで、「あったり前田のクラッカーじゃん!」って思っている多数派の見方が少しずつ変わっていくような気がするんだけどなあ。


 でも、甘いか。


 子どもなんて、多数派に居ること自体が掟、学校で安住できる唯一の生きる術だったりするものな。先生だって、羊飼いのように棒で追い立てたり、牧羊犬に吠えさせたりしながら多数の羊を同じ所に移動させられるようなやり方の方が合理的でやりやすいもんな。一頭、違う方に行ってると「お前だけだぞ!こんな所に居るの!ほら、みんな見てみろ!あっちで草食ってんだろ!」って言うもの。そんなのを日常茶飯事子どもに聞かせているのに、こんなときだけ「少数意見を大事にしなさい」ってなんか言ってるわなあ。


 大人の世界って少し違うでしょ。議会以外の働く場所での決め事って、挙手の多数決じゃなくて、意見が出された雰囲気でなんとなく多数の同意の空気がわかって「じゃ、そういうことでいいでしょうか…」みたいに、リーダー格の人が遠慮がちにまとめて決まる、みたいな。でも、まあ、少数、多数、関係なく意見は述べさせてその空気をみんなに読ませる手順は踏むし、互いの意見を折衷させたりもするし、多数意見だったはずの人が少数意見の良さに気が付いて「それ、アリだな」とか言うのを始点にして逆転することだってあるし、ね。


 俺? 俺は、どっちもあるよ。多数派も少数派も。あ、でも、子どもの頃なんて陰キャだから完全に多数派、ね。いろいろ経験してきて、酸いも甘いもわかるようになって、初めて、堂々と少数派になれるのよ。挙手しろって言われれば、そりゃもう、腕をピッとまっすぐ伸ばして少数意見を主張しますよ~! 逆転? う~ん、そこまで人の気持ちを変えさせるほどの力は俺には無いなあ。

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