死神のハナコトバ

赤坂 コウ

一章 彼女との出会い。「ハーデンベルギア」


午時葵。


午後のわずかな時間だけ咲き、夕方にはしおれる花。


この特徴から花言葉は「私は明日死ぬだろう」と言われている。


人生に永遠などはない。いつかは終わりを迎える。


その終わりとは一年後なのかもしれないし、一か月後なのかもしれない、


それとも明日なのかもかも。


そうこれは他人事ではない、誰もが当事者なの



  一章 彼女との出会い。「ハーデンベルギア」



残り――――三十一日


 例えば、そう例えばの話、突然自分の前に「死神」が現れ、数日後に君は死ぬことになると告げられた時には、まず驚きを隠せないでいるだろう。

それとも君はこの話を信じないかもしれない。

これから起こる実体験がなければこんな話、僕を耳を疑ったことだろう。

だがお願いだ、今から綴る内容はすべて本当にあったことなのでどうか信じてほしい。


 僕は、どこにでもいる普通の高校生だと思う。毎日七時には起床し、八時二十分には学校に着く。人並みには勉強をして大学へも進学するつもりだ。

授業が終われば、部活に入っているわけでもないのでバイト先に向かうだけの日々。唯一の楽しみといえば本を読むことぐらいだ。

ただ他の人達と違うところがあると言えば胸に大きな傷があるということくらいだ。僕にはこの傷についての記憶はないんだが聞いたところでは昔、交通事故にあいその時にできた傷だそうだ。今となっては別に大した問題ではなかった。

だが、そんな平凡な日常が崩れるのには、前触れなんていらなかったようだ。

いつものように、学校から帰宅している帰り道の時だった。あの人が僕の前に現れたのは。

初めに彼女は自分のことを「死神」だと名乗った。

それは、本や物語で聞いたことがあった、確か死をつかさどる者だったか。

見たところ歳は僕と同じか一つ下くらいだろう。

例にいう「死神」は突然、「君はここ東京都に生まれ東京で育ち、この家から二十分圏内にある岾桜高等学校に通う二年生の宝田たからだ 隆樹りゅうきさん 十七歳、母親は病気ですでに他界、父親は妻が亡くなったショックで仕事もろくに手に着かず挙句、自身も病気にかかりその期に辞職」

「ちょっ、ちょっと待てよ、勝手に人の素性をぺらぺらとそれにそのことをどこで聞いたんだよ」

「どうしました?ここまでで何か間違いはありましたか?」

「間違い?いやないけど」

この人僕の話を全然聞いてないな。

「それでここからが少し分からないんですが…仕事を辞め病気で亡くなられたのが去年の四月、ちょうど隆樹さんが高校に入学されたころですよね?」

「そうだけど、どこに分からないところがあったんだ?」

「父親が亡くなりどうして急に借金だけが残ったのかというところです」

この人、学校の人たちも知らないことをなぜこんな子が。

「病気にかかり亡くなるまでの約半年の間一体何があったんですか?」

「そのことについては君にはいや、君以外にも誰にも一切を話すつもりはない」

「そうですか分かりました。最後にもう一つだけ、その胸にある傷についてなんですが…」

この人は一体どこまで知っているんだ。

「悪いが、この傷については僕にも分からないんだ。

僕もその時の記憶がなぜか思い出せなくて、両親からは交通事故で負った傷だとしか聞かされてないんだよ。それとさっきから聞いているけど、この傷を含め君は僕の素性をなぜそこまで知っているんだ?それを知って一体何をしたいいんだ?」

「そうでしたね、話が少しそれましたけど…

突然ですがあなたは一か月後の今日死んでしまうことが決まりました」

この子は多分、少し、ほんの少しバカなんだ。

僕の素性をいきなり話すと思ったら次は僕が死ぬ?しかも一か月後に、そんな現実味のない話いや馬鹿な話を誰が信じるって言うんだ。

でもだとしたらなぜ、僕の通っている高校や名前、年齢、両親のことそれに借金のことまで知っていたんだ、この子は一体どこまで知っているんだ?

「仮にだ、君が言っていることが本当の話だとしよう、だったら僕はどうやって死ぬことになっているんだ?病気か事故死か、それとも誰かに殺されるとでも言うのか?死神の君にはそれが分かっているんだろう。どうなんだ教えてくれないか」

「申し訳ありません。

そちらをお教えすることはできません。それにそのような内容を調べるのは別の専門機関が担当でして、私たち死神には詳しいことは知らされていません」

「なら、その死を回避する方法はないのか?」

「申し訳ありませんが、これらはすでに決められた未来の話ですので。」

彼女はきっぱりと言い切った。

これまでの話が嘘である可能性はないとは言えない、だが僕には彼女が嘘をついているとはどうしても思えなかった。

それと僕は今、突然の死の宣告を受けているにも関わらず、不思議となんの感

情も出てこなかった。悲しみ・怒り・悔しさそんな感情が出てもおかしくはないこの状況、なのに何故だろう。

でもよく考えるとそんなにおかしなことではなかった、僕の今の日常には生きる意味があるのかさえ疑問だった。ただ両親が残していった借金を今月も来月もその翌月も返済をするだけだった。いつになったら返して終えるのかも分からない。

ただ一日一日を乗り越えるのが精一杯の毎日。

「死神」が聞いてきた、「残りの一か月間どのように過ごすつもりなのか」と

僕は答えた「特別なことはないさ、一か月後に死のうが一週間後に死のうがただ死ぬまで借金を返していくだよ」

「もう少しましな答えが返ってくると思っていました。

これまでもいろんな人を見てきました。家族や恋人に別れを言う人や最後だからと言って仕事をやめ豪遊する人、なのにあなたは今までの人と違うようですね」

「それは僕のことを褒めているのか?それとも欲がない奴と呆れているのか?」

「どうでしょう、どちらでもない気がします」

「僕も君に質問したいことがある」

「はい、なんでしょうか」

「君はなぜ僕の前に現れたんだ?僕が死ぬにしても、わざわざ伝えに来る必要はない。そうだろう」

「確かにその通りですね。もし伝えるだけならですが」

「それはどういう意味だ」

「君がそこに気づかなければ話すつもりはなかったのですが。あなたは選ばれたのです。数いる死にゆく人の中から、死神の助手に」

死神の助手?なんだそれ。死神が何をする仕事かも分かっていないのに助手だなんて。

「選ばれたと言っていたけど僕に拒否権は…」

「もちろんありません」

「残りの人生を何もしないで過ごくらいなら時間を有意義に使ってみてはいかかがですか?」

僕は確かに何もすることはない。だが、なぜ僕が彼女の手伝いをしなければならない。ましてや助手なんて。

「それでは、明日の放課後に迎えに来ますので」

「いきなり明日からなのか?」

「もちろんです。善は急げとも言いますし」

死神の仕事が善なのか?どちらかといえば悪なのでは?そう思ったが本人そんなことは言えなかった。

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