君といつまでも

ひろきち

短編:君といつまでも

近所に住んでいた同い年の幼馴染"三上佳那"と俺"長谷川拓也"

ドラマやラノベにある様な、どちらかが美男美女というわけでもなく、ごく普通の男女だったが、幼稚園、小学校と常に一緒に成長し、中学の頃お互いを異性として意識し始め俺から告白し付き合うようになった。

高校の時お互い初めて肌を交え、大学卒業後に両親や友人たちからの祝福を受けつつ結婚した。

「おじいさん、おばあさんになってもいつまでも仲良しでいようね」

そんな佳那の言葉に赤面したのを覚えてる。


実家近くのマンションを借り新婚生活はスタートした。

俺は佳那を守るため一生懸命働いた。そして、家計を助けるため佳那も家の近くの設計事務所に就職し働いていた。

少ない給与であまり贅沢は出来なかったけど幸せだと思っていた。

あの日 佳那に裏切られるまでは。。。


****************

結婚して1年。

俺は仕事が忙しいながらも家事全般が苦手な佳那の代わりに食事や洗濯・掃除など家事をこなしていた。

その分佳那も遅くまで働いて家計を助けてくれていたわけだけど、ある頃から俺への対応が素っ気なくなってきた。


「最近仕事遅いな。」

「仕方ないでしょ。納期とかもあるし」


確かに佳那が努めているのは設計事務所で納期もある。ただ、佳那は事務。そこまで影響されるとは思えない。

それに夜俺が求めても疲れてるからと応じなくなっていた。

疑いたくはなかったが、何処か不安になり、自分の仕事が早く終わったある日、仕事帰りに佳那の勤める設計事務所の方に向かった。


そして、事務所近くの交差点で腕を組んで歩く佳那と男を見てしまった。

"まさか"と思った。

俺は押し寄せる吐き気と眩暈を抑えながら気づかれないように二人の後をつけた。二人は楽しそうに駅近くの繁華街にあるラブホテルに消えていった。

一番起きて欲しくなかったことが現実となり俺は絶望した。

信じていた愛する妻が浮気をしていた。


俺はホテルが見えるカフェに入り二人が出てくるのを待った。ブラックコーヒーを飲み、少し気持ちも落ち着いた。

いつも24:00近くに家に帰ってくることを考えると23:00過ぎには出てくるはずだ。コーヒーで気分を落ち着かせようとは思うが、ホテルの中で佳那と男の情事を考えると死にたくなった。

そして23:00を少し過ぎたところで、佳那と男が入り口から出てきた。

俺は、カフェから二人がラブホから出てくる写真を撮ると、会計を済ませ佳那達のもとへ向かった。


「佳那!」

「た 拓ちゃん。なんでこんなところに?」

「佳那と外食でもと思って事務所に向かってたら、その男と腕組んで歩いてるところ見かけてね。後をつけてきたんだ。

 で、そいつとはいつから付き合ってるんだ?」

「拓ちゃん 何か誤解してるよ・・・」

「何が誤解なんだ?二人でラブホに入って休憩するのは仕事なのか?」

「・・・・・」

「なぁ隣の人。あんたは佳那の勤めてる会社の人だろ?

 佳那とはどういう関係なんだ?

 遊びか?それとも真剣に交際したいと思ってるのか?」

「私は佳那さんの勤めてる会社の代表で会田剛です。

 佳那さんには事務として仕事の補佐をしてもらってました。

 あなたという人が居る中で言いにくいことではありますが、私は佳那さんを愛しています」

「そうか。遊びではないんだな」

「もちろんです」

「佳那。お前はどうなんだ。

 ここ最近の様子だと俺よりもこいつの方のことが好きなんだろ」

「・・・・・ごめんなさい」

「・・・・・そうか。お前はそれで幸せになれるんだな?」

「・・・・・」

「わかった。佳那 俺と別れよう。今までありがとう愛してたよ。

 親父たちは俺から話をしておく。離婚届もお前の親に渡しておくから好きに処理してくれ」

「えっ?」

「会田さんだったっけか。

 俺じゃ役不足だったみたいだけど、佳那の事幸せにしてくれよな」


と俺は佳那と会田を置いて駅に向かった。

佳那達は呆然と立ち尽くしていた。


地元の駅に着いた俺は自宅には帰らず、歩いて5分程度の距離にある実家に向かった。

かなり遅い時間ではあったが、重要な話だからと隣に住む佳那の両親も呼び今日起きた出来事を話した。


「佳那が申し訳ない!」


と俺に向かって佳那の両親が土下座してきた。


「頭を上げてください。佳那のしたことは許せません。

 だけど、俺は佳那が納得できる幸せを与えてあげられなかったんです。

 そして、会田はその幸せを佳那に与えられた。俺がただ甲斐性なしだっただけなんですよ」

自分で言ってて段々悲しくなってきた。

大好きで大切にしてきた幼馴染の佳那。

幸せな結婚生活と思っていたけど、それは俺一人で思っていただけだった。

そして、急に現れた男に佳那は・・・・

やばい、何だか泣けてきた。。。


「とにかく。俺と別れて会田と一緒になることで佳那が幸せになれるというなら俺は身を引きます。

 それが俺から佳那にして上がられる最後の贈り物です」


俺の両親も佳那の両親も何も言わず悲しい顔をしていた。


後日、仕事を終えて家に帰ると部屋から佳那の荷物がなくなっていた。

そしてポストには「今までありがとう」と掛かれた便箋と部屋の鍵が入っていた。

俺は滅多にお酒は飲まないけど、この日は部屋で朝まで飲んだ。


「サヨナラ佳那」















*************************

あれから3年がたった。


会社では俺も中堅社員として役職も付き、責任のある仕事も任せられるようになった。遣り甲斐も感じている。

もちろん以前より給与も増え生活に余裕も出来てきた。


別れた後の1年はどうしても佳那の事を引きずっていた。

別れは一瞬だけど、一緒に過ごしてきた25年はすぐには忘れられない。

小さなころの思い出も、学生時代の友人たちとの思い出も全て隣には佳那が居た。ふとした事で思い出してしまう。そんな簡単には忘れられないよな。


でも、ようやく最近は佳那を意識せずに済む様にはなってきていた。

当時色々と相談に乗ってくれた上司からも、

「まだ若いんだし、新しい彼女作ってみたら?紹介するぞ」

等とも言われたが、正直人間不信気味になっていたこともあり、ありがたいお話ではあったが丁重にお断りした。


そんなある日、見たことのないアカウントからメールが届いた。

[お願い。一度でいいから会って謝らせて]


『何だこれ』差出人不明のメール。

気味が悪いのでしばらく放置していると新たなメールが着信した。

[無視しないで。お願い 拓ちゃん]


・・・・・後にも先にも俺のことを"拓ちゃん"と呼んでいたのは佳那だけだ

俺がメールや電話の着信を拒否していたから別のアドレスでメールを送ってきた様だ


何で3年も経って今更と思ったし正直会話を続ける気も無かったが、無視をしても着信拒否にしてもと諦めないだろうと思った為、


[今更謝罪は不要。会う必要もない]

と返信をした。

するとその後、少し間を空けて、俺と別れてからの3年を語るメールが淡々と送られてきた。

自業自得だし同情するつもりはないが、それなりに苦労はした様だ。

---------------

俺と別れた後、両親から絶縁を受けたこと

そして、会田の両親に挨拶に行ったが良く思われなかったこと

#まぁ会田が佳那を寝取る様な形でもあったしな

その後、会田と結婚し妻として不自由なく贅沢な暮らしをしていたが、結婚から約1年後、事業に失敗し会社経営が破綻したこと

住んでいたマンションも売り小さなアパートでの貧乏生活となったこと


会田は再起を掛けて仕事に打ち込んだが、家事全般が苦手で、悪く言えば可愛いだけが取り柄だった佳那に対しての文句も多くなり次第にDVへと発展していったこと

結婚生活1年半。最終的に家庭裁判所を頼み逃げるように離婚したこと


お金になるものを全て売り、わずかながらのお金と荷物を持ち実家近くのアパートで1人暮らしを始めたこと

#実家からは絶縁されていたが、生活に疲れ長年住み慣れた地元に戻ってきてしまったとの事だった。

そして、1人暮らしをはじめ、ようやく自分が1人では何もできない事や拓也にいつも助けられていた事に気が付いたこと


そんな中で、捨てたと思っていた拓也と幸せな結婚生活を送っていた頃の写真を見つけ、あらためて後悔の念の駆られたとのことだった。


"何であんなに優しかった拓也を裏切ったのか"

"両親や友達を捨ててまで彼の元に行く価値があったのか"


今更許されるとは思っていないし、自己満足なのかもしれないけど、ただ一言謝りたいとの思いが募りメールしたとのことだった。


---------------

正直、自分勝手な話である。

俺の気持ちやおじさんたちの気持ちも考えられてない。

本人も認識しているが、本当に自己満足だ。


ただ、俺のことはいいとしてもおじさんたちには佳那と仲直りしてもらいたいという思いはあった。

おじさんたちは、俺に義理立てして娘との縁を切ったんだ。

あの溺愛していた佳那をだ。

この間久しぶりにおじさんと会ったが、老けた様にも見えた。小さいころから良くしてくれたおじさんであり短い間だったけど義理の父母でもあった人たちを悲しませたくはない。

だから俺は佳那に返信した。


[俺に謝罪する前に、佳那の為に土下座までして俺に謝罪した自分の両親の許しを得るのが先じゃないのか]


と佳那から返信があった。

[そうだよね。お父さんたちにも謝らなきゃだね]


それから数日後、おじさんから電話があった。


「拓也君。昨日佳那から数年ぶりに電話があったよ。

 私たちに謝罪したいから会ってほしいと。」


*************************

そして更に1年が過ぎた。

今、佳那は実家に戻り近所の会社で事務の仕事をしている。

ご両親に誠心誠意謝罪し、家に帰ることを許されたそうだ。


俺に関しても一度会って謝罪を受けた。

正直今更な思いもあったが、夫婦や恋人では無く、幼馴染としてならもう一度関係を築いてもいいと答えた。

我ながら甘い奴だとは思ったが、それでも佳那は泣きながらお礼を言っていた「ありがとう」と。

会社の上司や友人たちからもお人好しとからかわれたな。。。


佳那は離婚した段階で家族では無くなったけど、幼馴染枠は健在だ。

それに長年連れ添った幼馴染はある意味家族みたいなものでは無いかと最近思う。佳那と会田と話しをしたとき"佳那が幸せになるなら"と身を引いたのも家族としての愛情だったのかもしれない

今、佳那に対する気持ちが家族に対する愛なのか、未練なのかわからないが今の俺は"幼馴染としてなら"という答えが精いっぱいだった。


ちなみに復縁することは無いと伝えているはずだけど、毎朝弁当を届けてくれている。実家に戻ってから毎日おばさんに家事全般を今更ながらに習っているそうだ。

夫婦だったころは一度も弁当なんて作ってくれたこと無かったんだけど本当皮肉な話だ。まぁ佳那としては贖罪の意味も兼ねての行動なんだろう。


でも、佳那が家に戻り、おじさんたちも少し元気になった気がする。

色々とあったけど、やはり娘は可愛いんだろうな。

うちの両親も毎日朝早くに弁当だけを届けて帰っていく佳那に少し同情はしているようだ。小さいころから知ってるから余計にね。

また、佳那なりのけじめなのかもしれないけど玄関から先には今だに入ってこない。一度は長谷川の家に嫁入りしたわけだけど、嫌な思いをさせたということで、家には入れないってことらしい。

正直そういうの俺も両親も気にしないんだけどね。。。


この関係がいつまで続くかはわからない。

ただ、佳那もまだ30前だ。

もし好きな人が出来て、付き合い結婚するようなことがあれば、俺は素直に幼馴染として祝福したいとは思っている。


俺は佳那が幸せでいることが何よりもうれしいのだから。


追伸:

俺自身は正直、恋人とか結婚とかはもうこりごりだ。

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