26 その後の行動

 後になって、口寄せが行われた十二時直後から二時過ぎまでの、約二時間こそが、第一の殺人の犯行推定時刻であったことが判明した。したがって、この時刻の容疑者一人一人の行動を、今こそ正確に描写してゆくべきなのかもしれない。しかし、それは後の警察の捜査に伴って、説明することとしよう。

 そもそも、この時間帯は、誰がどこで何をしていたのか、極めて不透明なのであった。それは口寄せの後に、各自が自由行動、自由解散ということになったからでもあった。

 それでも、大まかに述べておけば、ちょうど口寄せの直後から、祐介は、月菜があのまま別室に寝かされたままになっていると信也に伝えられて、彼女が目覚めるのを、彼岸寺の居間で待っていた。

 また、日菜と絢子は、話があるということで、二人して彼岸寺を降りていったということである。

 そして、善次と尾崎蓮也は一旦、自宅に帰宅したようだった。

 信也はというと、月菜が目覚めるのを居間で待っていて、その間は、法悦和尚と話をしていた。胡麻博士は、教え子の里田百合子と口寄せについて話し込んで、そのまま、彼岸寺の近くにある五色村資料館へと仲良く歩いていった。

 根来といえば、祐介と同じく、狐につままれた気分で、とりあえず、自分も月菜が目覚めるのを居間で待つことにしていた。

 しかし、口寄せの後の月菜はすこぶる不安定な状態になるので、会話をすることは認めらないということであった。それでは、この場でずっと待っていても無駄である気もしたのであった。

 そうこうしている内に、時計が回って、午後二時となり、信也は月菜の様子を見るために、別室へと向かった。

 信也は戻ってきて「月菜が目覚めたようです」と告げた。それを聞いて、祐介と根来はすぐに月菜さんのいる別室へと向かった。

 別室には、布団から上半身を起こして、ぼんやりとしている月菜がいた。


「月菜、一体何があったか、覚えているか?」

「ううん、何も……」

「そうか……」

「ねえ……お母さんは、おりてきたの?」

「ああ、おりてきたよ……」

 信也はそれでも複雑な心境らしく、悲しげに俯いた。そして、月菜をしばらく、そっとしておいてあげたいと思ったらしかった。

「法悦和尚。すみません。もう少し、月菜をここで休ませてあげたいのですが……」

「わしはかまわんぞ……」

 法悦和尚は、少し微笑むとそう言った。

 月菜を別室に残して、法悦和尚、信也、祐介、根来の四人は居間に戻った。

 しばらくして、法悦和尚と信也が本堂へと出かけてしまうと、根来はようやく、本音が言えるとばかりに、

「分からないことだらけだ……」

 と不満げに呟いたのだった。

「まったく、俺たちにどう考えろと言うんだ」

「そうですね。しかし、こんな状況でも、論理的に推理してゆけば、真実が見えてくるかもしれません」


「よし、じゃあ、論理的に推理してくれ」

 根来は、半ば丸投げするように、祐介に期待を寄せた。

「まず、僕は探偵ですので、霊の存在を安易に信じることはできません。したがって、口寄せ中の月菜さんの発言というものは、そっくりそのまま、月菜さん本人の意思によって発せられたものと考えるのが妥当だと思います」

「それは確かに、その通りだな」

 根来は、ほっとしたように頷いた。

「ええ。したがって、月菜さん本人の意思によって、口寄せの最中に殺人の予告がなされたものと結論できるのです」

「そうだな……。しかし、だとしたら、月菜さんがあんな芝居を思いついたのかな」

 あんな純粋そうな少女がそのようなことを計画するだろうか。根来にはとても信じられなかった。

「ええ。月菜さんが計画した可能性はありうると思います。しかし、それでも疑問が残ります。もしも、自分が口寄せをしている時に、殺人予告を行えば、まず一番に疑われるのは自分ということになるでしょう。そのようなハイリスクな行為を、月菜さんが計画するものでしょうか。この点が、非常に引っかかります……」

「確かにな……」

 根来は頭を抱える。


「そこで考えられるのは、月菜さんは誰かに脅されて、あのような殺人予告の演技をさせられたという可能性です……」

「そうだな。そうかもしれんな。しかし、それでも腑に落ちないことがある。計画者は誰にせよ、巫女に殺人の予告をさせる必要がどこにあったのか、ということだ」

 根来がそう言うと、祐介も腑に落ちない点が多すぎて、しばらく、二人は物思いに耽っていた……。

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