1章・5話「修行の終わり」

風は自分の妖力を感じ、開放をしながら葛の葉との修行に励んだ。

しかし、一尾の時とは違い、人の姿で二尾、三尾を避けるのは容易ではなかった。

四尾を避けきれる頃にはもう1年を過ぎようとしていた。

「風よ、わらわの四尾をもって捉えられぬのは何百年において風が初めてじゃ、

素晴らしく不思議な動きを身につけたのぉ・・・もう己の妖力を見極めておろう」

「はい、この通り・・・・』

そう言うと風は右手に火の玉、左手に水の玉を作ってみせた。

「なんと!知らぬ間に他の妖術まで極めておったのか、思った以上じゃ、

もう大抵の妖が束になっても風には敵わぬだろう」

「そこで母様、試したい事があるのですが」

「何じゃ、まだ何か見せてくれるのか?」

「はい、母様の九尾、全てをもって風を捕らえてみてください〉

「ほぉ、わらわの九尾を全てを避けて見せると言うのか」

「はい、確実な自信はありませんが、確かめたいのです。

全力をもって試してください」

「・・・よかろう。では、まいるぞ」

「はい!」

そう言うと葛の葉は九尾を出し、風に襲い掛かった。

「!」

風は大きく深呼吸をし、九尾を避ける仕草はせず、ゆるりと動いた。

襲いかかる九尾、しかし、まるで九尾の方が風を避けたように見えた。

「残像・・・いや、そんな単純なものではない、捕らえた感覚はある、ゆえに・・・ためらう、捕らえられぬ、このわらわの九尾であっても・・・」

そして一瞬のうちに葛の葉の懐に入り、葛の葉の胸に顔をうずめた。

「母様、出来ました・・・これが風の妖術、風だけの妖力でございます」

「驚いたぞ風・・・なんと美しく麗しい技よ」

葛の葉はそう言うと風を優しく抱きしめた。

「よく、やったの・・・」

「母様の様な大きく多彩な術は出せませんが、これが風の妖術です」

「その不思議な妖術があれば十分じゃ、他の妖術は必要もなかろう・・・

名の如く風は風(かぜ)そのものじゃのぉ、風(かぜ)は誰にもつかめぬ・・・

そういえば風がまだ猫であった頃、お前はよく風(かぜ)に舞う木の葉と

遊んでおった。その姿を見て母は風と言う名にしたのじゃ」

「そうだったのですね・・・」

そして、葛の葉は風の肩を両手でつかみ、言った。

「修行は今日終わりじゃ、よく頑張ったの」

「はい!」

「さて、明日からは風だけでその術を磨くほどにして、少しゆっくり過ごそうぞ」

「はい!」

そうして、しばらく葛の葉と風は穏やかに過ごした。

風は自由を許され、時に里に出たり、猫の姿で森を走ったりしながら術を磨き、

過ごした・・・。

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