1章・2話「あやかし」

葛の葉は助けた仔猫を我が子のように大事に育てた。

仔猫はその恩恵によってすくすく育っていった。

しかし、育てた親が葛の葉ほどの妖なれば普通の猫に育つはずはなかった。

異常に成長は早く、大きくなり、体は猫だが尻尾は狐の尻尾であった。

この頃の世はまだ自然が多く、その自然による精なる不思議な力が存在していた。

その自然の力がまれに動物達に影響を与える事があった。

その中のひとつが長寿である。そして、その長寿による影響として不可思議な力を持つことがあった。

それら人の常識を越える力を持つ動物を人は神獣と言い、または妖とも呼んだ。

葛の葉はその中でも圧倒的な力を持つ妖であった。同じ妖であっても、また人からも神と崇められるほどの存在であった。

「わらわの血で育ち、育てたとはいえ、立派になったのぉ。

拾い上げて50年ほどになろうか・・・」

「にゃぁ」

「もう、わらわの言葉も理解出来ておるな、このぶんだと話せるようになるのも

すぐであろうな、風(ふう)よ」

葛の葉は育てた猫に風(ふう)と名を付け呼んでいた。

そして、葛の葉のいうとおり、風は数年後には言葉を話すようになった。

風は葛の葉に育てられ、妖になったのである。

「母様、狩りから戻りました」

「ずいぶん遅かったではないか風よ」

「よい鹿を見つけ、少し手こずってしまい・・・」

風はすでに虎ほどの大きさになっていた。

「また、そう言って人里を眺めてきたのであろう?」

「・・・はい」

「人に変化(へんげ)できるまで近づくなと言っておるだろう。

わらわの言う事は守るのじゃ」

「はい・・・しかし、母様は何故あの人という生き物の姿でいるのですか?

何故、風もその様な姿になる必要があるのですか?」

「それは人がこの世を支配するものだからじゃ。この世は人のものだからじゃ」

「あの、か細く弱そうな人がこの世を支配している?」

「そうじゃ、数百年わらわは人を見続けておるから分かるのじゃ

頭が良く団結し、物や道工を作り、田畑を作り、村を作り、国を作り、

進化し続けておる、風よ見よ」

と、葛の葉は着物を脱ぎ体を見せた。

「この姿、どの動物よりも美しいであろう、この手を見よ、繊細で器用じゃ、

前に神の話しをしたであろう」

「はい、万物の創造者と」

「そうじゃ、その神は人の姿をしておるのじゃ」

風は葛の葉の美しい姿に見とれていた。

「風もわらわと同じく、長く生きるであろう。そのためにも人の姿に変化するのは必要な事なのじゃ」

と、葛の葉は着物を着て風の頭を撫でた。

「心配するではない、風ならば容易く変化も習得できよう」

それからの風は人の事を母様から学び、その母様が言う事を理解した。

風には母様の言う事が全てであり、絶対であった。

そして、変化の練習が始まった。習得するのに10年、妖であっても遥かに早い習得であった。

「男、女、子供、老人まで上手く変化できるようになったな風よ」

「はい。しかし、まだ数時間も保てませんが・・・」

「焦る事はない。時はまだたんとある、わらわの血を受け継いでいるとはいえ、

大したものじゃ」

葛の葉はこの頃より、風が我をも越える妖になると感じていた・・・。

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