第29話 転入生

美央はいつも通り学校へと向かう

学校が近づくにつれ学校を中心としたなにか異様な空気の重さを感じる

徐々に生徒の数が増えてくる

1人1人の生徒の纏う空気も異様に重く感じる

これだけの負の気のようなものを纏った人間が1つの建物に納められるからその建物から異様なものを感じるのは当然なのかもしれない

校門では先生達が大声で生徒たちに声を掛けていた、少しでも元気を付けさせようとしているのだろう

校門を入ると生徒たちのひそひそとした噂話が聞こえてくる

ネット上で2人のいろいろな噂が飛び交っている

しかし啓二がいじめられていたことについての話は出てこない、そう考えると噂を流布しているのが今回の首謀者達である可能性が高い


校内から教室へ入り席に着く美央

教室の中では自殺した子の暗い話題より、転入生の話がちらほら聞こえてくる

どうも朝から玄関に乗り付けられた高級車がそうとう目立ったらしく偵察に行った女子がこのクラスに転入することを聞きつけたようだ

金持ちの同級生が来ることでテンションが上がっている一部の女子も居る、そういう姿を見るだけでなんだか気が重い

夕凪から話では病み上がりで世間の事が分からないお嬢様という設定らしいのだが、最後の言葉が気になる

「人じゃないので仲良くしてあげてくださいね」

人じゃないってことは化け物なんですか、そんなの学校に通わせて良いんですか、危険じゃないのですか、聴きたいことは山ほどあったけど、つい聞きそびれてしまった


いろいろ考えている内に先生が転入生を連れてやってくる

あの恰好はどう考えてもおかしい、頭を黒い何かで巻いてて片方の目までかぶさっており、手や足も包帯のような物が巻かれている、なにより肌の色が白すぎて人形みたいだ、病み上がりどころか入院から抜け出してきたかのような格好だ

「今日は転入生を紹介する名前は古賀三八子さんだ、みんな仲良くするように、席は・・・鳴無美央の隣に席を作ってやってくれ」

「古賀さんはまだ退院して日が浅いと言うことが、あまり無理させないようにみんなでフォローしてあげてください」

三八子は頭を下げる

「よろしくお願いします」

その声にも力はない

三八子は非常にゆっくりと歩き席に着く

「三八子ちゃんよろしくね」

「よろしくお願いします」

その顔に表情は無く冷たさを感じる

《人じゃないと聞いていたがやっぱ怖い・・・》

人間じゃ無いという事前情報は、人とは違う何とも言えない恐怖を感じさせてくれる

、だが、そう思うのは美央だけであり、周りの同級生は新しい仲間を心の中ではすでに受け入れているようだ、人間の形をした人間以外の存在などという言葉は頭の中にはないのだろう、目の前に居るのは病弱な金持ちの娘、たしかにいろいろの思惑も交差して感情的にも受け入れやすい設定なのかもしれない

こちらから話しかけ相手の返事が鈍くても逆に話しかけた方が気を使ってしい、動きがぎこちなさを感じたら周りが助けようとする

美央は感心していた

授業中も美和は気にしていた、写し出された机のモニターをジッと見つめたまま動きがない、とうてい理解している姿には見えない、「大丈夫?」と声を掛けても「はい」と言う気の無い返事がくるだけで、多分理解はしてないのだろう

何気なく見ていた時に胸のポケットの膨らみを見つける

「それは?」と指を刺すと、思い出したかのように眼鏡を取り出した

頭の黒い布の耳の部分に切れ込みがあり、そこに眼鏡を差し込めるようになってい「眼鏡かける?」と聞くと三八子は頷いたので眼鏡を掛けてあげた

目が悪いのかそもそも人と同じように見えているのか良くわからないが、首を振りながら周りの情景を見ているところから一応に眼鏡が気に入っているのかもと思えた


放課後1人迎えが来るのを三八子は教室で静かに待っている、美央は一応付き添いしていた、目だけはこちらを見ているのだが会話はない、重い空気に耐えられず少しばかり深呼吸をした。

三八子は気配もなく急に立ち上がり歩きだした、2階の教室から階段を下りていく、しかし、階段の途中で転倒し踊り場まで一気に転げ落ちた

美央が駆け寄ると三八子の首が在らぬ方向に曲がっていた、美央は慌てて顔を真っ直ぐにし、辺りを見渡す

「よかった、誰も見てない・・・」

三八子の体におかしな部分が無いか確かめる、特に異常は無さそうだ

大丈夫?と聞くまでもなく平然としている、改めて人じゃないと認識させられた

脇に手を入れ座り込んだ三八子を起こす

「めがね、めがね・・・」

「そういえば眼鏡がないね」

転倒した際にどこかに飛んでいったらしい

辺りを見渡していると、階段の下の方で眼鏡が踏みつぶされる音がした

「誰だよこんなところに置きやがって」

踏みつぶされた眼鏡が蹴り飛ばされる音が聞こえてくる


美央は慌てて階段を降り、眼鏡を手に取る

「ちょっとあんた達なんてことするのよ」

眼鏡を踏みつけた男子たちは啓二をいじめていた連中だ

悪びれる様子もなく、睨みつけながら去っていった


三八子が階段から降りてきた

「ごめんね、眼鏡がこんな風になっちゃって・・・」

「大丈夫、眼鏡、掛けてほしい」

眼鏡の左側が割れていたが掛けることはできた

「眼鏡特殊、治る、気にしない」

「そういえば踏まれたのにフレームは折れてはないのね」

三八子はうなずく

そしてまた、何かに導かれるようにゆっくりと歩いていく

付いた先は女の子が飛び降りた跡のところだ

三八子はそこで立ちすくむ

「魂、伝えたい、私、理解したい」

「亡くなった子の魂が見えるの?」

三八子は頷く

「伝えたい、分からない、魂、預かる」

三八子は何かを掴み胸に納める動作を行う、魂の見えない美央であったが一瞬何かが見えたような気がした


「彼女が何をしたいのか私にも理解はできない、しかし魂同士なにか通じ合うものがあるのかもしれないね、彼女は彼女にしかできない事をやろうとしているのかもしれないね」


後ろから男性の声が聞こえてきたので振り返ると、思わず声が出てしまった

「うっ」

高身長に二次元から飛び出てきたかのような人間離れした顔立ち、しかもこれで金持ちとあらばクラスの女子が三八子ちゃんに取り入ろうとするに違いない


「三八子君を迎えに来たのに一向に来ないから探してみればこんなところに居たとはね、美央さんだったかな、今日は1日三八子の世話をしてくれてありがとう」

「えっとお姉さんから聞いてましたが・・・」

「初めまして右京慈と申します、美央さんの事はお姉さんから聞いております、以後お見知りおきを」

「それじゃあ三八子君帰るとしようか、美央さんにきちんと別れの挨拶をするんだよ」

「はい、今日はありがとう、さようなら」

「三八子ちゃん、またね~」

美央は三八子をその場で見送った

2人が消えた跡もその場に立ち尽くす美央

「なにか伝えたいことがあったのだろうか・・・」

自殺した女の子の魂はもうここには居ない、それと同時になにか心にひかかった物の1つを三八子が持って行ってくれた、そう感じていた

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