第20話 人食いカラス

最近は町を歩いていてもパトカーがサイレンを鳴らして走っているのが異様に目に付くようになってきていた


「最近やたらとパトカーがサイレンを鳴らして走っているがなにが起きてるの?」


「どうやら最近、ドラッグに関係する暴力事件で出動する件数が増えてきているようです」


「うーん、ドラッグねぇ」


「表向きはそういうことになっておりますが、やはり先日のような男が原因かと思われます、説明が付かないもしくは意図的にそういう情報が流れているのかもしれません」


「というと?」


「警察の上層部にこの事件と関連する人物が居る可能性が高いと言うことです」


「まいったね、国家権力とは争いたくないね」


トントン、事務所の扉をノックする音がする


「はい、どうぞ」


「失礼するよ」


「なんだ、マロ・・デルタか」


「んぐ、まぁいいわ、入らせてもらうよ」

するとデルタの後ろにはスーツ姿の女性が付いてきていた


「こちらは篠崎警部、自分の後輩みたいなものだ」


「失礼致します」


「ああ、警部さん・・・よろしくです」


雪音は英二郎に小声で

「まさか違法アップされたドラマを見たから捕まえにきたとか」

「いや、それは無いかと思います、この会社は私がすべてプロテクトしております、外部に漏れることはありません」

「なら、安心だ」


「あのー、なにかありました?」


「いえいえ、お気になさらずに」


「ところでどうしてこちらに?」


「いや、すまない、誰が聞いているか分からなくて、外で話ができないんだよ」


「すいません、こちらを使わせていただいて」


「たしかにここなら安心と言えば安心だが・・・、どうぞご自由に使ってください」


「ありがとうございます」


「師匠、先日の男ですが、あれから上の命令で釈放になりました」


「そうか・・・、なんだか腑に落ちない結果だね」


「はい」


「そういえば最近パトカーが走っていくのをよく目にするんだけど、そんなに事件が多いのですか?」


「はい、そうなんです、たしかに事件は多いのですが・・・」


「なんだか歯切れが悪いね」


「はい、先日と同じような男達が初めは暴力事件を起こしているのですが、前回みたいな抵抗は無く、捕まえてみて共通するのがすべて前科持ちと言うことと、すぐに釈放され、その後、公共事業を行っているとある議員の会社へと就職していっております」


「なんだか胡散臭い話だね」


「はい、ただ街からゴロツキの姿が消えてきており、そういった事件以外は我々の仕事も減ってきているのも事実です」


「市民にとっては悪い話ではないか」


「はい、そういうことも言えます」


「たしか、そういうスローガンで議員活動していた人がいたね、たしか真似辺健二だったか」


「あー、そうです、たしかその人の会社です」


英二郎が素早く検索しモニターに写し出す

「なになに、主に郊外での公共事業を行っているらしいですね、ダムにトンネルに施設に・・・」


「釈放された男達は人家と離れた場所で仕事をしているようで、今のところ市民に迷惑がかかるような事件は起こしてないようです」


「なんだか良い話にも聞こえてきましたね」


「このまま暴力事件も減っていってくれればよいのですが・・・」


「よし、この件はこのまま様子見と言うことで」


「よけいなことに関わっても一円にもならなからね」


「そういえば女性の行方不明も多発しているとか噂で聞いたのですが?」


「そちらにつきましても、たしかにそういう相談はございますが事件にはなっておりません」


「そうなんだ」


「家族や知人などからそういう相談は受けるのですが、本人に連絡がある以上なんとも・・・」


「わかりました」


「では本官は業務に戻ります、また動きがありましたら報告させていただきます、失礼致しました」


篠崎は事務所を後にする


「英二郎はどう分析する?」


「連れ去られた男達は世間的にあまりよい印象が無い以上いなくなって逆にその地域では喜ばれているのかもしれません、しかも何ら中の形で殺されている可能性は高いでしょうけど、動いている以上それを判断する方法は無いかと思います」


「女性たちに関してはどうやら自分の意思で動いているようなのでこちらも事件と呼べるような物でもないかもしれません」


「んーなるほどね・・・、ここに男性居ない、狙われそうな女性も身内には・・・まぁこの件は解散ということで」


「なにか問題あればその時は呼んでくれ、では」


その場は解散となりデルタは帰っていった


・・・・


夕凪は郊外の静で整備された森の中で練習をしていた

時折人が走っていくが極力だれともすれ違わないようにしている

街中では先日のような男がウロウロしており、練習ができない、しかしここならまた違った感じで練習ができる


こういった森の中ではすでに人の魂という概念が消えかかっている、元々は人だったのかもしれないがそこから感じる暖かさは街で見かける魂とは別物である

今日はゴン田も一緒に付き合っている、見た目は怖いが人に見つかるのを極端に嫌い人が来るとどこかに隠れてしまう


人に見つからまいと結構森の奥まで歩いてきた

程よく明るいがそれでもそれなりに薄暗い場所だ

夕凪は木製のベンチに座り集中していく

いろいろな魂を感じるがもっと範囲を広げていく


「こんなにたくさん・・」


気が付くと周りに小さく光る魂達がたくさん集まってきていた

ゴン田がそれを楽しそうに追っかけ、走り回っている

それに釣られたのかトラまで一緒になって走り回っていた


その光景にしばらく癒されながら時を過ごす


どのくらいの時間が過ぎたのだろうか

魂たちが騒めきだす

すると森の奥の方から何か大きな音がし出した

魂たちが落ち着かない原因がこの森の奥にあるらしい

夕凪は用心しながら森の奥へと歩いていく


「英二郎さん居ます?」


「はい、電波は良好です」


「今の現在位置から真っ直ぐ進んだ方向になにがあるのか分かります?」


「通常の地図上ではなにも確認ができませんただの森です」


「少々お待ちください、衛星のカメラに接続してみます、画像解析中・・・」


「この先でなにか大掛かりな工事が行われているように見えます」


「衛星画像を表示します、現在地に印をつけておきました、ここから直線距離にして300mといったところでしょうか」


「画像でもかなりの数の人が居るように思えます」


「周辺地図の等高線を確認しました、現在位置から北に30度進んだ場所に少し小高い場所がございます、そこからでしたら現場の様子が見えるかもしれません、地図に印を付けておきます」


「分かりました、そちらへ行ってみます」


夕凪は歩いていく


「さすが英二郎さんです、ここなら様子が一望できます」


「それにしてもすごい建物ですね」


周囲は高い塀で覆われており近づいてもなにが行われているのか様子が見えないようになっていた


少し危険だが英二郎に記録してもらうためにカメラを向け撮影していく

夕凪も最新の注意をしているが、ここで働いている人からは嫌な感じしか伝わってこない、そう先日の男と同じ感じだ


「たぶん何人かに見つかっちゃいましたね」


「では急いでこの場を離れましょう」


「いいえ、思ったより早いようです」


「1,2,3人・・・」


「これは困りましたね、今からデルタさん達に連絡をしても間に合わないでしょうし」


「いえ、先日の男と同じくらいならたぶん大丈夫です」


「それは頼もしいですね、でも注意してください、1例だけで判断するのは非常に危険です、個体差もあるかもしれませんし」


「ありがとう、用心します」


夕凪の気配に反応したのゴン田は迫ってくる男が敵だと認識する


「あれ、1人脱落しましたね・・・ゴン田さん素早い!」


「流石ゴン田さんですね、なにかを察したのかもしれません」


異変に気付いた1人の男がゴン田に襲い掛かる

人間ならゴン田の姿に恐怖するかもしれないが、恐れもなく向かってくるところをみるとやはり人ではないのだろう

ゴン田は戦闘を開始していた、いくら人以上の力を持ったとしてもやはりゴン田のスピードには付いていけない、男は剣を取り出すが、ゴン田は光る物には目がない

剣を素早く口ばしで咥え、男の手から引き抜く、剣を取られた男はとにかく剣を奪う事に必死になり動きが単調になるが、ゴン田は容赦なく口ばしの力で剣を折ってしまう、すると男は力なくその場で膝を付いた、半身を失ったかのような男にはもはや戦意は無い様だ


「そろそろ来ます」


夕凪の前に男が姿を現す、身長にして190cmくらいはある大柄な男だ

目からは生気を感じない、やはり死人なのだろう

この男も西洋の剣らしきものを取り出した


「あの剣は以前の男も・・・なにか関係があるのでしょうか?」


「とりあえず記録しておきます」


相手が剣を持っている以上こちらも獲物を取り出す

夕凪のじいさんが守っていた1つ、真っ黒い木で出来た杖だ

杖には刀が仕込まれており、夕凪は刀を抜こうとしたが収めた

目の前に居るのは化け物だと分かっていても人型相手に刀を貫く気にはなれなかった


「殴りでいきます」


「気を付けてくださいね、そんな余裕はないかもしれませんよ」


相手が剣を持ちながら突進してくる

ゴン田相手に練習をしていた夕凪の体の捌き方はすでに男を上回っていた

夕凪は素早く身を屈め最小限のところで足の動きで回転し、素早く男の踏み込んできた膝の後ろを杖を叩き込み、その後杖を押し上げ反対側の足をすくい上げる

男は膝から下のバランスを崩し転倒する


男がうつぶせに倒れたところを尽かさず頸椎の辺りを杖で抑える

男は必死に起き上がろうとしているが立ち上がることだ出来ない


「この状況どうしましょうかね」


「難しいですね、ワイヤーや手錠も無いですしね、困りましたね」


男は必死にもがいている、このままではこの場から離れられない


そこにゴン田が戻ってきた、ゴン田は剣を見るとすぐさまに剣を加えバキンッっと折った


「あ、折った」


「はい、折りましたね」


男から抵抗がなくなり静かになった


「あれ、大人しくなりましたね」


「どうやら剣に秘密があったようですね」


「そういえば感覚が薄くなっている気がします」


「なるほど、一応は本体といったところなのでしょうか」


「かもしれないですね」


「よくやりました」

夕凪はゴン田の頭を撫で褒めている、ゴン田は嬉しそうだ


「さて、さっさと引き上げましょうか」


「異変に気付くの最早そうですし、その方がよさそうですね」


夕凪たちはその場から引き揚げた


その後この森で人食いの大きなカラスのような化け物とそれを従える謎の人物の噂が立つこととなる


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