第19話 理想の男を求めて

「やはり結婚ができないを分析すると、男性に対する学生時代から社会人となった事での価値観の変化が大きいのかもしれません」


「なるほど」


「男性社会で成熟された会社の中では妥協点が許されません、そういった理念を刷り込まれたいった女性はやがて異性に対しても同じ感情を抱いていくのかもしれません」


「周りからそれで良いの?と思われるのが怖い、つまりは自他ともに認める存在であるというのが最低条件になってくるんだね」


「またこういう分析もできます」


「続けて」


「例えば服を買いに行きます、何百何千種類もある大型店舗から1だけ服を選びなさいと言われるとかなりの時間がかかると思います、しかし、10種類くらいしかない服屋さんだとおそらくそれほど時間もかからないでしょう」


「そんなにたくさん有る中から1つを選べと言われても、たしかに選べない可能性の方が高いかもしれないね、たとえ選んだとしてもお金を出せば買える服とは違い断られる場合もあるだろうし、男性の場合経済力があればもしかしたらの可能性はあるかもしれないけど、女性の場合は男性にくらべ確率は低いか・・・」


「世界が広がれば広がるほど選択肢は増えますが、同時に選ぶのが難しくなります」


「やはりこのドラマは奥が深いな」


「そうですね」


・・・・


「グリスさま~、つぎは私の血を飲んでくださ~い」


「いいえ、次はわたくしの番ですよ~、グリスさま~」


「君たちの血と肉はすべては僕の所有物だ、その代わり僕も君たちに無限の愛を捧げよう」


「グリスさま~!」


グリスは女性たちの部屋から出ていく


「ふう、まさかこんなに積極的になるとは思いもしなかったな」


「はい、グリスさま」


「老いることのない完璧な容姿、とびぬけた知識に頭脳、そして経済力!まさに理想の男性の姿なのかもしれません」


「やはりこの国の男どもは不要か?」


「御意に」


「女は生かせ、男は容赦なく殺し躯を集めよ」


「畏まりました」


「やはり私の目に狂いはなかった、この国で私の悲願が達成できそうだ」


この日を境に男の行方不明事件も発生していく

それも男に限っては一時的のようにも思えた

行方不明とされていた男は数日後には町で見かけるようになる

ただ、その男に知人が声を掛けても返答がなく、中身がまるで別人のようだと感じさせた、そういう奇妙な事件も増えてきており警察も秘密裏に動き出していた


・・・・


夕凪は今日も同じように感覚を頼りに公園の中を歩いていく

毎日練習をしていることで探知範囲も広くなってきていた

まるで電波でも受信しているかのような不思議な感覚


しかし、行きついた先には1人の男性の姿が・・・


「あれ、変だなぁ・・・」


目を閉じ感覚を研ぎ澄ますも、やはり前方の男から感じる発せられる気配がおかしい

こちらが感じ取る気配に向こうも同じように気づく


男はこちら目掛けてゆっくり走ってきた


「あぶない下がって!」


目の前にスーツ姿の女性が現れる


「警察よ、立ち止まりなさい!」


男は急に現れた目の前の障害に一瞬怯むも、背中に仕込んであった小さな剣を取り出す


「まずいわね、あんな物を持っていたとは」


「篠崎警部、下がってください」


若い男性警官が銃を構える


「動くな!撃つぞ!」


「一般人も居る、足を狙え!」


若い男性警官が男の横に周り足を狙う

男は命令を無視するかのように足が動き出す

その場に緊張が走る


パンパーン

静かな公園に銃声が響く

弾は男の足に命中し貫通した

弾が命中したはずなのに男は怯む気配がない


「警部!」


銃に対する効き目が薄い以上警棒を取り出すしかない

篠崎は警棒を片手に夕凪を守ろうとする


男の持つ剣は日本刀と違い両刃付きでどちらかと言えば西洋の剣に近い


「厄介ね、あんな剣、訓練でも使ったことないわね、しかもあの男の構えは日本じゃ見ないね」


男は上段気味に構え剣先をこちらに向け、突きを打つような構えをした


「あ、あぶない」


男の突きは早かった、夕凪は反応していた、篠崎の腰を掴み上体を逸らす

篠崎はとっさに警棒を両手に持ち、剣の軌道を逸らすのに精いっぱいだった

もし夕凪のサポートがなければ肩を貫かれていた可能性が高い

それでも男の突きは非常に重かったのか二人とも少し飛ばされた


その隙に他の警察官が男を確保しようと後ろから押さえにかかる

2人がかりで押さえようとしても、男の力の方が強い


「なんて力だ、応援を頼む」


もう1人の男性警官がさらに押さえにかかる


「確保しろ!」


1人の男性警官が男に手錠を掛けようとした一瞬の隙に、男は体を崩し剣を持つ方の警官がバランスを崩した


「危ない離れろ!」


声がした瞬間、男は剣を横凪に切った、2人の警官が同時に飛ばされた

一瞬2人が切られたのかと思ったのだがどうやら奇跡的に手錠の鎖がガードの役目を果たした、手錠は役目を果たし剣の当たった鎖の部分が砕けた


そうこうしている内に盾を持つ別の警官も現れ夕凪達の前に立ち構える

一般人を守ることが優先される


「下がってください」


男2人が飛ばされるほどの力に盾では少々心細く感じた

すると後ろから声がした


「篠崎も居るじゃないか」


夕凪達は後ろを振り返るとデルタが居た


「デルタさん!」


「師匠!」


「え?師匠?」


夕凪は顔を見合わせる


「師匠ってほどではないけど、篠崎とはちょっとした知り合いでね」


「それより、英二郎から連絡があって夕凪が危険だと、それで来てみたら・・・こんなに警官が居るのにだらしないね」


「ちょっと借りるよ」


「こ、こらなにを・・・」


「いいのいいの」


篠崎が間に入る

目の前の警官から盾を奪い手にはめるデルタ

盾が有効だとは思えないしかし積極的に攻めてくる相手の初激を防ぐのには役に立ちそうだと考えての事だ


「流石に素手ではきついな」


両端に重りの付いたワイヤーを取り出す


「ガンマ!サポート頼む」


「あいよ」


盾を構え距離を取りながらワイヤーを振り回す

射程範囲的にはこちらが有利だ

男からは戦略的な思考を読み取ることはできない

目の前の男はおおよそ人では無いのだろうと何となく感じていた

通常なら警戒してお互い牽制をするのだろうが、男は剣を振り上げたままこちらに向かってくる


「やはりな」


デルタは男の剣を持つ手をめがけてワイヤーの先端を投げつける

が、一瞬怯むが予想通りそんな単純な攻撃はかわされ、さらに距離を詰められる


デルタを射程に収めた男は思いっきり横に薙ぎ払おうとする

つかさず盾を両手に持ち盾が剣の持ちて辺りにぶつかるよう

全力で前にでる


「うおおおー」


剣と盾が衝突したガンッって音と共にデルタは勢いよく吹っ飛んでいく・・・

それと同時に男の足があらぬ方向へ曲がっていく

男の足を引っかけたのはワイヤーだ

ワイヤーは男の剣に向かって投げたのではなく後方の木へ投げつけたのだ

投げられたワイヤーをガンマが素早く木に括り、もう1方の先はデルタの腰に固定されていた

デルタは男の力を利用して自らの力でも飛んだのだ


しかし、男の力は想像以上に強く飛ばされたデルタもワイヤーが最大限伸びた後に地面に叩き付けられていた


「まいったねこりゃ想像以上に体が痛くてすぐに動けない・・・」


男は立つことはできなくなったが、諦めては居ないようだ

ガンマはテイザー銃を構え男の背後に駆け寄る

特別に出力を上げた特製の銃で普通の人間には使えない対化物用だ


「これで終わりだ」


テイザー銃を当てるのはそう難しくなかった


男はワイヤーで拘束され警察に連行されていく

電撃を受けると一時的に大人しくなるが男の抵抗は止まることはない

ガンマはスタンガン式の警棒を預けた


「こりゃバッテリーが尽きる方が早そうだな」


ガンマがこちらに向かってぼやきながら歩いてくる


「師匠、今回の件ありがとうございました」


「マロン、ありゃ人じゃないな」


「マ、マロン?」


「ああ、私の名前だ」


「え?デルタさんの名前?」


「師匠、私も初めて聞きました」


「ミツヒデ、外ではデルタで呼べと言っただろう」


「え?ガンマさんはミツヒデなんですか?」


「ああそうだ」


「なるほど・・・」


「おほん、まあそれは良いとして、一体なにがあったのだ?」


「はい、先日から度々起こっている行方不明事件なのですが、通報がありまして、行方不明の男性を発見したのだがどうも様子がおかしいと」


「様子がおかしいとは?」


「知人が声を掛けても反応がなく目もうつろで無理やり引き留めようとしたら、突き飛ばされたらしく、変な薬でもやってるのではないかと不安になったそうです」


「それで男を探している最中、こちらのお嬢さんが襲われそうになったので庇ったところ今回のような状況になったのです」


「なるほど」


「ただ奇妙なことに銃弾を受けたはずの加害者の男に出血が見られない事です」


「やはりな」


「師匠、何か心当たりでも?」


「ああ、私もあまり詳しくは無いがこの世界には人の形をした人以外の何者かが存在しているってことだよ」


「分かりました、おそらく上に報告しても信じてもらえないでしょうから、あの男をどう処理するのか見守りたいと思います」


「篠崎も気を付けろ、私たちが思っている以上に闇は深いかもしれないぞ」


「はい、了解しました」


篠崎警部とはここで別れた


「マロンさんありがとうございました」


「いいんだよ、それよりやっぱ外ではデルタと呼んでもらえるかな、どうも緊張感が抜けてしまって」


「はい、ごめんなさい」


「ああ、いやいや、謝らなくていいんだよ」


「それよりあの男どう感じた?」


「はい、人としての感じよりかは霊としてしか感じることができませんでした、恐らく人としてはすでに死んでいる可能性が高いです」


「やはりそうか」


「肉体はしょせん魂の器でしかないか・・・」


「あ、いやいや、よく爺さんが呟いていたのでね、そういう現実に目の当たりにすると、そういう世界を信じざる得ないのかなと思ってしまってね」


「しかし、死者の肉体に魂を入れるなんて考えられないことではないでしょうか」


「そうだね、となると裏で操っている人物がやはりいそうだね」


「例のグリスという男だな」


「ミツヒデ、少し探ってみる必要が出てきそうだな」


「そうだな、俺の方でもなにか情報がないか探ってみるとしよう」


「こういう事件が起きてくると夕凪さんも気を付けるんだよ」


「はい、ありがとうございました」


夕凪はマロン達にお礼を言うとその場を別れた


「まあ、もしかするともう私たちより強くなっているのかもしれないけどね」

「そうだな、そうかもしれないな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る