第4話 1日の終わり
日が落ち、薄暗くなっていく中、私は門番さんに案内されるままに宿へと辿り着いていた。
門番さんは受付のおばちゃんになにやら説明をしていて、私は入り口で待ちぼうけだ。
たまに門番とおばちゃんから哀しみの眼差しが飛んで来るが、内容はお察しである。
ヨレヨレな部屋着を身に纏い、金はなく、持ち物もない。
道端に捨てられた仔犬の様に見えているんだろうな。きっと。
惨めさに少し泣いちゃいそうだよ……。
「うぅ、ごめんよ? あたしゃこういうのに弱くてねぇ」
グスっとハンカチ片手に泣くおばさん。
門番さんの説明を聞き終えて、こちらにきた様だ。
というか、泣く前に泣かれてしまったよ。
どうすれば良い。どうすれば良いの? とアタフタしてしまう。
「気にするな。歳で涙もろくなっているのさ」
そう苦笑しながら門番さんはアタフタしていた私の頭に手を置いた。
大きな門番さんからしたら、私は子供のように感じるのかもしれない。
「とりあえず、簡単に説明して宿代は出しておいたから、おばちゃんが落ち着いたら部屋とか案内してもらうと良い」
「は、はい。ありがとうございます」
「まあ、気にするな。こっちとしても妻への良い土産になるからな、お互い様だよ」
と門番さんが言ってくれる。
似顔絵を描く約束だけで、ここまでしてもらえるとは感謝してもしきれない想いだ。
「おっと、俺はもう帰らんと妻に怒られてしまう。明日はまたよろしくな」
そう言って「じゃあな」と門番さんは手を振り、帰って行った。
私も頭を下げ、別れを告げる。
その背後では『うぉん、うぉん』と唸るような泣き声が響いていた。
泣き止んだおばちゃんが私を部屋へ案内しつつ、軽い説明をしてくれている。
「トイレは裏庭の小屋で紙はさっきの受付で買えるよ。これはサービスにとっておきな」
潤んだ目で紙を数枚手渡してくる。少々ゴワゴワしているが、擦れて痛いほどではないであろう質感だ。
「……ありがとうございます」
私にくれる前に、その垂れ流しになって入る鼻水を拭いたらどうだろうかと、そう思う有り難くもらっておく事にした。非常に助かります!!
「朝食は宿泊代に入ってるから、明日の午前中だったら一階でいつでも用意してあげるよ。大盛りにしてやるから声を掛けるんだよ!」
「それから、昼と夜は別料金になるんだが……。ふぐッ……なにも、食べてないんだろう? 今夜ぐらいは……ふぐッう、暖かいもん食っておきな。あたしの奢りだから」
おばちゃんは泣きながら私の手を取り、両手で包み込むように握り締める。
あの、鼻水とかついてないですよね? とか聞けなさそうな雰囲気だ。
うう、後で手を洗っておこう……。
すぐに私の手は鼻水(ついてないと信じてるけど……)から解放され、部屋の鍵が渡された。
すでに部屋へと到着していたようだ。
「親切にして貰ってありがとうございます。 すぐには無理かもですけど、このお礼はいつか、ちゃんとしますからね! 」
過剰な同情と哀れみに引いてしいそうになるが、ここまで良くして貰っていることは事実で、その分はきっちりお返しをしようと決意を現すと。
「いいのよぉぉ、そんなこときにしなくたってぇぇ~。うぉーん」
おばちゃんは号泣し走り去ってしまった。
まだ色々と宿の説明などが必要な気もしけど、一通り聞けたと思うし、まあいっかと気持ちを切り替える。
部屋に入って今日はもう寝てしまおう。
散々歩いて今日はもう疲れたよーー。
絵師転生 昨咲く @sakusaku3
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