エピローグ






   エピローグ




 「これ、ここに置けばいいのか?」

 「うん!斎、あとワイン開けて欲しいな。」

 「わかった。」



 今日はいつもより早めの夕食。

 斎も普段より数時間も早く帰ってきてくれている。



 「よし!じゃあ、ご飯も完成したし、食べようか。」

 「あぁ。」



 今日は2人にとって特別な日になった。

 そのため、夕映はお昼過ぎから斎の部屋に来て、晩御飯の準備をしていた。



 「乾杯しよう。」

 「そうだな。……10万部決定、おめでとう。」

 「おめでとうー!」



 持っていたグラスを2人で鳴らし、赤ワインを一口飲んだ。爽やかでフルーティーな甘いワインで、夕映好みのものを斎が選んでくれたようだ。


 



 斎と夕映が作った海外アプリで、1冊の本を作った。あの日、斎が見つけてくれたおすすめのファンタジーものだ。

 それを夕映が翻訳し出版すると、口コミであっという間に噂が広まり、品切れが続いたのだ。それで慌てて重版しても、すぐに売り切れ……それを何回か繰り返し、気づくと10万部も売れていたのだ。

 

 そのお祝いを今日は2人でする事に決めていた。



 「すごいね!あんなに読んでもらえるなんて。斎が選んできた本はやっぱりすごいんだよ。」

 「おまえの翻訳も評判だろ。子どもにも読みやすく、大人でも楽しめるって。」

 「それを聞いて安心したよ。次は恋愛ものだけど、それも楽しんでもらえるといいね。」

 「あぁ。」




 翻訳の仕事は順調で、次々に翻訳をして欲しいと募集が増えていった。

 斎と翻訳家を増やそうかとも話してはいたけれど、今は2人だけでゆっくりとやっていきたいと夕映は思っていた。


 2人の約束から出来た小さな出版社。

 それを大切にしたかったのだ。



 

 「それと、夕映。約束は覚えてるよな?」

 「えっと………もしかして、あれ?」

 「5万部売れたら、俺と一緒に住むって話しだ。倍売れたんだ。約束は守れよ。」


 

 斎と恋人になってからすぐに、彼に一緒に住まないかと誘われていた。

 彼と一緒にいられるのはすごく嬉しいし、一緒に住みたいと思っていたけれど、付き合い始めたばかりなのだ。

 夕映は断り続けていた。


 けれど、俺様の斎だ。

 それをずっと我慢しているはずもなく、1つ提案をしてきたのだ。

 初めて出版した本が5万部売れたら、すぐに同棲してくれないか、と。

 

 出来たての出版社が出した本が、そんなに売れるはずないと思っていた夕映は、「わかった。」と簡単に返事をしてしまった。

 けれど、九条家の力を甘く見てしまっていた。


 斎はいたるところに、アプリや本の宣伝をし、あっという間に知名度を上げてしまったのだ。そして、本も原作が良かったこともあり、あっという間に売れて人気になった。

 完璧に斎に負けてしまったのだ。


 みんなに読んでもらえて嬉しいはずなのに、夕映はどうしても素直に喜べないでいた。



 「なんだよ。俺と住むのはイヤなのか。」 

 「そ、そんなことないよ!嬉しいけど……なんか、恥ずかしいというか、照れる……。そういうのしたことないから。」

 「……当たり前だ。誰かと同棲したことあるなんて。」

 「斎はないの?」

 「ないに決まってるだろ。ここに女を入れたことさえない。」

 「……そうなんだ。」



 それを聞いて、夕映はホッとしてしまった。

 斎はモテるはずだ。きっと何人もの女性と関係があったのだろう。仕方がないことだけど、それを考えるだけで少しだけ苦しくなってしまう。

 けれど、ここに来たことがある人は自分だけなのだと知れて、夕映は嬉しくなった。

 彼の特別なのだと実感出来た。




 「はぁー……おまえ、その顔は反則だろ。」

 「え、どんな顔してた?」

 「俺が好きだって顔。」

 「っ!?」



 夕映は一気に顔が赤くなるのがわかって、両手で頬を隠した。その様子を、斎はニヤニヤしながら見つめていた。




 「なぁ、夕飯の前におまえを貰っていいか?」

 「だ……。」

 「ダメとは言わせない。」



 斎は、椅子から立ち上がり、夕映の傍に来ると顎に指をかけて、夕映の顔を上げた。



 「斎………。」

 「その恥ずかしそうにしてる顔は誘っているとしか思えない。」

 「そんなことない………っっ……。」



 最後の言葉は、斎の唇で塞がれてしまった。

 ワインの味がするキスで、夕映は一気に酔ってしまいそうだ。



 「愛してる。これからは、いつも一緒だ。」

 「………私も。」



 俺様で勝ち気な彼に翻弄される日々を想像してしまう。すると、こんな風に彼にドキドキされっぱなしな自分が思い浮かび、自分の体がもつのか心配になった。



 けれど、それも素敵な時間になる。

 2人でいれは、幸せなのは十分に実感していた。だからこそ、今まで以上に一緒にいればもっと素敵になる。



 そんな予感がしていた。







                (おしまい)

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

我が儘社長と不器用な2回目の恋を 蝶野ともえ @chounotomoe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ