第2話 ここは何処? あなたは誰?


 「何処? って何よ」


 しゃがみ込んで額を擦っている委員長をそのままに、もう一度辺りを伺う。

 薄暗い中、目を凝らして覗き見る。

 土の地面に土の壁に土の天井、ソコはやはり、洞窟だった。

 「洞窟だ……」


 「なにがよ……」

 そう言い掛けた委員長も立ち上がり。

 「何処? ここ」

 首を振りつつ辺りを確認しながら。


 「暗くて良くはわかんないけど……洞窟っぽい」


 「何でよ!」


 もう、それはさっき俺がやった。

 今さらだと委員長を見ていると、それだけで少しは冷静になれた気がする。

 「もしかして……さっきの委員長の頭突きで、俺達は死んじゃった?」


 「そんな事……有るわけ無いじゃん」

 語尾は少し不安げだ。


 「今、流行りの異世界転生?」

 

 「まだそんなの流行っているの?」

 その手のラノベは委員長の趣味では無いらしい。


 「じゃあ……これは?」

 掌で辺りを指ししめす。

 

 キョロキョロと首を振り。

 その混乱した委員長が少し可愛く見えた。

 

 「何処よ!」


 ループしている。

 思わず笑ってしまった。

 それと同時に、俺の抱えている不安も笑い飛ばされた。

 この洞窟を受け入れたわけではない。

 完全に現実逃避だ。

 それもちゃんと理解出来る。

 そう、今は冷静なのだ。

 「とにかく、出口を探そう」

 

 「出口なんて……在るの?」


 今の一言には、新たに不安が襲う。

 「あ、在るだろう?」

 最後の方が疑問系に為っている。


 委員長が俺を見て。

 辺りを見て。

 「そうね、ここに居ても仕方無い様だし」

 そう言いながらに歩き出す。

 「探しましょう」

 洞窟の前後? もしくは左右? の片方を進む。


 「出口がわかるの?」

 あまりに自信満々に歩き出す委員長に着いていきながら。


 「わかるわけ無いじゃない」

 進行方向に指を立て。

 「勘よ!」

 

 

 



 委員長を先頭に二人はユックリと暗い中を進む。


 「真っ暗じゃなくて良かったね」

 そう委員長に、後ろから声を掛けた。


 「良かないわよ」

 

 「どうして? 真っ暗じゃ歩けないじゃない」


 「この明かり、辛うじて辺りが見えるわよね?」


 「うん」


 「それは……おかしくない?」

 立ち止まり、振り返り。

 「洞窟の中に光の光源に成るものは何処にも無いのによ」


 ん? と首を捻る。


 「本物の洞窟なんて、真っ暗の筈よ!」

 俺の顔前に指を立てて。

 「この不自然な明かりは変なのよ」


 言われて見れば……変か。

 ほんの少しの明かりだが、近付けば委員長の顔も見える。

 足元も、目を凝らせば見える。

 「本物じゃないって事?」


 「見た目は本物っぽいけど……怪しいって事よ」


 「やっぱり……死んじゃったのかな?」


 「死んでないわよ!」

 声を荒げて足音を響かせ歩き進む。

 その委員長の足下で「プギャ」と、小さな叫びが聞こえてきた。

 「あ! なんか踏んだ……柔らかい何か……」

 と、その場を飛び退いた。


 俺は、その場所を顔を近付けて覗き込む。

 一枚のカードがソコに落ちていた。

 「カードだ……」

 拾い上げて委員長に指し示す。

 「踏んだのはこれ?」


 ジッと、見て。

 「違う、もっと立体感が有って、柔らかくて、プチって感じで……」


 よくわからんが……カードしか見付けられない。

 踏んだのは別の何か? か。

 そのカードには、ランタンを抱えた……フェアリー? らしき絵が描いてある。

 それを、そのまま額に当てた。

 

 「なにしてんのよ」

 委員長が鼻で笑う。


 「カードは額に当てるんだろ?」

 あの変なオジサンも言っていたし、それを委員長もやったじゃないか。


 「そんな変なオマジナイみたい……な……事……」


 「信じて頭突きしたんじゃ無いのかよ」

 そう言いながら、委員長の態度がオカシイ事に気が付いた。

 「なに?」


 その委員長。

 俺の頭の上を指差している。

 「出た……」

  

 俺も、その指の先を辿り上を向く。

 ……。

 なんか……居た。


 身長が手のひらサイズで、背中にトンボの羽が着いている……小人。

 想像通りのフェアリーってヤツだ。

 それが、俺の頭上で羽ばたいて飛んでいる。

 その手には、ランタン。

 「何で?」


 「今、カードから出てきた」

 委員長が呟いた。

 「額に当てたカードから、煙みたいなのが出て来て、それが集まって形に成って……その子に成った」


 そのフェアリー、いそいそとランタンをいじっている。

 だが……明らかに不器用だ。

 なかなか火が着かない。

 片手でランタンを支えて、ガラスの筒の部分を持ち上げて、火を着けようとするのだが……着けようとすると、ガラスが落ちる。


 見かねて、小さなランタンを摘まんで支えてやることにした。

 フェアリーが小さくお辞儀をして、左手でガラスを持ち上げ、右手で火を突っ込む。

 良く見れば、その右手の人差し指の先に火が浮いている。

 まるで魔法の様に。

 そして、ボワッと明かりが広がる。

 そのランタンの取っ手の部分を両手で持ち、俺の頭上に翔び、頑張って静止している。


 「で……誰?」

 上を見上げて声を掛けた。


 キョロキョロと辺りを見渡すフェアリー。

 そして、ジッと委員長を見る。


 「イヤ、違うから」

 大袈裟に手を振り。

 「あなたの事を聞いてると思うよ」


 「私?」

 そう答えて自身を指差した。


 頷く俺と委員長。


 このフェアリーっぽいモノは喋れる様だ。

 自分で聞いたのだが、その事に少し驚いた。


 だが、そのフェアリーっぽいモノは小さな首を傾けて唸っている。

 何を考えているのか?


 「あなたの名前は?」

 委員長がそう訪ねるのだが。


 俺としては、何者かを聞きたい。

 種族? もしくは分類。

 フェアリーで良いのだろうか。


 「名前……って、なに?」

 ランタンを掲げてわからないと言う。


 「そう……無いのね」

 冷静な委員長の受け答え。

 「あなたを呼ぶときの記号みたいなモノよ」

 冷静じゃないな、イラついているのだな。

 「じゃ、これからはランプって呼ぶわよ」

 目を細めて睨み。

 「そう呼ばれたら自分の事だと思って返事をしてね」


 「……はい」

 威圧されたフェアリーっぽい……ランプちゃん?


 「で……ランプちゃんに質問」

 委員長が続けた。

 「ここは何処? あなたは何者? カードってなに?」

 続け様に聞くのだが、すべての答えに小首を傾げるだけのランプ。

 そんな様子に。

 「使えないわね」

 吐き捨てた。


 当たりが強い気がする。

 コレが噂に聞く女子特有のマウンティングってヤツか?

 って事は、このランプちゃんは女の子なのかな。

 そういえば、白いワンピースの様な服を着ている。


 「ランプちゃんは、得意な事は有る?」

 俺は、委員長の様に高圧的には為らない、だから優しく聞いてみた。


 そのランプちゃん、答える代わりに自分の持っているランタンを指差し頷いた。


 「つまりは明かりだけの子なのね」

 フンと鼻息を荒げる委員長。

 「あなたの名前……提灯持ちにすれば良かったかしらね」


 イヤイヤ、それは酷いと思うよ。

 別の意味も着いてくるし。

 と、見れば、ランプはわからないと言う顔のまま、しかし怒られているとは感じたのか俺の後ろに隠れようとする。


 それを見た委員長が声を荒げて。

 「あなたの仕事は明かりでしょ! もっと高くに飛んで照らしなさいよ」

 

 「大丈夫だから、怖くないから」

 

 「誰が怖いって?」

 キッと睨まれた。

 それに怯んだ俺とランプ。

 

 その態度に溜め息一つの委員長。

 「いいから……照らしてくれる?」

 

 俺も頷いて、ランプを即した。


 チラチラと委員長を気にしながらも、高くに上がるランプ。

 そして、辺りが明かりで見え始めた。


 ハッキリと見えても、ソコはやはり洞窟の中。

 想像していたそのまま。

 だが、少し想像と違うモノが見えた。

 前方の地面に所々に見える、色とりどりの握りこぶしサイズの柔らかそうなグミの様な物体……それが這うように移動している。


 「スライム?」

 それにしか見えないと、呻いてしまった。


 「私が踏んだのは……あれかしら」

 委員長も、目を細めている。


 「スライムです」

 ランプが普通に答えてくれた。


 「スライムって、知ってるんだ」

 その事の方に驚いてしまった。


 何を勘違いしのか、ランプが照れ笑い。


 別に……誉めたわけでも無いのだが。

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