第6話

「はあ⋯⋯」

僕はため息を吐いた。

うちの主ときたら、浮かれちゃって困る。

もう14歳だというのに。来年からは学園の最高学年だ。

それなのに、ちょっと目を離すと、文字通り小躍りしているんだから。


「で、これからどうするんだ?いや、どうなるんだ?」


僕以外、唯一の主の取り巻き、シュバルツ・キターラが口を開く。

弟殿下と名前一緒なんだよね。ややこしいったら無い。

だから、普段はバル、と皆には呼ばれている。こんな奴、脳筋イケメン、略してノンケで良いよ。

緑色の短髪に黒目、スラりと背が高いが、無駄な肉は付いていない。

細マッチョ、っていう体型だ。

⋯⋯憎い。


「ん、まあ学園卒業までは大きくは変わらないだろ。で、俺は中央で働くか、リガトーニ子爵領行き。お前らは閑職行きが決定している。やったな、就職決まってるぞ」

「いや、それ駄目な奴じゃないか?」

「あるじー⋯⋯話が違いますよ?」


バルは近衛、僕は地方か学園の図書館の責任者、という約束だったのに。

約束を反故にしておいて浮かれてるんだから、そりゃ継承権無くされるよ。この駄目王子。


「バルは中央警備隊な。あそこの隊長、優秀な人材を近衛に推挙する任務もあるんだ。まあ、お前なら3年あれば確実だろうよ」

「な!マジか!」

「此処で嘘言ってたまるか。ちゃんと隊長にも話は通してある。扱かれるのは覚悟しろよ?」

「ったりめーだろ!よっしゃ!兄弟で出世頭だ!」


小躍りが二人に増えた⋯⋯。

もうやだ、こいつら。


「で、リオンは中央総合図書館の司書な。一般職で悪いけど」


リオンとは僕の事だ。

リオン・ファルファッレ。男爵家の長男だ。魔法が使える者が生まれ易い家系なので、爵位は低いが、それなりに知名度も影響力もある。

が、祖母以来、魔法の才がある子は生まれていない。僕もそうだ。

このままだと衰退するしか無い。

知識にも定評はあるのだが、やはり魔法使いが居るか居ないでは大違いだ。

大逆転を賭けて主に仕えたのだが、この有様だよ。


「中央総合図書館!特殊魔法で国中の図書館の蔵書が読める、あの!」


凄い!文官エリートコースの一つだ!しかも大好きな本に囲まれた生活!


「良くねじ込んだな」

「いや、不思議な事もあるものだ。前任者に私が頼んでも駄目で。俺が頼んだら、リオンを推挙して、自分は田舎に引っ込む決心をしてくれてな。リオンの才能に気付いたんじゃないかな」

「めっちゃ脅迫してる」

「話し合いだよ、お話。お互い了承。凄く平和。万歳。」

「何でカタコトなんだよ」


二人で喜びの舞を踊りながら会話をしてるんだから、器用な事だよ。

誰かに見られたらどうするんだろ?一応、此処王宮なんだけど。


「⋯⋯⋯⋯小躍り三人。貴公子じゃなく、奇行士よね」


そういえば、部屋の隅に主御付きの執事とメイドが控えているんだった。

こうやって居ない扱いに慣れているのも、流石は王族と侯爵家、ってトコだよね。


⋯⋯え?三人?

聞き間違いか、見間違いじゃないかなあ。あはは。

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