第16話 マイハニー・フラッシュクラッシュ

 テレビの株価情報の番組に使われるBGMはフュージョンばかり。これは一部の音楽好きなら、とうに気付いている点です。


 ミニサイズの情報番組は音楽がでしゃばってはいけないし、かと言って単調なメロディーでは芸がない。となると、視聴者が眠くならない程度に軽やかなBGM、ジャンル的にはフュージョン(あるいはスムース・ジャズ)が多く使われる様になります。NHKの衛星放送で流れている株価情報でも、以前『ルパン三世』のインストゥルメンタルを流してましたっけ。



 よくよく考えると、情報番組のBGMに大げさな抑揚は要らぬお世話。株価の上昇や下落に合わせて曲を変えていたら、トレーダーのメンタリティに深刻なダメージを与えるのは必至です。ましてや大暴落の時に、暗めのシャンソンなど絶対に流してはいけない。


 何かの間違いでハンガリーの楽曲『暗い日曜日(Gloomy Sunday)』など聴こえようものなら、自殺幇助じさつほうじょのそしりを受けてしまいます。TPOはわきまえなければ。



 たかがBGM、されどBGM。民放の天気予報はスポンサーの意向に沿って、コマーシャルソングを延々と流し続ける事もあります。


 北海道民の自分にとって思い出深いのは、一九九〇年代に外食企業「札幌かに本家」がスポンサーだった時の天気予報。しっとり落ち着いたインストゥルメンタルと共に、当時の店内や周辺(札幌・中島公園)の様子が映し出されていました。全体的に控えめな印象で、天気予報の内容も無理なく頭に入るのが良い。


 ところが、これがHTB(北海道テレビ放送)の「onちゃん音頭」となると話は違ってきます。元々はチーム・ナックス主演の深夜バラエティー番組『いばらのもり』(二〇〇〇〜二〇〇二年)から生まれたキャラクターソングですからして、歌詞がシュールなら【onちゃん、noちゃん、もん太くん】の着ぐるみダンス映像もシュール。着ぐるみの中身は安田顕、大泉洋、森崎博之の三名です。


 これを二〇〇一年当時、HTBが天気予報のBGMに起用していたなんて、暴挙にして狂気の沙汰。余りの異様さに当時のアナウンサー達は絶句し、視聴者もあっけに取られて肝心の天気予報が何一つ頭に入って来なかったとか。若き日の彼らによるソング・テロですね。あな恐ろしや。



 これらの例を取っても、BGMの選別はとても大切な訳ですが、近年は意外にもNHKの各コンテンツがはっちゃけています。外注プロダクションの都合かそれともテレビ局側がさばけて来たのか、あらゆる番組内で民放ゆかりのBGMをバンバン流しているのです。


 古いところで刑事ドラマ『踊る大捜査線』、海外ドラマ『奥様は魔女』『エアーウルフ』、やや新しいところでアニメ『けものフレンズ』『ガンダムビルドファイターズトライ』『僕のヒーローアカデミア』、弁護士ドラマ『99.9 -刑事専門弁護士-』等。


 NHKの全国放送のみならずローカル局でもこれらのサントラが使われるなんて、時代は変わりましたね。まるでバブル期のフジテレビを観ている気分になります。……何がどうしてこうなったのかしらん?



 個人が雑事の傍らに求める音楽の場合は、サブスクリプション型の定額聴き放題サービスを使うのが最もお手軽。最近ではAmazon Music、Spotify、LINE MUSIC、Google Play Music等、サービスが乱立してます。有名どころのアーティストによるアルバムも、随時配信される様になりました。



 個人的にお薦めなのは、ジャズ・トランペッターのハーブ・アルパートによる全作品。その中でも特に日本人に馴染み深い曲は、『Bitter Sweet Samba』と『Route 101』の二曲です。


 前者はラジオ番組『オールナイトニッポン』のテーマに、後者は一九八〇年代に発売されていたウイスキー【ロバート・ブラウン】のコマーシャルソングに起用されました(アルバート氏本人も出演)。トランペットの流麗な音色が耳に心地良い。

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