第30話 受付と、契約と

外で待つこと約30分、建物に流入という流れは流出という形に変わっていた。


ある程度人が抜けたあたりで、観音開きの扉を押して、その建物の中に2人で入る。

その大きい建物の内装はというと、天井が高く、ステンドグラスの窓がいたるところにはめられているため、広々としていて、採光がよく取れている明るい空間という印象を受けた。


隅の方に目をやると、今日が人が大勢来ることを見越してなのか、押し寄せた人たちが押しのけたのかは知らないが、テーブルとイスが詰めるようにしておかれていた。


入り口の扉から向かって正面に当たる位置にはカウンターができていて、そこには大人数の職員?と思わしき人たちがそれぞれ疲れた、なんて顔をしながら椅子に腰かけていた。


なんていう観察をしているうちに自分と一緒に入ったこどもがカウンターの職員にコンタクトを取りに行っていた。

なんとはなしに自分もその子の後を追う。


「入学・・・希望者ということでよろしいですか?」


職員さんの発したそんな声が耳に入った。さっき話しかけられたこどもからも同じ言葉を聞いた。先程は自分が入学?と尋ねると、


「入ってみたらわかるよ、それより私と好きな食べ物の話をしよ!」


なんていいながら『ぺか』なんて効果音が似合うような屈託のない笑顔を浮かべつつそんなことを言われてしまったため、重ねようと思った言葉を飲み込んでしまった。


そのため自分は、


「その、入学って何ですか?」


と、そのこどもの受付をしてくれている職員?さんに尋ねる。


その人は、自分の不思議な恰好に対してなのか、横からチャチャを入れられてなのかはわからないが、こちらに視線を向けて一瞬怪訝そうな顔をした後、すぐに表情を戻してあなたも入学希望者ですか?と聞いてきた。


自分は、スタンさんにここに来るように言われたというと、職員?さんはなるほどという顔をして、自分と一緒に入ったこどもの隣に促す。


ずっとなんていう個人を断定できない言葉で片付けていることに若干の罪悪感・・・というよりかはいちいち、こどもなんていうのは(口には出してないが)めんどくさいという気持ちがあったためあとで名前聞いておこうなんて考えているうちに。


「ではここにあなたの名前を記入いただけますか?」


なんて言いながら職員さん?は自分の目の前に何かを取り出した。

スタンに会うためには名前とか書かないといけないのか。なんて思っていると、出てきたものに目を奪われる。


それは、羽ペンと分厚い紙っぽいものだった。


羽ペンなんて使ったことがないのでその珍しさに目を奪われた。


なんてそんな文にして一行足らずで終わるようなことに目を奪われたのではなく、紙の方である。


分厚いと表現したのは紙の厚みのことであり、大きさではない。そう、大きさは大体、A4サイズなのだが、厚みが2mmくらいある。まるで木の皮をはがしてきて、それを処理せずそのまま使っているかのような見てくれだった。表裏ぺらぺらめくってみると、どちらの面にも、木の木目がびっちりとついている。


よくこんなのを使うよな。あんまり技術が進歩してないのかななんて思いながら、伸也は表の面の右下のほうに木目がないところを見つけ、そこに名前を書くことにした。もちろんで。フリガナはふらなかった。


ほどなくして、自分が呼ばれる。少女はというと、その紙をまるでにらみつけるかのようにじっと見ていた。

邪魔しちゃいけないかなとか思って、じゃ。とだけ小さく言うと、案内されるままに従った。


名前はおろか性別すらもその時は聞けなかった。

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