第3話 朝食は米派

 僕、蒼井近江の朝は早い。朝6時に起きて朝食とお弁当の準備をする。


 朝はお米に限る。パンが悪いって訳じゃないけれど、日本人に生まれた性なのか僕はお米派だ。



 炊飯器でご飯を炊きながら、炊けるまでの間におかずを作っていく。卵を3つ溶いて、フライパンで焼いていく。卵焼きが3本でき、次にソーセージを焼いていく。




 卵焼きを半分に切り、片方をお弁当に詰めていく。冷凍ハンバーグをレンジで解凍し、昨日作ったポテトサラダをと共にお弁当にぎっしり詰める。




 男が作ってるからって弁当の見栄えを気にしないわけにはいかない。僕は気にしないんだけど栗は気にするみたいだ。




 以前ガッツリ弁当を作ってみたことがあった。唐揚げやハンバーグ、焼きそばの男の好物フルコースだ。その日の夜、栗にこっぴどく叱られた。




 あんな茶色いお弁当を持ってきてるなんて友達の前で恥をかいた。今度あんなお弁当を作ったらあんたの学校まで乗り込んで作り直させるからと脅かされた。




 栗は思春期の女の子なのだ。そういうところまで気を配れなかった僕の落ち度だ。




 あれ以来お弁当の彩りには気を配っている。お姉ちゃんは文句を一切言わなかったけど見栄えが良いお弁当のほうがいいに決まっている。




 僕が味噌汁を溶いていると、2階から階段を下りてくる音がした。



「おはよう近江」


「おはようお姉ちゃん」



 午前6時30分、お姉ちゃんはいつもこの時間に起きてくる。前はお姉ちゃんもお弁当作りを手伝ってくれていたが、学校の遠いお姉ちゃんはいつも朝早く家を出るのでお弁当づくりは僕が断った。



 家族を支えるのはいつだって男の僕の仕事だ。家族に無理はさせられない。



「近江、今日は何時に帰ってくるの?」


「今日は買い物して帰るから少し遅くなるよ。暗くなる前には帰ってくるから」


「そう、でもあんまり遅くなったらだめよ。今日は私と一緒に勉強してくれる日でしょ」


「分かったよ。できるだけ早く帰ってくるよ」



 お姉ちゃんはあんまり頭がよくない。僕は地元のそこそこの進学校に通っていて、栗は地元でも屈指の頭のいい中学校に通っているが、お姉ちゃんは僕が通っている高校に落ちちゃって隣町の高校に通っている。




「お姉ちゃん、今日は豊(ゆたか)も家に誘っていいかな。昨日家で一緒に勉強を見てくれないかって郷子(さとこ)さんに頼まれたんだ」




 郷子さんは以前ホームシッターをやってくれていた人で、豊は郷子さんの娘で僕と同い年だ。




豊もお姉ちゃんと同じ高校に通っている。




 勉強が苦手な豊に勉強を教えてくれないかと以前郷子さんに頼まれて、時々一緒に勉強しているのだ。



「えー今日は付きっきりで教えてくれるって約束じゃん。郷子さんとはもう約束しちゃったの?」



「いやしてないよ。分かったよ、豊との勉強会はまた今度にしてくれないか郷子さんに聞いてみるよ」



「豊ちゃんはいい子だし、郷子さんには恩もあるけど近江には近江の人生があるんだから。郷子さんも少しはその辺気にしてほしいわね」



「いいんだよ僕は。それに郷子さんには本当にお世話になったじゃないか。恩返しはしたいよ」


「分かった。でもほどほどにね。近江は頑張り屋さんだから」




 お姉ちゃんとの今日の予定を話しているうちに味噌汁も出来上がり、朝ご飯の準備が整った。




時刻は間もなく午前7時。さていつもの様に栗を起こしに行かなければ。




これも僕の仕事だ。だって僕は蒼井家の長男だから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る