第6話

 「イブ……」

 エイジはコンクリートを見つめながらつぶやいた。

 その4秒後のことだった。

 電気が消え小さな照明が点灯。

 館内放送。

 全館ロック解除。消化のため酸素濃度低下。至急非難してください。

 エイジ廊下に出る。

 廊下には黄緑色のリノリウムが張られており病院のようだと感じていた。壁は所々崩れており、中にはメータの付いた鉄製の箱が並んでいた。エイジにロシア語が読めたならそれらには「UPS(無停電電源装置)」と書かれたプラスチックを打ち出したラベルが貼られていた。

 「殴られたのは初めてだな」エイジは腫れた頬を撫でながら辺りを見回す。

 どこにも人が居ない。

 天井には所々監視カメラがぶら下がっており、ドアの横にはカードキー用のロック装置が引っ付いている。

 「なんだろ……病院……かな?」

 エイジは洞穴の入り口のような壁の穴をくぐった。ここだけ照明が落とされている。

 暗い。

 手探りを繰り返して目の前に背の高さほどの鉄の壁があることが分かった。その壁と平行に移動していく。鉄の壁が途切れた。

 「光? 」

 緑や青の小さな光。まるで星空のように瞬く無数の光があった。

 「LED……」

 そこはコンピュータルームだった。高さ2メートル、幅19インチのスチールラックに満載できるだけのコンピュータを押し込んである。一つのラックに少なくとも40台以上のコンピュータが搭載されており、そうしたラックが一列数十基はあり、その列がどこまで続いていた。一台のコンピュータに少なくとも3つのLEDが点灯しており、エイジが星空と感じたのも無理は無かった。

 エイジは呆気に取られながらLEDの海原の中を移動していく。少し離れたところに白い明かりが見えた。まるで地元で見た夜の競技場を照らすライトのようだ。ラックの隙間をパックマンのように移動しながら白い明かりを目指す。ラックの隙間を抜けると広場に出た。灰色の事務机が並べられており、その上にはノートパソコンが等間隔で設置されていた。机の向こうには六十インチはあろうかというモニタが黒板のように立っている。

 エイジは事務机に座ってノートパソコンのSHIFTキーを押した。

 ノートパソコンの画面が点灯した。幸いロックされていなかった。

 画面には黒いコンソール画面がいくつも開いていた。それらの画面は透過設定がしてあり背景の宇宙の画像が見えた。

 エイジはブラウザを起動した。

 ログインIDとパスワードを求める画面だ。

 エイジは適当に試す。

 root/root

root/password

scott/tiger

USERID/PASSW0RD

どうにもログインできない。

 uname -a

 エイジはキーボード打ち込む。キーボードにはキリル文字が書かれているがエイジはブラインドタッチできるため関係なかった。

 Open SuSE Ver.32 SP3

「SUSE……ロシアでも使うんだな……」

 whoami

 自分のユーザ名を訪ねるコマンドだ。”私は誰?”

root

 「えっ? root?」

 passwd

P@ssw0rd

 エイジはパスワードを変更しておいてからブラウザにログインする。 

 六十インチのモニタに電源が入り画面が点灯した。

 エイジの見ているノートパソコンと同じ画面だ。

 黒い立方体の映像だった。

 エイジは何の映像かわかりかねた。スクリーンセーバだろうと思って視線をノートパソコンの画面に戻した。

 何かヘンだ。

 何かひっかかるものがあった。

 映像を再び見る。

 「マウス!」

 トラックボールを転がして数秒前の映像に戻す。

 ここだ。

 画面をキャプチャ。

 「ビューワー無いか? 無いな。これでいいや」

 Firefoxを起動。

 画面を拡大する。

 木製のたまねぎ。

 教会の尖塔だ。ロシアのXXXX。

 大気の揺らめき……望遠映像……。

 右下にカウンター!  20230723114546566……。西暦と時間……。2023年7月23日11時45分46秒566ミリ秒!

 生(ライブ)だ。

 「これがホシ……? 」

 画面にヘリが映る。

 立方体の巨大さが際立つ。

 ヘリのドアから人が乗り出しているのが見えた。

 Tシャツにホットパンツ。ログヘアの東洋人。

 「イブ! 」

 イブはヘリから飛び降りた。

 

 

 イブは立方体の上面に着地した。

 着地のショックに対応するため擱座の姿勢。立ち上がる。イブの髪が風になびく。

 ホシが相対する。

 「一応聞くけど”やめる気ない?”」

 ホシが咆哮する。

 「ギィイイイイイイイイイイエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 片目を閉じて「だめそうだね」と言った。

 イブはホシに駆け寄る。

 ホシは口を大きく開ける。内部はまるで別世界。大量のミサイルが見える。英字、キリル文字、漢字が書かれている。ホシはミサイルを口から吐き出すとイブに投げつける。ミサイルは高速回転しながらイブに飛んでいく。

 イブは走りながらも器用にミサイルを蹴り上げる。次々とミサイルを飛ばすホシ。障害物競走の要領で次々にミサイルを蹴り上げながらホシに近づくイブ。

 ついにホシの至近距離に詰め寄るイブ。

 イブはホシの下腹部にドロップキックをお見舞いする。イブのつま先がめり込む。ゴムのよう。ホシは腰を落とした姿勢で踏ん張ると両手を握る。イブを反動ではじき飛ばす。イブは吹っ飛ぶ。

 イブが飛ぶ。

 空中を飛ぶイブをホシが追いかける。イブは反動で飛んでいるのではなく、明らかに自分の意思で飛んでいる。

 「この辺かな?」

 イブは真上を一瞥する。

 ホシの頭上にミサイルが落下してくる。イブが最初に蹴り上げたミサイルだった。ホシを直撃。

 イブは急ブレーキを掛けて姿勢をただす。腰を落とすと目を閉じる。目を見開くと爆炎に向けて正拳突きを放つ。

 正拳突きの放たれた方向は爆炎がかき消え、後方へ吹っ飛ぶホシが現れた。ふっとぶホシの頭上に次のミサイルが落下する。爆炎があがる。イブはまた正拳突きで爆炎をかき消してホシをふっとばす。ふっとんだホシの頭上にミサイルが落下する。合計四十六発のミサイルとイブの正拳突きの衝撃波がホシを直撃した。最後のミサイルの爆炎が消えた。ホシはそこに先ほどと全く変わらない様子で立っていた。

 イブはホシの方向に向けて正拳突きを左右交互に空気中に放つ。和太鼓のような音。ホシの腹部にこぶし大の陥没が二つできる。

 ホシは手のひらをイブに向ける。

 さらに正拳突きを空気中にたたき込むイブ。

 ホシは手のひらで衝撃波を受け止める。

 イブの正拳突きのスピードがあがる。和太鼓のような音はごく短い破裂音に変わってきた。ホシが同じ姿勢のまま後ろに押されていく。踏ん張るホシ。

 正拳突きのスピードがさらにあがり目では追えなくなる。イブの顔は紅潮して額に汗が浮かぶ。

 踏ん張っているホシの足のアキレス腱に小さな裂け目が口を開ける。

 もはやめちゃくちゃちゃにパンチを繰り出しているイブ。

 耐えるホシ。アキレス腱の裂け目が広がる。

 「これでぇぇぇぇ!! どぅうううだぁ!」

 イブが渾身のストレートを放つ。

 ガキンという金属音。

 ホシの足が千切れて地面に後頭部を強打する。ホシは仰向けに倒れている。

 イブは二秒ほど肩で息をするとホシに駈け寄って馬乗りになって顔を殴る。殴る。殴り続けた。

 三十分間イブはホシを殴り続けた。

 「えっ?」

 ホシを殴り続けるイブは振り返って空を見上げる。

 雲一つ無い空。上空にイナゴのような黒い群れ。十や二十ではない。都合一万弱。巡航ミサイルの群れだった。

 ホシは殴られながらミサイルの群れに向かって咆哮する。

それを合図に立方体の頂点からオレンジ色の光がミサイルの群れに向かっていく。ミサイルは上空で爆発していく。誘爆による爆発の連鎖。ミサイルに核ミサイルが混じっている。高熱。立方体が歪む。光の中でイブの服はおろか髪も肌も蒸発していく。ホシの表面も泡立ってくる。

 二つの人型は光の中で取っ組み合いを続けていたが、光の上にさらに光が上塗りを続け何もかもが白くなっていく。

上空に機影。

ソ連のT556、アメリカのB52、中国の殲宮七号、イギリスのカーチス。爆撃機の大編隊だった。コクピットに人はいない。無人運転だった。

 カーチスの腹部が開く。内部には垂直に吊り下がった無数のミサイル。

 Mother of all Bomb 通称”全ての爆弾の母”

 T55が両翼に吊り下げているのは核爆弾だった。

 B52と殲宮七号が機体下に吊り下げているのは水爆だった。それもいわゆる純粋水爆だった。

核と爆弾の母は水爆の起爆用。

水爆が落下。軟体動物のような立方体にぐにゃりと沈んだ。そこに核が落下。爆弾の母の猛烈な爆炎が上がる。核が起爆。核により水爆が起爆。



 エイジはモニタに釘付けになっていた。

画面は真っ白。

キーボードをあれこれ操作するが画面は回復しない。

何度もバックスペースキーを押してコマンドを入れ直す。

ゆっくりとキーボードから手を離す。手が震えている。

 「ちくしょう……! ちくしょう……! 」エイジは独り悪態をつくと隣のイスを蹴り上げる。イスがひっくり返る。キーボードを机に叩きつける。いくつかのキーが取れて飛んでいく。

 エイジの目に涙。

 「あれじゃ、死んじまう……! 」

 エイジは隣の席のキーボードを引っこ抜くと目の前の端末に差し込んであれこれいじる。大きな音を立ててエンターキーを叩く。

静寂。

一瞬おいてモニタにレーダが映る。爆心地に二つの反応。

 「イブ!!!!」

 エイジ廊下出る。

 何度も扉を開けて階段を見つける。狂ったように階段を駆け登る。

気付くとうめき声が聞こえているがエイジは構わず階段を登り続ける。

一階。エイジは小さな照明のもと走る。時に柔らかなモノを踏みつけるが気にしない。

滑走路。目指すは格納庫。

 格納庫に日本のスパイがリクライニングチェアに掛けている。

 顔に汗。

 「ジャンパーならあれしか残ってねぇよ」

 格納庫内の照明が落ちる。

「重油が切れたのさ」

「●●……さん?」

「よう、ざまぁねぇな」

「何があったんだです?」

「オレにも分からん」

 指さす。

 エイジジャンパーに近づく。

 カバーを剥がす。

 旭日旗が肩に描かれた海自仕様のジャンパー。

 「……敵わねぇぜ……」

 「敵うとか敵わないじゃない! 」

 「言うねぇ。日本男児」

 エイジジャンパーに乗りこむ。

 「聞こえるか?」無線

 「まだ何かあるんですか?」

 「その場でジャンプしろ! できるだけ高くだ」

 「えっ?」

 「上空でAWACSが旋回してる。レーダドームはジャンパーの跳躍に耐えられる!」 

 エイジ言われるままにジャンプ。屋根を狙撃して空中へ。

 ジェット機。

 「これって……」

 「気にするな、人民解放軍だ。三時方向へ千メートル上がれ!」

 エイジ跳躍。

 「うまく掴まれよ!」

 上空でミサイルのような航空機が飛んでいるのを発見。

 「それだ!」

 しがみつく。

 「ロシアのドローンだ。操縦はオレ」

 上昇するドローン。

 「どこまで上がる?」

 「高度二万。宇宙さ」

 スパイの腹部に血がにじむ。

 ジャンパー宇宙まで上昇する。

 「ここまでだ」

 「なんで協力してくれる?」

 「さあな……」

 スパイ地面に倒れ込む。

 「アバヨ……がんばれよ」

 エイジ、ドローンから降下。

 スコープ覘く。立方体がとろけるチーズのように地面にただれている。

 イブは見えない。

 滑空。

 スコープを覘き続ける。

 黒い人影が一体。

 「あれは……」

 「拡大しますか?」

 「うわっ! 君は?」

 「エキスパートシステムの桜です」

 「エキスパートシステム? コードはLISPで書かれてんの? まぁいいや、拡大してくれ」

 スコープが拡大される。やはり黒い人影。よく分からない。

 エイジ、ハッチオープン。スコープを直接覘く。

 「光学ズームをたのむ、桜」

 スコープが回転。スコープ内に黒い人影。

 ホシ。

 「くそっ!!!」

 エイジ素早くマニュを操作。

 ジャンパーが狙撃。薬莢が風で飛ばされボディに当たりあさっての方向へ飛んでいく。

 「弾着確認しますか? 装填しますか? 」

 「弾着? どうやって? 」

 「ドローンのカメラを使います。両方同時にできます」

 「装填たのむ。装填完了したら押してくれ! 弾着はどうやって確認したらいい?」

 「装填開始。弾着はモニターをご覧ください」

 ジャンパーの腕が自動的に動きボルトアクションの狙撃銃を装填する。

 モニターにはホシの映像。

 「よん! さん! にぃいい! いちっ!」

 桜がカウントダウンをする。

 「だんちゃ~く。 いまっ!!」

 モニターのホシに変化はなし。

 「着弾位置分かるか?」

 「目標を正面に左後方五メートル四十五センチの位置です」

 「観測の誤差みたいなものはある?」

 「あります。ドローンの観測誤差は三から七パーセントと推測。解析誤差は無視できます」

 エイジ目をつむる。何かを考える。

 「装填完了!」

 コクピットから身を乗り出しスコープを覘く。

 「風量七。目標より左三センチの位置がおすすめです」

 エイジはジャンパーの狙撃銃の上下を反対にする。銃身を抱えるように構えるとあっさりと発射した。

 モニターを凝視。

 「狙いが上すぎるのでは?」

 「逆さに撃ったからこれでいいんだ。この銃の弾道は僅かにホップするはずだ」

 「一発で判断するのは統計上無意味です」

 「いいんだよ、一発で」

 「失礼しました。よん! さん! にぃいい! いちっ!」

 エイジはマニュのアクリル製の四角いカバーを押し上げる。

 紅いスイッチが現れる。

 「だんちゃ~く。 いまっ!!」

 モニターでホシの頭が僅かに揺れる。

 「命中!」桜。

 エイジ紅いボタン押す。

 ホシの頭が風船のように膨らむ。それもボコボコと凹凸のあるじゃがいものような風船だった。

 エイジ、マニュを操作。

 ジャンパーは銃を投げ捨てる動作をするが銃は離れない。

 「どうしてだ? 」

 「火器管制中はハンドロックされています。銃を廃棄されますか?」

 「そうだ。銃を捨てる。抜刀だ!」

 「了解」

 「降下翼もだ」

 「はい? 」

 「廃棄だ」

 「繰り返します。降下翼を廃棄されますか?」

 「そうだ。廃棄だ。あと廃棄できるのは何がある?」

 「背嚢、ショックアブソーバ、アバブ装甲……」

 「全部廃棄だ」

 ジャンパーから次々と部品が外れていく。

 「リコイルダンパーはどうします」

 「廃棄。二度目の跳躍はないよ」

 「了解。廃棄します」

 脚部のダンパーが外れる。まるで骨のようなジャンパーが日本刀を上段構えの姿勢でホシに向かって降下というより落下していく。

 コクピット内に警報が鳴り響いてアンバーのLEDが点滅を繰り返す。

 ジャンパーはホシの頭部に斬りかかる。

 日本刀は巨大化したホシの頭部に突き刺さり、ウェディングケーキへの入刀のようにゆっくりと切れ目を入れていく。

 やげてホシの頭部は真っ二つに割れる。ジャンパーはそのまま地面に衝突する。頭部への入刀で多少衝撃は和らいでいるが上空からの衝撃は三億トンの加重が掛かっている。

ジャンパーの脚部はひしゃげる。コクピットは何とか無事だった。

 エイジ素早くマニュ操作。

 「コウガイ抜刀!」

 ジャンパーの手が日本刀から手を離し柄に差し込まれたコウガイを素早く抜き取る。

 コウガイは柄に仕込まれた小刀だ。

 ホシの手がジャンパーのコクピットをグーでたたきつぶす。

 ジャンパーの手がコウガイでホシの胸を突く。

 同時だった。

 ホシの胸から真っ黒な血が吹き出す。

 潰れたコクピットから桜の音声が響く。

 「システムフォルト。さようなら……」

 ジャンパーが爆発。腰のタンクからガスが漏れホシが冷却される。

 黒い血が一気に氷となる。

 静まりかえる。

 黒い血が溶け始める。

 ホシの頭が回復を始める。

 ドン!

 ホシの胸が後ろから突き破って白い腕が現れる。

 手首の裏にQRコードのタトゥー。

 腕が引き抜かれる。

 イブだった。

 坊主頭、宙に浮いている。

 目には涙。

 「エイジ……」

 ジャンパーは瓦礫同然。黒いオイルが血のように滴っている。

 「くそっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 イブ、ホシを引き裂いてかじる。

 かじりながらホシを踏む。

 泣きながらホシをちぎる。

 ホシの残骸を宙に投げる。

 口からビームを放つ。

 大爆発。

 爆発の中からホシが黒い人影のまま現れる。

 イブに襲いかかる。

 ホシの腕が硬質化して巨大な鎌になってイブに襲いかかる。

 イブは腕一本で止める。

 イブは残った手を硬質化させて刀のようにする。

 鎌と刀のチャンバラ。

 イブは器用に鎌を止めてホシを刻んでいく。

 だが刻まれたホシからホシが生まれていく。その数七体。

 イブは口からビームを放ってホシの分身を消し去っていく。

 のこり三体。

 ホシも口からビームを放つ。イブの腕が落ちる。

 イブの腕がホシそっくりの黒い人影になる。すぐにイブそっくりとなる。髪の毛はあるが裸のまま。

 イブは挟み撃ちの要領でホシにビームを放つ。

 残り二体。

 「くそっ!!!!!!!!!」

 髪の毛のあるイブがホシを羽交い締めにする。

 坊主のイブがホシにビーム。腹部にかざあな。羽交い締めにしているイブもろとも腕の刀で真っ二つにすると再度ビーム。爆発。

 ホシと丸坊主のイブの一騎打ち。

 ホシがイブを丸呑みする。

 静寂。

 ジャンパーのガレキが動く。

 ガレキの中からエイジがのそのそと抜け出す。両手でジャンパーのコウガイを引きずりだしている。

 ホシがエイジに向けて口からビームを放つ。

 ホシの腹部を破ってイブが飛び出す。エイジに向かうにつれて髪の毛がはえだし、体にはTシャツとホットパンツ姿になっている。エイジの目の前に来る頃にはすっかり生え揃った髪の毛をなびかせて笑顔になっている。

 「エイジ!!!!! 」

 イブ、ビームを追いこしエイジに抱きつき押しのける。

 「イブ!!!!! これだ!!」 エイジ、コウガイを指さす。

 イブ、コウガイを受け取る。目を閉じて集中する。

 コウガイが真っ赤にただれる。

 イブコウガイを大上段に振りかぶってホシを斜めに切る。

 煙を上げるホシ。

 イブホシを蹴り上げる。

 追いかけて飛ぶイブ。

 上空でさらに蹴り上げる。

 さらに追尾するイブ。

 イブは繰り返して上空80000メートルの地点まで到達。

 冷えて黒くなったコウガイをホシに突き刺す。

 イブはコウガイを蹴り飛ばす。

 コウガイは大気圏外に出た。

 宇宙空間に出たイブはホシにビームを放つ。

 ホシは漆黒の闇に飛んでいく。

 反対にイブは大気圏に落下。

 髪や服は焼ける。

 真っ黒こげにイブがエイジの近くに落下。

 地面から顔を出した時には普段のイブのまま。

 エイジ駈け寄る。

 イブ駈け寄る。

 抱き合う二人。

 ふとイブは空を見上げる。

 

 月面基地。

 「月面から謎の物体が浮上中」

 「地球に対して毎時●キロで接近中」

 「月面裏側に立方体出現」

 

 青い空に巨大な立方体。

 「あれは?」

 「整地装置だよ」

 「整地? 土地を整備するって意味?」

 「そう。整地」

 「どこを整地するって?」

 「この星だよ」

 「地球? 」

 「そう」イブ伏し目がち。

 「整地して……どうするの?」

 「売却するのさ」

 「売却? 誰が誰にだよ。イブ、おまえ記憶が戻ったのかよ! お前は何なんだよ!」

 「私は……装置の監督、保護が任務の生体モジュールだ。あいつに飲み込まれて思いだした。あいつは私からブランチ(枝分かれ)したモジュールなのに正確な命令セットを持ってたんだ。私は何故か命令をすっかり忘れてしまっていたんだ」

 「何言ってんだよ! じゃ、おまえはこの星を全部平らにして誰かに売ろうってのかよ!」

 イブ、エイジを見つめる。

 美しい瞳。

 風に流れる髪。

 エイジもだまり、イブを見つめ返す。

 「そんなことしない」イブ。

 ゆっくり上昇するイブ。

 「どこ行くんだよ。イブ」

 「止めるんだよ」

 「どうやって?」

 「押し返す」

 「おまえが?」

 「うん」

 「お前は無事なのかよ!」

 「どうかな」

 「やめろ! イブ!」

 「おまえが好きだエイジ。だからこの星を守るんだ」

 「ふざんけんな! 死んだら意味ねぇだろ!! おい! いよいよ、ふざけんだよ! やめろぉ!! イブ!」

 イブ、上昇。

 「また会おうぜ」

 イブ上昇。

 空一杯の立方体。

 イブと立方体の戦い。

 ボロボロになって立方体を太陽に落とすイブ。


 ハワイ。

 天文台。

 

 太陽に向かうイブ。

 眼球が蒸発し何も見えなかった。

 ただエイジの無事を強く願っていた。

 だがそうしたイブの思考もやがて消えていった。


 ニューヨーク。タイムズスクウェア。

 立方体が地球から離れていく。

 太陽に落下した原因はついぞ分からなかった。


 

 「諸君らの中には来世を信じているものはいるか」

 夢うつつで聞いていたエイジ。

 「この宇宙は無限で永遠だ。諸君らは永遠の可能性を甘く見積もり過ぎている。無限というものが如何に凄まじいものであろうか。いいかね。永遠の時間というものは来世というものを実現する可能性を秘めているのだよ」

 エイジ、むっくりと起きだして声の主に耳を傾ける。

 人気の少ない講堂で教授が声を張り上げる。

 「カール・セーガンは著書『コスモス』でこう言った。××××× だと。これが宇宙が持つ可能性だよ」

 エイジの目が輝く。

 講堂を出るエイジ。 

 大学の中庭。

 ブルーのリボンの女性が見える。

 エイジは一目散にその女性に駈け寄り抱きつく。

 「キャー! キャー! ヘンタイ!!」女性の叫び声。

 駈け寄る警備員。

 警備員に引っ張られるエイジ。

 振り返るエイジ。すがるような表情。

 それを見て楓イブは思わず笑ってしまった。

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ポルノ・スター @nightfly

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