第5話 部外者

あんなに辛くて、

頼りたくて、

こっちを向いてほしくて、

もっと言えば、ただ黙って抱きしめてほしい、とさえ願っていた時には、

ずっと背中を向けていたくせに。


私が義父母や義妹との関係で押しつぶされそうになっていた時には、

見て見ないふりをして、ひとりで勝手に遊んでばかりいたくせに。


今頃なんなの。


夫が急に、私にべたべたとまとわりつくようになった。


同窓会まであと一か月、という頃だった。


(私をここまできれいにしたのは、彼だからね。

あなたなんか、本当に部外者だから)


あの日、そう、同窓会の知らせを受けたその日から、

『彼』と会う、

そして抱かれる日に向けて、

自分改造計画をしているというのに、

心底うっとおしかった。


申し訳ないけど、夫や義父母に対して、

一緒に暮らしているものの、

『どちら様ですか?』というような気分だった。


もちろん、子供だけは別だ。


中一の娘の顔を見ると、どちら様ですか、とは思わなかった。


だけど娘はさすがに女だ。

鋭い。


『ママ、最近、すごくきれい。

あたし、うれしい。もっときれいなママになってほしい』


そう言った。


そうだよね。


今までごめんね。


ママね、我慢が美徳だと思っていたの。

我慢が人生の意味だと思っていたの。

ずっと女性がそうしてきたように、ママも、

我慢に我慢を重ねたら、家が発展すると思っていたの。


だけど、そんなこと、ないよね。


勝手に我慢をして、

パパやおじいちゃんたちを恨んで、

醜くなって、

心で悪いことを考えて・・・。

そんなママ、いやだったよね。

ごめんね・・・。


ママ、幸せになるから、本当に。


ママ、心底、自分と対峙してわかったよ。


人生で一番大切なことって、

自分の心と体を大切にすることだよ・・・。


60キロあった体重は、52キロになった。

神様の言った通り、私は別人になれた。


やったことは、膣トレと、顔ヨガと、筋トレだけ。

あとは、回想と妄想だ。

彼とのことをずっと考えていたのだ。


『あんた、どっか悪いの』


義母は聞いた。

義父も、

『痩せ方が病的だ。医者行け』と言った。


『大丈夫ですよ』


病的と言われれば言われるほど、

私は満足だった。

だって、彼といたときの私、

17才の私は47キロだったから。


そこまで減らせないにしても、

近づいたのだと思った。


(あなたたちなんかとご縁がないころの、

かわいい私に戻ってきたのよ)


そう思えて満足だった。


・・・ここまでお読みいただいた皆様には、

この人は、なぜ、彼に『抱かれる』前提なんだろう、と

お思いのことと思います。


30年ぶりに元カレに同窓会で会う。

そこで不倫関係になるという話は

そこらへんに転がっていることと思います。


だけど、違う。

私たちにはそうしなければならない『理由』があるのだった。






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