マトリョーシカの地球

バンブー

第1話 平和な日々を過ごしていたら空が割れ宇宙船が降ってきた。





「おとん、おかん、今日もワイは頑張るからな」



 日本橋。

 この物語の主人公ツルハシは、自転車屋を営んでいた。

 仏壇に手を合わせ、店の外へ出る。

 見上げるは雲一つない澄んだ青い空。

 鳥達の爽やかなさえずりを聴き、今日も彼の自転車操業が始まった。


「……ヨッシャ! 今日も気持ちの良い朝やな。お天道さんおーきに!」


 一つ伸びをして彼が店を掃除し始めたその時だった。


「……はぁ!?」




 パリン――と空が割れた。




 仕事日和の空を見上げていたツルハシは目を丸くする。

 ゴゴゴと重く響く雷のような轟音。

 破片が剥がれ落ちる。

 ひびが徐々に広がり空を二分し広がっていく。

 高度10キロメートル程の高さに、街を覆う程の巨大な穴が開いた。

 その穴は吸い込まれそうな程黒かった。


「なんや!? 何が起こっとるんや!?」


 突然の出来事にツルハシは腰を抜かす。

 平和な日常が一変、常識を逸脱する光景が広がってしまった。


「ワイは夢でも見とるんか……ん? あれは――」


 見上げて唖然とするツルハシは、黒い穴から何かが落ちてくるのを見つけた。

 それは不規則に進路を変えながら少しずつ実態がわかる。

 

「ロ、ロケット!? いや、あれは人工衛星か!?」


 三角形のようでもあり丸みをおびた様な何とも言えない形の卵色の塊が、こちらに近づいてくる。


「マ、マジか!? こっちに来る!!」


 咄嗟にしゃがみ込むツルハシの頭上を鉄の塊が飛び越え、そのまま彼の店直撃。

 爆発音と共に店の壁が飛び散った。


「嘘やろ!? いいいいったい何が起こっとるんや!」


 屋根のなくなった自転車屋を見るツルハシ。煙と瓦礫の中、例の人工衛星のような塊はひっくり返りながらも壊れている様子もなくそこに存在していた。

 彼が呆然としていると、塊の一部がガコンとハッチのように開き、中から人影が見えた。

 シルエットはまるで宇宙飛服の様なずんぐりした体型の人型だった。


「み、未知との遭遇……」

「ここが第4地下階層ね。まったく文明レベルがどんどん低くなって行くけど、本当に部品がここにあるのかしら……」


 女性の声と共に宇宙服のヘルメットを外した人型。

 ヘルメットの中から美しい水色の髪の美人の顔があらわになった。

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