【短編】VRMMOの育成シミュレーションゲーム

キョウキョウ

VRMMOの育成シミュレーションゲーム

 人々から”訓練所”と呼ばれる場所があった。


 その場所は、名の通り人を育てて訓練をするところ。人里離れた、大きな山の麓にある建物。そんな場所を、世界中にある国の人たちが注目していた。


 なぜなら、その場所を”卒業”したと名乗って現れる人達みんなが歴史に名を残すと言われる実力者ばかりだったから。


 例えば、世界一有名だと言われている冒険者の男性。

 魔法の歴史を変えたと言われている魔法使いの女性。

 そして、極めつけは世界を暗黒へと誘おうと現れた魔王を退治した勇者様。


 他にも、誰もが名を聞いたことがあるであろう剣士に商人、賢者から格闘家まで、更には召喚士、鍛冶師、等など。数えきれないくらいの実力者達が”訓練所”から卒業してきたと言っている。


 各国がそんな世界を揺るがす実力者達が誕生する”訓練所”という場所を、自国発展のため、戦争の手駒を揃えるため、金のために、と考えて自分の国に迎え入れたいと考えるのは簡単に想像できるだろう。


 だがしかし、そう考えたしても各国の人々は簡単に”訓練所”に手出しをすることはしなかった。


 いや、過去に2つの国が手を出してしっぺ返しを食らったという事例がある為に、その様を見て皆が容易に手を出すべきではないと理解したから手出しできなかった。


 なにしろ、国を落とす規模の軍隊を引き連れて”訓練所”を襲撃したのにも関わらず訓練所が迎撃して、襲撃を行った軍隊が逆に崩壊に追いやられたから。


 更に、襲撃の件について知った訓練所の卒業生たちが一斉に、襲撃を行ったという国に抗議した。訓練所を襲撃した国を信頼しないようになって、距離を取られるようになった。


 世界中の実力者達がそのような立場を取ったために、襲撃を行った2つの国というのが国家間で窮地に追いやられて、国力を一気に失っていた。訓練所を襲った事で、手痛いしっぺ返しを受けたのだ。


 とまぁ、このように世界中の様々な人達に注目されている曰くつきの”訓練所”は、今日もいつもの様に平和に運営されていた。



***



 気がついたら、俺はゲームの中にある世界に居た


 最初のうちは、いつものようにVRゲームを遊ぼうとしていただけ。リアルだとは思わず普通に楽しんでいた。


 だって、俺は仮想世界と呼ばれるゲームの中で設定した”ホーム”と呼ばれる場所に立っていたから。


 ゲームの名前は「ユートピア」というタイトル。コンセプトは、VRMMOという技術を用いながらも従来にあるようなファンタジー世界の冒険とは少し違った方向性を目指して、人を育ててファンタジー世界を育てたキャラクターに旅させるという。


 ジャンルで言えば、育成ゲーム。


 プレイヤーが各自で持っている”ホーム”という場所で人を育成していき、頑張って育てたキャラクター達を卒業させて、ファンタジーの世界へと羽ばたかせて活躍する様子を見守る。


 プレイヤーは、キャラクターの育成だけをしてファンタジー世界の冒険はしない。キャラクターを育てて、キャラクターを旅立たせて、キャラクターを活躍させる。


 そして、育成したキャラクターが世界で活躍する度合いによって、システムから様々な報酬をもらうことが出来る。その貰った報酬を次の育成する人材に充てて更に強い人材を育てていく、というもの。


 ”多人数オンライン”と名が付いているけれども、基本的にはプレイヤー同士は直接顔を合わせたりしない。フレンド通信で連絡を取り合ったり、プレイヤー達が育てたキャラクターが、外の世界で交流したりして間接的に関係を持ったりするだけ。


 基本的には、一人プレイのゲームだ。


 ユートピアが登場するまで、VRMMOというものはファンタジー世界を疑似体験して、他人と交流しつつロールプレイングしながら冒険する、というもののイメージが強かった。人気もあったし、その系統のゲームが多く開発されていった。


 そんな状況の中で、登場した新しいゲーム”ユートピア”はVRMMOの技術を用いつつ、ファンタジー世界を旅しないという少し変わったテイストで、オリジナリティのある育成ゲームとして多くの注目を浴びた。


 俺も久々にのめり込んで、やり込んでいたゲームだった。


 育て方の手順により、無限と思えるようなキャラクターを作り出すことが出来る。プレイヤーの育てたキャラクター同士の関係で、仮想の世界が徐々に変化していく。


 過去に、とあるプレイヤーの育てた魔王と、とあるプレイヤーが育てた勇者が仮想世界でぶつかり合う、という出来事も有った。そんな風に自由度の高いゲームなので人気も出た。


 そんな世界に、いつの間にか俺は居た。


 寝ぼけているのか。いつ俺はゲームにログインしたのだろうか、記憶にない。


 今何時なのか分からない。とりあえず、ログアウトしてから状況の確認をしよう、と思ってシステムウィンドウを開き、ログアウトをするボタンを探したが見つからなかった。


「あれ、おっかしいなぁー」


 しばらく探してみても、ログアウトするボタンが見つからない。アップデートしてウィンドウの配置が変わったのか。


 時間を掛けてじっくり探してみたけれど、見つからない。


 少し焦りながら緊急事態だと判断し、少し恥ずかしいし迷惑になるかも知れないがゲームマスターと連絡を取ろうとメッセージを送って見た。


”ログアウトのボタンが見当たりません。気付かない間に、アップデートされたようです。お手数ですが、ログアウトの方法をお教え下さい”


 けれど、返信は何時まで待っても返ってこなかった。


 ログインしているプレイヤーは居ないか、フレンド登録してあるプレイヤー24名の名前が載っている一覧を見てみるが、全員がずっとログアウトしているという状態を示していた。


 何時の時間にログインしても、少なくとも2、3人はログインしている状態が通常だったのに、今日はゼロ人。今までに無い状況。


 何らかの方法でゲームからログアウトして、状況を確認しなければ。


 システムウィンドウを探りまわってみたが結局、ログアウトの方法は見つけることが出来ずに、さらには別の最悪な情報を手に入れてしまった。


「は? 育成中のキャラクターが全員消えてる!?」


 システムウィンドウからホームの状況を一から何度も確認し直す。情報は変わっていない。



 すると、育て上げて旅に出したキャラクターも、キャラクターを活躍させた実績も全て消え失せていることを見つけてしまった。


 何度も調べ続ける。ログアウトできない原因は、ゲームのアップデートではない。バグによるデータ破損のせいなのか、それとも現在の状況の原因はログインの失敗によるものか。


 俺は、いつログインしたのかも思い出せないので、現在置かれている状況の原因が考えつかない。


「なんだ、このバグ! 今まで俺が育成に使ってきた数千時間がパァかよ!?」


 苦労してて育成してきたキャラクターが全消去されている、という衝撃的な情報を見つけた俺は、しばらく落ち込んだ。


 いくら考えてみても、ゲームからログアウトする方法も見つからなかった。地面に手をついて項垂れる。


 そして、今更ながらに気づいた。


 VRMMOという仮想世界では感じたことのない、土のリアルな感触。僅かな風を肌で感じれること。普段なら僅かな遅延がある身体、なのに今は思い通り動いていたから違和感がある。


 鼻で匂いを感じることも出来るということ。余りにも現実的な今の状況を、身体の全部で感じ取れていた。


 ゲームを進めて、時間が経つのを待つことにした。


 もしかしたら、何か不都合があってゲームマスターからの連絡が遅れているだけ、かもしれない。


 もしかしたら、何か不都合があって、ゲームからログアウトするボタンが押せないだけ。今必死にプログラマーがエラーを修正しているかもしれない。


 何か不都合があって……。


 何故こうなったのか考えていても仕方ないだろう。ゲームからログアウトする方法も思いつかないので、待っている時間を暇つぶしにゲームをプレイすることにした。


 異常な事態でゲームをプレイする、それは無意識のうちに今の状況の事についてを考えないようするための現実逃避だったのかもしれない。


 システムウィンドウから、ホームの現状況を確認する。幸いにも、今までに集めてきた施設の家具や内装、今まで集めた所有アイテム、課金アイテムなどは無事に倉庫に残って居ることが確認できた。


 一通り、自分の所有しているホームを歩き回り確認してみた。おおよそ東京にあるドーム数個分の広さを誇る大きさの敷地。


 見まわるだけで1日が経過した。それほどの広さ。ゲームとしてプレイしていた時と同じように、ホームとして設定された建物から外へは出れない。ホームから出ようとすると、見えない壁に阻まれて外へ出ることは出来なかった。


 見えない壁に穴か、抜けられる道など無いか外周を回って見たけれど、やはり外には出れなかった。


 外周を見まわっているうちに、見えない壁の外も一緒に観察してみた。だが、人の姿は見当たらない。ホーム片側には大きな山があり、もう片方は大きな木がたくさん茂っている薄暗い森になっていた。


 ホームの内部観察を終えた俺は、次にホームに所属させて訓練するキャラクターを選ぶことにした。システムウィンドウを開いて、現在所属させることが出来る状態にある人材リストを表示させる。


 画面に表示された18人の名前から、3人を選ぶ。


 プロフィールに書かれた情報では、19歳の男子1人に18歳の女子1人だった。そして、まだ12歳の非常に若い女の子1人。


 今まで学んできた、ゲーム経験を活かして選んだ3人だった。男子1人に女子1人の組み合わせ。


 2人は、速攻で育て上げて直ぐに外への旅に出せる見込みのある人材。活躍も一定だけ期待できる早熟型。この2人は、なるべく早く育て上げる計画を立てる。


 そして残りの女の子は、じっくり育ててジワジワ成長させていって、非常に強力なキャラクターとして育つであろうと予測されっる大器晩成型を選んだ。


 キャラクターがホームに所属するかどうか、成否が分かるのは半日後。


 もしかすると、所属の誘いを断られる可能性もあるので油断はできない。その間に施設の内部の構造確認や置いてある道具、消耗アイテムなどについて再調査と整理をしておく。


 終われば、その後で3人の訓練スケジュールを組み立てておく。ある程度の計画を決めると、俺は休むことにした。


 ゲームの中で眠るというのは不思議な経験だった。いつも、ログアウトしてゲームの世界から抜け出しているから。




 アラームが鳴る音を聞いて、俺は目を覚ました。まだ自分はホームに居るらしい。どうやら、誰かホームへとやって来たようなので、ホームの玄関となっている大きな門の方へと向かう。


 大きな門の前で、敷地に入らずに人が立っていた。


「どうしたんですか?」


 俺が声をかけると、3人組はビクンと身体を反応させて視線を向けてきた。3人共不安そうな表情を浮かべている。


「あの、えっと、ココって”訓練”を受けられる場所で間違いないですか?」


 ゲームと同じようなセリフを言う。しかし、彼らの見た目はゲームと違っていた。

ボロボロに破けて、汚れた布だけを身に纏った3人組。10代後半と思われる男子が先頭に立ち、その後ろに10代程の女子。更に女子の後ろに10歳ぐらいの女の子が立っていた。


 前に立つ男子が俺に向かって探るような視線を向けてきながら、聞いてきた。昨日選んだ3人だろうと思いつつ、俺は彼らの事情を聞く。


「あぁ、そうだが。君たちは?」

「この場所に行くように、そして教えを請うようにと神から啓示を受けました」


「そうか、ようこそ俺のホームへ!」


 その言葉を聞いて、そこもゲームと同じような設定なのだろうと思いながら、俺は彼ら3人組をホームに迎え入れた。



***



 今まで、大事に育ててきたキャラクター達は何故か消えてしまって居なくなった。けれど、キャラクターを育ててきた今までの経験は俺の中に残っていた。


 その経験を活かして、新たに迎えた3人を教育していく。メキメキ成長していって3ヶ月後には、旅立たせるために目指すステータスの目標に到達していた。ここまで育てておけば、外の世界で十分に活躍できる。


 俺は早速、育てていた内の2人にはホームから直ぐに旅立ってもらって、ゲームの時と同じように、育てたキャラクターを世界で活躍させて貰える報酬を受け取った。外での活躍で、更に受け取れる報酬が増えていくだろう。


 さらに、俺はゲームの時と違って外へ行くキャラクター達に色々と指示を与えた。外の状況がゲームと同じ世界観なのか、調査に行ってもらう。違っているような部分は無いか報告してもらう。


「先生、今までお世話になりました。この御恩は一生忘れません」


 俺に頭を下げてお礼を言ってくる少年は、冒険者として育てたライエルだ。武器は剣を持たせて、スピード型として避けて当てるキャラクターに育てた。3ヶ月という短い期間で有ったけれど、かなり納得のいく仕上がりだった。


 彼には、直ぐに冒険者として活躍してもらって、キャラクターの活躍報酬について貰えるのか、どれぐらい貰えるのかを確認する為に。


「私も、ありがとうございました。先生に指示された通り、外の世界については私が調べて報告します」


 ライエルと並んで頭を下げているのはルーシーだ。魔法使いとして育て上げた彼女は、攻撃型の魔法を主に使って、彼女の方も俊敏性を上げて避けて当てる戦術を教え込んだ。


 そのため、ある程度の強敵ならば死ぬことなく生き残れるだろう。彼女には、外の世界の調査報告をしてもらうようにお願いしてある。彼女の調べてくる情報で、俺の今後の方針も決まってくるかも知れない。


「二人共、3ヶ月間ありがとう。君たちは今日ココを卒業してもらうけれど、ホームには、いつでも帰ってきていいよ。もしも大変な事が有ったら何時でも相談に来ると良い。もちろん、何も用事が無くても来てくれて一向に構わないよ」

「「ハイ!」」


 2人は気持ちの良い返事をしてくれた。そして、クルリと背を向け森の方へと足を踏み出し歩いて行った。どうやら、向こうの方に街があるらしく一旦の目的地をそこに定めて歩き出したようだ。


「さて、レア。俺達も訓練をしようか」

「ハイ、先生」


 1人だけホームに残した女性の名はレア。彼女の才能限界は凄まじくて、先に外へ旅立ってもらってライエルとルーシーに比べて、何倍も限界値が高かった。なので、当初の考えの通りジックリ育てるために残って訓練を続けることにした。


 彼女には、今後の育成キャラクターの世界で活躍させる報酬稼ぎ頭として頑張ってもらうようにと計画している。



***



 ゲームでプレイしてた時に比べて、非常に没入していた。というのも、ゲームの時には感じなかった彼ら、彼女たちの現実感。


 とても、ゲームとしてプレイしていた様な適当さでは接することが出来なかった。本当に生きていると感じれたので、育成の方針も頭を悩ませて考えぬいた。


 結果、ゲームなのか現実なのか、ログアウトはどうやるのかという疑問について、今では頭の片隅に片付けられて気がついたら何ヶ月も時が経っていた。その仮想世界で、生活を続けている。


 その真剣さが、育成の結果に直結してゲームプレイしていたときに比べても絶好調で高ステータスを持つ者達の育成を次々と成功させていった。


 その後も、繰り返し人材をスカウトして、スカウトしてきた人材をホームで育成。育てたキャラクターを旅立たせていった。順調に育成キャラクターによる世界で活動することで得られる報酬を、受け取り続けることに成功していた。


 しかし、俺は知らなかった。育てたキャラクターが、外の世界で実力者と呼ばれるような有名人として活躍をしている、とう事実を。そして、世界中からは”訓練所”として様々な人達から注目されていることを。


 ホームから出ることが出来ない俺は、その事実を知らなかった。




【キョウキョウ短編集】

作者キョウキョウの短編については、こちらのページにまとめてあります。

ぜひ、アクセスしてみて下さい。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893236793

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