第3話

 二年前。

 私たちにとっては初めての。

 先輩たちにとっては最後の文化祭で。

 私たち演劇部は、離れ離れになった恋人を探す、皇子と、姫君の役を演じた。

 先輩が皇子で。私は姫君で。

「はるちゃんは、合わせてくれればいいから」

 って言われて。

 我が校では、三回公演が行われる。

 そして、三回目の公演は、ほとんど全てがアドリブになるのが恒例だった。

 三回目の公演で。

 先輩は、

「姫は。私の姫はいずくに」

 よろけながら。何度も倒れながら。

 必死に私の名前を呼んでいた。

 役名の、まつ姫ではなく。

「はる。私の、はる!」

 その鬼気迫る演技に。

 演者も、観客も、先輩にのまれていった。

 私は。

 気づくと泣いていた。

 転がるように、

「皇子。日高!私はここに」

 日高の手を包み込み、自分の頬に押しあてた。

「ああ、はる。やっと、やっと会えた」

 先輩が、呟くように。

 一瞬、天を仰ぐと。

 私を、優しく抱きしめた。

 そのとき。

 会場の照明が消えた。

 そして。

 先輩の唇が落ちてきて。

 求め合うようにキスをした。

 やがて、照明がついても、

「はる。愛してる」

 先輩は、私を抱きしめて、そう耳元で囁いた。

 でも。

 それから私たちは、一度も会話を交わすこともなく。

 先輩は卒業してしまった。

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