傭兵乱舞C.Q.B.2【#戦闘シーン祭り】 (C)Copyrights 2019 中村尚裕 All Rights Reserved.

中村尚裕

本編

「なァ、アラン」軽装甲輸送車、兵員席から不満声。「こいつァ手抜きって言わねェか?」

「ぼやくなボリス」戦闘服のアランが運転席のドアを閉め、「そういう仕事だ」

「雑魚を見張るのが?」ぼやくボリスの対面に、仏頂面の囚人服。

「雑魚で悪かったな」囚人服が舌を打つ。

「間違えるなよ」アランが刺して釘。「そいつは〝サーティーン〟ってことになってる――ゲリラの幹部だ」

「やっぱ手抜きじゃねェか」ボリスが肩のカービンを軽く掲げる――M4A1。「ンなご大層な設定ならよ、もっと派手に護送してみろっての」

「充分派手だ」リア・ハッチ向こうにだみ声。「護衛は拳銃一挺でゼウスを獲り損ねた傭兵だぞ」

「こいつでか?」ボリスが口を尖らせつつ背後へ指――ヒップ・ホルスタにベレッタM93R。「嫌味にしか聞こえねェよ」

「嫌味以外に聞こえるか?」だみ声が断じて、「報酬はバカ高い、還ってくりゃ土産もねェ。となりゃエサの他に使い道でも?」

「エサってなァ俺達かよ」ボリスが肩を一つすくめて、「涙が出るね」

「不満を垂れる前に、」だみ声は不満を隠しもせずに、「まずは役に立ってみせるんだな」

「おいアラン、お前さんからも言ってくれよ」ボリスが声を運転席へ振り向ける。「ガバメント一挺で命を繋いだわけじゃねェって」

「言わなかったか?」アランの声に渋面が滲む。「〝語るは無用、訊くは不作法〟――傭兵稼業のイロハのイだ」

「あァはいはい、」ボリスは手荒く頭を掻いて、「無理ァせめてスチェッキンくらいよこしてから言ってくれ」

「フル・オートがそんなに好きか?」アランに小さく苦笑い。「三点連射で充分だろうに」

「戦闘ってなァ数よ数」ボリスに空元気。「お前さんこそ打撃力にご執心じゃねェか」

「フル・オートが好きなら、」アランが片手でM4A1。「こいつを使うんだな」

「嫌味を真面目に返すなよ」ボリスに苦り顔。「とにかく俺達だけってのはな……」

 そこでアランがエンジンに息。リア・ハッチが荒く閉じる。そして鍵の音。


「で、」取って付けた金網越し、ボリスが眼をフロント・グラスへ。「ゼウスのヤツが食い付くもんかね?」

 アランの肩越し、廃ビルの並ぶ旧市街地に寂寥の色。

「だろうな」アランは気負いも見せず、「ヤツにしてみりゃ名分が懸かってる」

「狙いは俺達?」ボリスが自らの顎へと親指。

「捕虜の方だ」アランは振り向く気配も見せず、「見捨てたとなったら支持者が減る」

「こんな、」ボリスが肩で指を踊らせ、「見え透いたエサにかよ?」

「情報源次第だな」アランの声が低い。

「何か知ってるのか?」ボリスも低めて声。

「経験でな」アランが苦る。「複数のルートに別々のエサを仕込むって手だ」

「食い付いたエサで内通者を?」ボリスが忌々しげに出して舌。「エサにしてみりゃとんだ迷惑だな」

「覚悟はしておけ」アランに警句。「俺達は嫌われてるらしいからな」

「そんな覚悟ァ願い下げ……」ボリスが苦った、その時。

 衝撃――。


「構えろ!」アランが鋭く声。

 輸送車の鼻先が左へ沈む。金属の悲鳴。不規則に振動が突き上げる。

 舵を取られる。車線を逸れた。輸送車の尻が前へ出る。

 咄嗟にアクセル。タイアが地を蹴る。輸送車がさらに道を逸れ、鼻先を中央分離帯へ。

「――!」

 ボリスの抗議が言葉にならない。アランはさらにアクセル、反対車線を抉りにかかる。

 シャシィが軋む。タイアに悲鳴。なお停めず、歩道越し、輸送車を廃ビルの入り口へ――とうに落ちたガラスを踏みつつ、玄関ホールの成れの果て。

 輸送車が壁へぶつけて鼻先、シャシィに抗議の金属音――ただしそこまで。

「狙撃か!?」ボリスの問いに色。

「多分対物ライフルだ」シート・ベルトを外してアラン。「外だと詰むぞ」

「それでここまで?」ボリスが後部ハッチへ取り付き振り向く。「鍵を!」

 無言、アランがドアを蹴り開けた。M4A1片手に外から回り込んで後部ハッチ、首に提げた鍵を取り出す。

「時間がない!」アランは鍵を合わせつつ、「連中、そこらのビルから湧いてくるぞ!」

 〝サーティーン〟を救出する肚づもりなら、輸送車を制圧しなければ始まらない。自然、輸送車を吹き飛ばす選択は消える。

「信号は出した!」開けたハッチからボリスが掲げて携帯通信機。「とにかく粘るか!?」

「馬鹿言うな」アランが踵を返してビル奥へ。「ヤツらが計算してないと思うか?」

「こいつは!?」飛び出したボリスが親指を背後へ。

「放っとけ」言い捨ててアラン。「連中の恨みを買う義理が?」

 敵の目標を分散させる意義もある。

「違ェねェ」ボリスは背後に眼を投げつつM4A1のセレクタを単発へ。

 奥の階段室、向かって右の出入り口――手前の壁際へ張り付く。

 上から足音――それが複数。アランが背後へ向けて指4本。ボリスも応じて頷き一つ、姿勢を低めてバネを溜める。


 間――を置いて階段室から銃口が縦に並んで2つ、特徴的なAK-47。

 下側、アランが内から伸ばして左手。銃身を内から掴んでM4A1の銃床で押さえ込む。

「――!」

 敵に息を呑む気配――を聞きつつアランが踏み込む。ボリスが続いて上、AKの下へM4A1、銃身を逸らして上へ。

 勢いを込めてアランが力。AKに釣られて敵の腕、それをアランが押さえ込んで左膝。さらにAKへと力、敵の上体が視界へ入る――と。

 右肘。敵の鼻面、衝き抜けた向こうに――もう2人。


 抵抗――ボリスが銃身に感じて力。敵が踏み出し、こちらへ銃口を向けに来る。

 続く。アランの背後、ボリスが踏み込み、敵の射線のその下へ。


 踏み込む。アラン。階段室へ。手放す。M4A1。ヒップ・ホルスタからガバメント。

 怯んだ敵を盾に取りつつ――引き鉄に力。


 すっぽ抜けた。ボリスの眼前、AKが宙を舞う。

 悟る。捨てる。M4A1。ヒップ・ホルスタ、M93Rを抜きつつ前へ。深く。


 咆哮一つ、ガバメント。

 奥の1人が背後へ吹き飛ぶ――のを見送る間もない。

 アランの頭上、敵意が差して影。


 ボリスが衝き込む。M93R。射線上に敵の肩。両の拳を固めてアランへ振り下ろす、その瞬間を射線に捉えて――引き鉄。


 聞いた。M93R、その咆哮。アランの頭上、敵の上体が弾かれて横――倒れくる。

 咄嗟に引いてガバメント、直後に眼前、敵の身体――の下から。

 銃口。マカロフ。先頭の1人。

 撃――たれる前に横へ跳ぶ。咆哮。姿勢が崩れる。左肩から床へ。

 横ざまに転がるその先へ。

 奥に残る1人のAK、その射線が後を追う。


 視界に銃火。

 ボリスに反射、銃火の元へM93R――を向けつつセレクタを切る。

 三点連射。撃ち伏せる。先頭の敵が床へと転がる。

 残りは一人。M93Rを左手へ、最小限の露出で銃口を階段室へ。

 そこで――最後の一人。AKの銃口。眼が合った。


 起き上がりざま、アランが構えてガバメント。

 最後の一人、狙点がボリスを向いていた。引き鉄に力。


 咆哮。三者。ほぼ同時。


「無事か!?」「生きてるか!?」

 声はアランとボリスから。ゲリラの4人目は壁に背を打ち当て床へと崩れる。

「急ぐぞ」ガバメントの弾倉を替えたアランが床から拾ってM4A1、「敵が押し寄せてくる」

「だろうな」ボリスも同じく弾倉を替えてからM4A1へ手を伸ばす。「この上へ?」

「連中に囲まれてやる義理はない」アランが敵の左肩口から奪って通信端末、イアフォンを耳へ。

 ボリスも敵から通信端末――と、そこでアランの表情に気付く――緊張。眉をひそめつつイアフォンを左耳へ――そこでアランと交えて眼。

「(ビンゴだ)」囁きを残してアランが階段へ。

「(畜生)」悪態一つ、ボリスもアランの後を追う。「(ゼウスのお出ましかよ!)」


 階段室、ボリスがアランの掩護へ回る。

 アランは内側、手摺側へ。照星越しに上階を窺う――気配なし。眼を逸らさずボリスへ手招き。

 ボリスは音を殺して壁沿い、階段を素早く上へ。

 踊り場手前、ボリスが止めて足。折り返す階段の手摺越し、振り返って照星を2階へと擬す――気配なし。アランを手招き。

 アランが前進。2階を視野へ。天井、壁、そして床――気配なし。ボリスを手招き。

 ボリスが前進。身を低めつつアランを追い越し、壁へ張り付く。出口横。

 手鏡越しの視野、音、気配、2階に敵の兆候――なし。ただし1階、輸送車へ群がる音、音、音――。

 ボリスはアランへ手信号――前進。


「(聞いたか?)」追い付いたアランが囁き一つ、上階を示して指一本。

「(上にいやがるな)」ボリスが頷き、「(錯覚ってわけじゃないらしい)」

 傾聴すれば、上階から流れて声が複数。しかも、その内容に無線の中身と重なるところが聴き取れる。

「(逆転の目かもな)」アランが舌で湿して口の端。「(ゼウスがいるのはこの上だ)」


 4階、踊り場でアランがボリスへ掌。続いて手信号――敵。

 了解の意を手信号で示しつつ、ボリスが追い付く。「(罠じゃねェのか?)」

「(だったらどうする?)」アランに即答。「(他に逃げ場があるなら聞くが?)」

「(そりゃごもっとも)」奥歯に苦虫を噛みつつ、ボリスが通路へ低く手鏡――左手、通路の突き当たり、倒れた扉を挟んで敵2人。

 眼を合わせる。手信号。アランが左、ボリスが右。

 構える。M4A1。セレクタは単発、呼吸を一つ、眼を合わせ――頷く。

 アランの指が示して斜め上。同じくボリスが斜め下。

 アランの左手に指3本。ボリスが壁際、背を低めて構えを取る。

 指2本――アランが構えを高く取る。

 指1本――アランの左手がボリスの肩へ。

 ゼロ。ボリスの肩へ強めに力。入り口から同時に銃口、狙点を敵へ。

 撃発。同時。撃ち倒す。身を低くして躍り出る。

 駆ける。敵へ。間を詰める。


 銃声で自ら位置は明かした。下階の兵が殺到するまで時間はわずか。それまでに指揮官を押さえられるかが勝負を分ける。

 動揺を無線に聞きつつ突き当たり。入り口の両脇、張り付いた。左、アランからM84閃光手榴弾。ベルトに繋いだ安全ピンから本体を引き抜く。

 2秒――気配を探る。

 1秒――部屋へ放り込む。床に固い音が――ない。

「飛び込め!」

 咄嗟にアラン。中へと壁を回り込む。視界の隅にボリスの反応――の背後へM84。

 視界が開けた。中には2人。至近、アランの前に低くゼウスの姿。待ち受けるかのように踏み込み――その手に機関拳銃スチェッキン。


 ボリスの眼前、行く手を塞いで大男。忘れもしないイェフゲーニィ。低くAK、先端に銃剣のシルエット。


 背後、壁越し――弾けて閃光。爆音。衝撃波。本能を直撃、原初の警戒を招く――はずの罠が空を斬る。

 アランにM4A1、眼前のゼウスへ照星――を合わせるよりスチェッキンはなお速い。

 衝き込む。銃身。M4A1。ゼウスの右腕――を捉え損ねてわずかに上。交差。スチェッキン。9ミリの銃口が――咆える。2発。0.2秒。


 AK。銃剣。薙ぎ上がる。

 咄嗟、ボリスが叩き付けてM4A1、もはや狙いもくそもない。逸れて右頬、刃がかすめる――が。

 勢いそのまま、イェフゲーニィの巨体が迫る。


 逸れた。9ミリ。わずかに左。

 アランがM4A1、銃身を払い気味にゼウスの右腕へ添えていた。そこで見える――スチェッキンの銃把、その後方に銃床のシルエット。フル・オートを駆使する構え。

 ゼウスもそこでは止まらない。深い踏み込みから一転、伸び上がる。右膝。M4A1を弾き上げてアランへ迫る。


 蹴った。壁面。ボリスは横ざま、左へと跳ぶ。

 床へは左肩から受け身へ持ち込み、右手をヒップ・ホルスタヘ――M93R。


 手放す。アラン。M4A1。そのまま右肘。ゼウスの膝を内へと弾く。

 勢い、質量、いずれも勝てない。

 だが弾くのは己が身そのもの。地を蹴り、身を踊らせて右前方、ゼウスの側背を取りに行く。

 地へ接して右肩から首元、さらに左肩。滑らかな回転を両足で締めつつヒップ・ホルスタからガバメント。そのまま照星をゼウスへ流――そうとして。

 上段からイェフゲーニィ、銃剣の一撃が薙ぎかかる――間に合わない。


 M93Rを抜きざま、ボリスがセレクタを弾く――三点連射。ともかくもイェフゲーニィの動きを止めるべく流し撃――とうとして。

 視界にゼウス。右手に構えてスチェッキン――その銃口と眼が合った。


 撃った。アラン。ガバメント――ただし右へ。

 反動。脚力。合わせて左、部屋の奥へと跳び退がる。

 視界にゼウス――が狙ってボリス。すかさず声。「ゼウス!」


 跳ねた。ボリスの視界、ゼウスが身を投げ左手へ。

 追おう――とした視界の端にアランが映る。その向こうに振り返りざまのイェフゲーニィ――がAKを空撃ち、フル・オート。反動を利して振り回し――。


 背後。AK。フル・オート。

 咄嗟、アランは床を蹴って壁側へ。同時にひねって上体、照準を流してガバメント。

 AKが床に刻んで弾痕。這い進む。その先にアラン――ではなくボリス。速い。迫る。間に合わない。

 真似た。横撃ち。ガバメント。反動で射線を跳ね上げる。

 重なる。撃発。ほぼ同時。


 ボリスの頬に衝撃波。

 視界、イェフゲーニィ、その手元。AKが銃床から宙へ。

 だが――。

 死角にゼウス。ボリスが勘で右へ跳ぶ。背後へM93R。右回り。


 アランが肩越し、ボリスの向こう。低く認めてゼウス――の手中にスチェッキン。狙われた。

 壁を蹴る。銃火。ほぼ同時。


 狙いも定めずM93Rを三点連射。流し撃ち。

 ボリスの視界に遅れてゼウス。その手中、スチェッキンが2連で咆え止む。速い。

 眼が合う。間が――見る間に詰まる。


 床へ両手、アランが伏せる寸前から跳び起き――ようとして。

 眼に入る。ボリスへ踏み込むゼウス――深い。

 転がる。左へ。右腕に自由、狙いもそこそこにガバメント。引き鉄。


 耳に咆哮。

 ボリスの寸前、弾かれたようにゼウスが転がり左下。

 しかしボリスに残った慣性は右回り。背後の守りを固めるには遅い。

 床を横蹴り、ベルトへ左手。掴んだ感触を一気に引き抜き背後へ投げ出す。

 さらに回転。左半身から床へ――伏す前に。

 アランの背後に覗いて巨躯、右手にコンバット・ナイフのシルエット。

「伏せろ!」


 気を引いた。

 室内中央、床に固く跳ねるシルエット。

 黒。円筒――閃光手榴弾M84。


 転がる。アラン。さらに左、仰向けに。

 真上、イェフゲーニィ。右手にナイフ。眼が合った。

 腰溜め。ガバメント。身体で覚えた照準を流して相手の胸板――引き鉄。撃発。打撃力。

 ボディ・アーマに.45ACP弾。食い込む。停まる――その代わり。

 運動エネルギィは防げない。巨漢をも殴り伏せるその力、イェフゲーニィとて打ち倒す。

 そのまま右、転が――ったところで銃声。頭上。小さく弾丸の衝撃波。


 足下。咆哮。スチェッキン。

 咄嗟、ボリスが向けて照星――ゼウスの姿が脚の陰。


 さらに転がり、アランの視線、照星、ともに上。ゼウスを探りつつ左腕にバネ、床に腹――そこで。

 見付けた。ゼウス。スチェッキン。その銃口。

 直感。撃てない。間に合わない。


 直感。ボリスが狙点を宙――ゼウスの直上へ。

 賭ける。引き鉄。咆哮。三連。結果を見ずに床へ伏す。


 左腕にアランが力、重心を預けて跳ね起きる。

 火線。9ミリ。わずかに下へ。

 引き付けて右脚、床を横蹴り、一も二もなく身を投げる。耳を塞いで眼を閉じる。

 なおフル・オートでスチェッキン。火線がアランの後を追い――かけたところでふと止んだ。


 そこで――、

 起爆。閃光。衝撃波。

 視覚に蹂躙、聴覚に暴虐、それが――一瞬。


 跳ね起きる。アラン。一挙動。

 姿勢低く床を蹴り、記憶を頼ってゼウスへ踏み込む。


 ボリスが視線を足下、ゼウスへ向け――るその途中。

 見えた。ゼウス。跳び出す。速い。


 視認。ゼウス。アランの真正面――から伸び上がる。予測を超えて間が詰まる。正面、やや左。

 ガバメント――ではもう遅い。

 拳――では力が乗り切らない。

 決断。沈む。左上腕、下からゼウスの脚を狙ってすくい上げ――空を切る。


 追う。ボリスがM93R、ゼウスへ照星――が追い付かない。

 そこへアラン。重なる。撃つに撃てない。


 交差。死角。アランは背を丸め、右肩から床、急制動。

 体重を右肩から首の根、さらに左肩へと預けて半回転――着地。一挙動、ガバメントの照星ともども眼を上げる。

 いた。ゼウス。同じくその手にスチェッキン。銃口、狙点がアランへ――わずかに早い。


 狙いも付けず、ボリスがM93R。セレクタ単発、引き鉄。


 銃声。聞いた。アランの耳。

 反射、低く踏み込み――左前。

 ゼウスも前進、ほぼ同時。

 詰まる。間合い。ただし行方は交わらない。

 ゼウスから右手――スチェッキン。

 アランも右手にガバメント――をやや下へ。

 撃発。ゼウス。先んじる。2連。

 そこでアランが左脚、横へ蹴り出し身を右へ。

 ヴェクトルが変わる。行方が交わる。間が詰まる。


 ボリスに舌打ち。

 撃つに撃てない。ゼウスがアランに近すぎる。

 照星の向こう、趨勢は定まる気配を見せない――その中で。

 動いた。壁際。二人の向こう――イェフゲーニィ。


 アラン。衝き出す。左肘。捉える。ゼウスの右肩――だが浅い。

 もつれ込む。ともに床。無様に転がる――かに見えて。

 アランが上を取りに行く。ゼウスが左の掌底、そこから勢いで跳ね返す。


 床を蹴る。ボリス。一挙動。イェフゲーニィを重く見る。

 もつれ合うアランとゼウスを右に見て、壁際の巨躯へ射線を動かし――気付く。

 イェフゲーニィ。その手中。マカロフの黒いシルエット。眼が合った。


 左へ逃げざま、アランが衝いてガバメント。ゼウスが防いで左腕、内から弾き返して力。そのままゼウスが床へ右肘、支点に上体を起こしにかかる。その前に。

 頭突き。アラン。ゼウスの鼻先――を。

 弾く。ゼウス。額で受け止め――、

 そこへ銃声――ただし横。


 跳ぶ。ボリスが床へと滑り込む。その頭上をかすめて衝撃波。2連。

 撃つ。単発。セレクタもそのまま流し撃ち。


 ゼウスに躊躇、それが一瞬。上を取れば狙われる。

 付け込んだ。アラン。左肘。ゼウスの右肘を頭上から刈る。支点を失いゼウスの上体が宙に浮く。右腕の膠着が消え失せる。

 右腕。アラン。ガバメント。引き抜き――かけたところで。

 動く。ゼウスの左腕。ガバメントを絡めて肘の内。力が入る。勢いが乗る――頭突きが迫る。


 セレクタを切る。ボリス。三転連射。

 イェフゲーニィが左立て膝、脚を盾に速写。反撃。2連――膠着。


 反射。アラン。前へ出る。右手でゼウスを引き寄せる。

 頭突き。頭上をよぎってゼウスの頭突き。ゼウスの喉元――には当たらない。構わず力、溜めてバネ。

 そこで――。

 動く。ゼウス。右手にスチェッキン。銃把の感触に力が込もる。

 頭を跳ね上げる。アラン。ゼウスの顎――をかすめて一瞬。眼が合った。

 同時。互いに突き飛ばす。わずかに間。

 動く。ゼウス。右手のスチェッキン。すかさず左手、アランが掴む。そこへ体重。左腕一本で踏ん張り一つ。右手のガバメントに力。

 睨み合う。足が上がる。同時。力。蹴り剥がす。互いに銃を解き放つ。

 ゼウスが右腕を前へ――スチェッキン。


 動いた。銃口。イェフゲーニィ。

 ボリスの視界、右手の二人が――離れる。

 セレクタ。単発。狙点を二人の直上、引き鉄に力。ほぼ同時。


 直上。火線。交差する。スチェッキンの動きが止まる。

 アランの蹴り、力の向きは斜め下。背を丸めて支点に代え、浮いた両脚を振り回す。左。

 ゼウスは仰向け、下半身を振り上げてバネ。首元で体重を支えつつ、右腕一本でスチェッキンを持ち上げる――アランの支点へ。


 ボリスがひそめて眉一つ。撃てない。近い。

 割り切る。再び狙点をイェフゲーニィへ。


 脚の勢い、アランが利して支点を移す。背から首元、そこからひねる。竜巻よろしく脚を回転、ゼウスの右腕へ――スチェッキンへ。。

 引いた。ゼウス。スチェッキン。溜めたバネで跳ね起きる。

 左手。アラン。床を衝く。回転そのまま伸び上がる。

 ゼウスが後退。間合いを開け――かけたところへ。

 斜め上からアラン、振り下ろして左脚。ゼウスの鼻先をかすめて着地――と見る間にアランの上体が起き上がる。前へ。

 咆える。スチェッキン。2連。


 ボリスの視界、イェフゲーニィ。小さく銃口を巡らせる。狙いは同じ、見て悟る。


 踏み込む。アラン。火線をくぐって間を詰める。左の掌底。衝き上げ――、

 さらにゼウスがスチェッキン。咆哮2連。反動、上体を後ろへ逃がし――下から蹴り上げ。

 踏み込んだ右足、アランが力。軌道を左へ。その右手にガバメント。

 賭けた。身体で覚えた射線。引き鉄。力。撃ち放つ。


 逸れた。マカロフ。狙点がアランへと動く。

 見ない。ボリス。悟る。決着。引き鉄に力。M93Rからイェフゲーニィへ至近弾。

「動くな!」「動くな!」「動くな!」「動くな!」

 その時――声が重なった。


 狙点がボリスからイェフゲーニィへ、イェフゲーニィからアランへ、そしてアランから――倒れたゼウスへ。

 そして入り口に――AK-47。しかも束。

 そこへ咳。ゼウスの息。小さく笑い、また咳き込む。

「そこまでだ」入り口から声――〝サーティーン〟。

「どうかな?」不敵にアラン。「まだ弾丸は残ってる」

「取り違えるな」〝サーティーン〟の声が苦る。「お前はリアリストと聞いてるが?」

「そういうお前は、」アランから問い。「リアリストか?」

「どうかな」肩を一つすくめて〝サーティーン〟。「少なくとも狂信者のつもりはない」

「驚いたね」ボリスに小声。「本者かよ」

「ゼウスを殺さなかったのは正解だったな」〝サーティーン〟が皮肉交じりに、「取り引き材料はあるわけだ」

「お前達にそのつもりが?」アランが皮肉を打ち返す。

「俺を殺さなかったからな」片頬だけで笑って〝サーティーン〟。「その判断は買っているつもりだ」

「何が言いたい?」ボリスから問い。

「天秤には命が2つずつ」声を低めて〝サーティーン〟。「取り引きとしては悪くないと思うが?」

「口約束を?」アランに皮肉。

「そっちが援軍を呼んでるのは知ってる」打ち返して〝サーティーン〟。「ゼウスのロマンもな。長話に付き合う暇はない。生きるか死ぬか、選ばせてやるから今決めろ」


「よく生きてるよな、俺達」玄関ホール、輸送車に座り込んでボリスがぼやく。「連中、正直なんだか狸なんだか」

「政府軍の丸損さ」傍らに座るアランに苦笑い。「〝サーティーン〟の分だけな」

「なるほどね」ボリスが肩をすくめて、「連中、気も大きくなるってわけか。にしてもお前さん、よく連中の考えが読めるよな?」

「言わなかったか?」アランが片眉を踊らせた。「〝語るは無用、訊くは無作法〟――傭兵稼業のイロハのイだ」

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