第12話 タイトル取得コールを自分でやるMMOってどうなのよ


「くまくっまま、くまくまくー

(では、魔法を使って森の魔物にお知らせをする準備をしますので、お待ちください)」


「分かった」


「くま、くまくーま、くま

(では、【拡張伝達エクステンドトランスミッション】、起動)」


 小熊がマジックスキルを起動する。


 ちなみに、各スキルは脳内での起動するという意思トリガーで起動は可能で、発音する必要はない。


 スキル名を言うのはパーティ内でのマナーで、「私はこのスキルを使ってますよ」ということを周りに伝えるためらしい。


 敵対している場合はもちろん言いませんけどね、というサポちゃんの説明に、なるほど、と納得したのは記憶に新しい。


 そうか、『くまくーま』で拡張伝達エクステンドトランスミッションか。


 クマ語のほうが圧倒的に短いじゃねぇか! と脳内でツッコミをしていたら、魔法が発動したらしい。


 小熊の前に、黄色いメガホンが浮いていた。


 うん、分かりやすくてイイネ。


 小熊が宙に浮くメガホンを両手で掴み、小さい口にメガホンを添えそのまま喋る。


『くぅーま、くまくまくー。くまくまくまっくま

(傾聴、主決めの審判者からの連絡です。新たなる森の主が決まりました)』


 脳内に響くクマ語。


 なるほど、拡張伝達は『いま、あなたの脳内に語りかけています』が出来るマジックスキルなのか。


『くまくま、くまくっまくまー

(では、新森の主からの挨拶です)』


 くま、と渡される黄色いメガホン。


 まさか、タイトル取得のシステムコールを自分でやらなきゃいかんとは、……どんな羞恥プレイだよ。


 ま、このゲームは最初からおかしいし、今更か……。


 しかし、魔物に話すんだろ? 一体何語で話しゃ良いんだ?


 小熊と目が合う。まん丸とした眼から発せられるの期待の眼差しビームがいたい。


 ……迷っても仕方ない。とりあえず、目の前の例を元に喋ろう。


 クマ語で。


『くま、くまっくまくまーくまくま』


 静寂が森を包んだ。


「……くっま、くまくまっく。くまーくまくま

(……えっと、普通に喋って大丈夫です。リーダー格の魔物は大体理解出来るので)」


『え? あ、そうなの? ……新たな森の主になったハセハヤです。以後よろしく』


 数秒後、森中からあらゆる獣の大声と足音が大歓声となり、森を震わせた。



  @□@



 森の主となった翌日、巨木の前に大量の捧げ物が積み上がっていた。


 猪ウサギが十数体、ぴちぴち撥ねる生きの良い川魚がいっぱい、木の実もいっぱい。


 人一人が食える量ではない。加工もいわずもがな。


『捧げすぎ。消費できないので、ご飯に困窮してる奴らは来るように』


 小熊に頼んで拡張伝達してもらった所、痩せ細った虎の家族が来たので、捧げ物をお裾分けする。


『あ、この虎たちは挑戦者の家族のようですね』


「まじかよ、恨まれないかな」


『ぐーたらで力だけが自慢の夫だったので、恨みとかないそうです。むしろ感謝してますと』


「……いっぱい食べて良いんだぞ」


 俺は指で眼からでる汗を拭き取った。



  □=□



 そんなこんなで、森の主になってから一週間。


 狩猟時間が無くなった甲斐もあり、順調に古代超技術文明遺産の復元作業は順調に進んでいた。


 俺の魔法系ステータスも順調に伸びているらしく、いまではショートソードぐらいの刀身を出しても維持できるようになった。


 そのおかげもあり、上半身の岩はほぼ取り終わった。


 その岩の下から現れたのは人が入れそうな大きさの……カプセル?


 カプセル錠剤の半分に割ったような形状で、ガラスのように光沢感のある素材が丸ごと上半身を構成していたのだ。


 ただ、中は見えない。まるでマジックミラーだ。


 そのカプセル部の周囲を謎金属素材のリングが配置されていた。


 そのリングの断面図は菱形のようだが、正直何に使われるかか全く理解出来ない。


 巨石の台座と思っていた手足はまだ発掘途中のため、全貌を知るのはまだ先だし、今後の楽しみにしよう。


拡張伝達エクステンドトランスミッション、っと」


 小熊、いまではコグーと呼んでいる苔熊に教えて貰ったマジックスキルを起動する。


 範囲は近場にしてっと。


『腹減ってるヤツ、飯にするぞー』


 巨木の森の恒例となった、森の飯会の招集をかける。


「くまくまー

(準備終わってますよ)」


「おう、コグーありがとな」


 コグーが器用に木の皿を運びながら、俺に声をかけたので労う。


「ガウガウガウ

(今日は頑張ってお肉を焼いてみましたよ)」


「トラママもさんきゅな。と言うか、良く焼けたな」


 すっかり居着いた虎家族の母親は、伸びる爪をトングのように器用に使って肉を焼いていた。


 ネコの爪には神経が通っているというけど、平気なんだろうか。


「わふ

(おなかへった)」


「ズンダーも食料処理ありがとな。あはは、子虎たちもな」


 捧げ物の血抜きや分類、貯蔵ですっかり疲れた様子の芝犬ことズンダーは、手足を投げ出し死に体だ。


 虎家族の子虎六匹はズンダーの周りで無邪気に遊んでいる。


『マスター、来たようです』


 多数の駆け足が聞こえる。なるほど、今日は駝鳥っぽい魔物が来る日だったか。


「……肉食えるのか、あいつら」


「くまくまっままま

(穀物や木の実の在庫をだしますか)」


「ガウガウガ。ガーウガウ

(そうするしかないようね。せっかく焼いたのだけど)」


「わふわふ

(うごきたくない)」


「動けズンダー、俺も頑張るから。焼肉の余った分は夜も食べような、トラママ」


 理解ある魔物達に囲まれ、忙しくもゆったりとした時間が流れていく。


 アニマルセラピーなのだろうか、俺はこの生活にかなり癒やされていた。


 この生活もバカンスなのかもしれない。そう思うと、自然と笑みがこぼれた。


 駝鳥の駆け足の音が止んだ、次の瞬間までは。


 吹き飛ぶ革テント、木の葉タープ、飛んでいく焼き肉や木皿、転がっていくズンダーや子虎。


 突然発生した暴風に、飛ばされなかった俺とコグーとトラママは呆然とする。


 その先に居たのは……ビキニアーマーのような黒い衣装と黒いマントを着た、小学生ぐらいの女の子?


「妾は【魔王】アヴィーベルティ! ここに【神堕人かみおちびと】はおるか!」


 強風の中心にいる、深紅の髪をなびかせた少女の眼が俺を捉える。


 俺の腹が盛大に鳴った。


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