第11話 くまっ、くまくーまくまくままー


「くまあ、くまくま、くぅまあ」


 手振り身振りで説明する苔小熊。


 大きさは俺の身長の半分くらいだから、大体八〇センチほどか?


 どこかのおもちゃ売り場で売られてそうな小熊だ。背中は苔むしているけれど。


 必死なのは、その真剣な眼で分かるのだが、着ぐるみが動いているかのように見える。


「……何を言っているのかさっぱり分からん」


「くまぁ!?」


 ガーン、とショックを受ける苔小熊。いや、お前はこっちの言ってること分かるのかよ。


「わふぅ」


 首を振る芝犬。お前の言いたいことはわかるぞ。どうせ俺のこと無能とか言ってるんだろ。


『マスター(語学が堪能でない)、私が翻訳しましょうか』


「できるのか、サポちゃん」


『お任せあれ。マスターをサポートするのが私の仕事です』


 おお……。初めてサポちゃんがサポートAIとして真面目なことを言った気がするぞ。


「くぅまくまっくま、くま」


『では改めまして、私は先代『森の主』の息子で、主決めの審判者を務めています』


「森の主? 主決め? 審判者?」


「くま、くうまくま、くまっくま」


『森の主とはこの巨木の森の実力的な頂点者ですね。先代はこの前あなたが倒した私の母です』


「ああ、あの苔熊か……ってその息子!?」


「くぅま。くくま、くまっくまま」


『はい、息子です。ああ、気にしないでください。母は命のやりとりをしたのですから、恨みとかはありません』


「そ、そうか」


「くまぁくま。くまくまっく。くま、くまま」


『主決めとは、森の主が死ぬ、もしくは敗れた場合に次代の主を決める習わしです。大抵は、その時点の頂点に下の者が挑みにいきますね』


「なるほど。……すまんがサポちゃん、クマの翻訳なんだが、UIに吹き出し調で表示してくれ」


 毎回翻訳音声が出てくると冗長すぎるし見返しも出来ないからな。


『かしこまりました』


「すまん、続けてくれ」


「くま。

 くまくまくっまくま、くまくまくーま。くままくまーくま

(大丈夫です。

 審判者というのは、主決めの取りまとめと、新たな主を森に知らせる役割を持つ者です。

これは森に生きる者の中で高い魔力を持つ者が担当します)」


「ふむふむ。よくわかった、ありがとう」


 つまるところ、俺はあの苔熊を倒したせいで森の主を決める戦いに巻き込まれて、今までその挑戦者を倒していたことになるな。


「……待てよ、ということは、お前がここに来たのは」


「くまっ、くまくーまくまくままー

(お察しの通り、新たな森の主が決まりましたので、伺いに参った次第です)」


「まさかかと思うが、新たな森の主って……俺か?」


「くま

(そうです)」


「勝手に決めないでくれ……」


「くまっくまくま、くまくまっくーま

(そうは言われても、決まってしまったことなので)」


「タイトル自動取得かよ……、変なところでゲーム的になるな……」


「くまっ、くまーまー

(一応、メリットもありますよ)」


「詳しく」


「くー、くまっくまーくまっくまくー

(まず、あなたとその仲間たちは森の中の魔物に襲われなくなります)」


「おお、すごい」


 つまりこの森にいれば、ここ一週間戦ったやつらとはエンカウントしないってことか。


「くま、くまっくまくまくま。くーまっくまくま

(つぎに、森の魔物が森の主へ貢ぎ物を捧げます。要望が無ければ食料が多いですね)」


「おお、それはありがたいな。要望ってのはどんなことを頼めるんだ?」


「くまーくまっくー。くま、くまままっくまくまくま

(労働や戦闘などですね。ただ、酷い扱いをするとすぐ逃げてしまうので、お気を付けください)」


 まあ、魔物は賢いとはいえ動物だしな。


 当面は食料調達を……っていかんいかん、受ける気になってしまった。


 権利を得るには責務が発生するものだ。


「肝心なことを聞けていない。森の主になったときの責務は何だ?」


「くまっくまーくま

(主な仕事は外部からの侵入者への対応ですね)」


 ほら来たよ、一番面倒そうなやつ!


「前の森の主はやってたのか?」


「くま、くまっくっま。くまくーま

(大抵、見に行くと逃げていきました。もしくは屍に)」


「シンプルで良いな、それ」


「くまっくまくー、くまくまくま

(基本的に対応するのは、森を脅かす存在に対してなので)」


「なるほど……というかあいつクラスでも戦うヤツが来るのか」


「くま……、くまくままま、くままままま

(ただ……、母を倒し挑戦者を倒したあなたを指名しないと、森が大変なことになります)」


「ぐっ」


 そう言われるとすごい罪悪感を感じてしまう。


 いや、命のやりとりをしたんだし、俺に責任はないはずだ。


『マスター、この話は受けた方がいいです』


「どうしてだ?」


『マスターの活動時間で狩猟・採集に掛かる時間が多すぎます。

 森の魔物にそれらを任せることが出来るなら、自由時間が多くなるかと』


 自由時間。


 そういえば、確かにこのゲームを始めてから、生きるのに必死で常に作業に時間を取られていた。


 だが、森の主になるだけで、食料調達の時間がまるまる自由時間になるのだ。


 つまり——バカンスできるのだ。


「自由時間……バカンス……」


「くまくまくーま、くまっくまくま

(脅威になる侵入者はそんなに多くないので、母はいつも食っちゃ寝してました)」


「やる。俺は森の主になるぞ」


 ずるい、俺も食っちゃ寝したい。

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