第11章

「もう少し詳しく説明して欲しいな。」


先輩が優しく問いかける。


浦部法子は少し面倒くさそうな顔をして言った。


「知りませんか? カッコイイ外国人男性の遺伝子を買う女の人がいること。

その遺伝子を使えば、かわいい子供が生まれるじゃないですか。

恋愛とか、結婚とか面倒くさい事しなくても、お金を出せばかわいい子供が産めるんです。そういう女の人のために、男性は遺伝子を提供してくれるんです。でも、ひとりだと辛いでしょ、だから私達がお手伝いするんです。」


「はじめて聞いたよ、そんな仕事があるんだね。へぇ…。」


先輩は感心してる様にも見える。


「だって、マッチングアプリとか使って、その為の男性を探しても、病気とか持ってたらヤバイじゃないですか、そんなの確かめられませんよね?でも私達の所は病院がやってるから信頼できるんです。

それに顔やスタイルだってちゃんと見てるし、頭も良い人を探してきてるんですから、人気なんですよ。」


「は?病院がやってるの?」


「そう、ここ。」


浦部法子は携帯の画面に、その病院のデータを映し出した。

自分は慌てて記録する。


都内の外れにあるビルの上層階にある病院は、普通のウィメンズクリニックだった。


〜あなたの望む未来を〜


のキャッチコピーがぼんやりと光っている。


画面をスクロールすると、不妊治療や体外受精の文字が並ぶ。


院長挨拶には、

【どんなご希望でもおっしゃってください。私たちが真摯に向き合います。】

と書いてある。


「本当に?ここで?」


先輩は大きなため息をついてから、


「賀原絹代さんもここで同じバイトをしてたの?」


「そう、なんか、紹介して欲しいってしつこくて。でも1月くらいに連絡がつかないってマネージャーが私にも聞いてくるからさ、困ってたの。私、携帯番号も知らないのに…。

そしたら昨日、友達とか他の学部の男の子が賀原絹代って話してて、何だろうって思って聞いたら、なんか、警察が来てるから殺されたんじゃないかとか、そんな本当、すっごい怖くて。

お客様に殺されちゃったのかな、とか思ったら、もう私が話すしかないじゃん、あの子友達居ないし。だから刑事さんの事探して、付いてったの。」


「話してくれて、本当にありがとう。」


先輩は丁寧に頭を下げた。


自分も慌てて同じように頭を下げた。


「ねぇ、本当に殺されちゃったの?」


「はい、残念ながら。昨年の12月16日の早朝にご遺体で発見されました。」


浦部法子は手で口を押さえると、小さな声で


「本当だったんだ。」


と言った。


「何かバイト先の人間や、客との間でトラブルになったという話は聞きませんか?」


「知りません、私達、会うことなんて無いし。」


「その12月頃、変わった事はありませんでしたか?」


「全然、覚えていません。」


「分かりました。また何か気付いたり、思い出した事があったら何でもいいからここに連絡して欲しい。今日はありがとう。」


こうして、我々は彼女を近くの駅まで送って行った。


「先輩、知ってました?遺伝子を買うって何ですかね?」


「いや。知るわけねぇよ。スゲーな、変わったよ、世の中は。」


「どういう事ですかね?」


「まぁ…。病院にアポとって、明日なんとしても話し聞かにゃならんな。戻るぞ。」


その後、病院側は快く聞き込みに応じた。

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