第10章 バイト

「アレじゃどっちのホテルか分かんないな。」


と先輩が吐き捨てるように言った。


「はぁ、淡白な接客が売りなんですかね?」


「まぁ、金がちゃんと入ってくれば多少の事には目をつぶってるんじゃないの?

でもさぁ、賀原絹代はこの次の日に、あの御堂から見つかるんだから、この日に殺されたのは間違いないよねぇ?外国人に殺されたのかなぁ……」


「そうですよねぇ。今、もの凄い数の外国の方が日本に住んでますもんね。特徴でも何でも無くなっちゃいましたね。」


「やっぱり、嬢なのかな?どこの店の子だろう?情報が少ないなぁ。バイト先、分かんないかなぁ…。」


「大学で友人を探しましょう、新学期も始まったし、最近の賀原絹代の写真もあります!」


「月島、お前やる気出てきたな。そうするか。」




春を迎えて大学は賑やかだった。賀原絹代も生きていたら4年生になっていただろうに。


まずは同じ情報学部の学生が多く受けている講義室に出向いた。

講義が終わるのを待って、教室の入り口に立ち、ひとりひとりに


「すいません警察ですが。誰か、賀原絹代さんの事を知っている方居ませんか?」

と声を掛けた。


首を傾げたり、ヒソヒソと話しをしたり、なかには丁寧に 「すいません、分かりません」と言いながら通り過ぎる生徒もいた。


一人の男子生徒が


「警察が何?事件なの?」


と話しかけてきた。


コイツは、賀原絹代が殺された事件の事も知らないのか。


そう思った。


賀原絹代が殺されたのは、去年の12月の中頃で、この大学は進級のかかった試験の直前だったようだし、生徒たちは自分の事で精一杯だったのかもしれない。


先輩は男子生徒に向かって


「賀原絹代さんを知っていますか?」


とたずねた。


「どんな子?」


と言うので、白いコートを着た賀原絹代の写真を見せた。


「いたかなぁ、こんな子。なぁ知らない?」


と周りの男子生徒にも見せている。


男子生徒たちは「知らん」と言いながら写真を回していた。


彼は写真を返しながら、


「この子がどうかしたの?」


と聞いてきた。


「事件の被害に遭われたので、調べています。」


と告げると、


男子生徒たちは

「マジで?」とか

「ヤバイじゃん」とか

「え?いつ?いつ?」

などと騒ぎだした。


「誰か親しい友達とか知りませんか?誰かともめているなど、何でもいいんです。どうですか?」


「いや、だって知らないもんこんな子。で、名前 なんだって?かはら?」


さんです。」


先輩は写真をしまいながら男子生徒に言った。


「もし、知っている方を見つけたらこちらに連絡ください」


先輩は、そう言って教室を離れた。



自分と先輩は次の日も大学へ出向いた。

彼らのウワサ話しのお陰もあってか大学内で賀原絹代は有名人になっていた。


自分と先輩が警察だと気付いて、何かを聞き出そうとする者もいたが、賀原絹代を知っている人間は現れなかった。


その次の日も大学へ行ったがコレといった成果も無く、夕方になってしまった。近くの駐車場まで歩いて、車に乗ろうとした時、


「すいません。」


と声を掛けられた。

振り向くとひとりの女の子が立っていた。

鮮やかな花柄のスカートを身にまとい、高そうなバッグを持っている。


自分が


「あ、え?」


とワタワタしていると


先輩は


「△△大学の生徒さんですね、どうしました?」


と優しい声でたずねた。


彼女は


「お話があります。」


とだけ言った。


「分かりました場所を変えましょう。」


先輩は笑顔でそう言うと彼女と後部座席に乗り込んだ。


「あの、どこに?」


自分が先輩に尋ねると、


「うーん。カラオケにしようか、個室だし、話しを誰にも聞かれないよ、ね?」


彼女は、コクリと頷いた。


程なくカラオケ店に到着し、部屋を借りた。

先輩に飲み物をすすめられ、彼女はアイスティーを選んだ。


「俺コーヒー。」


先輩にそう言われて、三人分のドリンクを用意して部屋に戻った。


先輩は彼女に問いかけた。


「大学から追っかけて来てくれたんだね、ありがとう。何学部?」


「外国語学部です。」


「何年生?」


「4年です。」


「名前は?」


浦部法子うらべ のりこです。」


「賀原絹代さんを知ってるんだね?」


「はい、でも親しくはありません。ただ、バイトを紹介しました。」


自分は心の中でガッツポーズをした。


「そうなんだ。それは、どんな?」


「あの、その、なんて言うか。ちょっといいにくいんですけど…。誰にも言わないで欲しいんです。学校にも、友達にも、親には絶対に!」


彼女は我々を交互に見た。


「わかった約束する。」


「ふぅ。」


浦部法子は一息つくと、覚悟を決めたように話しだした。


「私の店での名前は、秋穂あきほです。

店の中での名前があるって言えば、分かりますよね。

でも仕事内容はお酒のんだり、とかじゃなくて…その…外国人の男性から、健康な遺伝子を分けてもらうお手伝いをしてるんです。」


「え?」


自分も先輩もすぐに意味が理解できなかった。



って言ったよな?】

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