memory:6 少年少女、アメノトリフネへ

 叶 奨炎かのう しょうえん希場 沙織きば さおり……そして狩見 音鳴かりみ ななる

 かくして三人の合流を見た訳だが、ある意味それが来るべき事態への備えでももっとも前途多難を極める件だ。


 彼らは確かに宗家特区内に住まう一般人ではあるも、データで確認した限りでは間違いなく問題児指定を受けた子供達。そもそも連絡を取った時点で、冷ややかな扱いや使心底呆れを抱いた所。


 仮にも大切な家族たる彼らを、親御方は人権さえ無視した扱いに終始していたんだ。


「初めましてで、急な招待になった事をお詫びしたい。俺は草薙 炎羅くさなぎ えんら、守護宗家は草薙家の当主を努めさせて貰っているんだが……どうかしたかい? 」


「……あんたは俺を利用するために声をかけたのか? 」


 恐らくはその親御の態度が酷く影響していた彼ら。中でも大人の都合に引っ掻き回されたであろう彼……奨炎しょうえんは、中々にひねくれた心根へと変容させられていたんだ。


 故に彼への嘘偽りはその心へさらなる追い討ちをかける事になると……俺は言葉を選び、敢えて事実をまず告げる事とした。


「否定はできないな。特定の子供達と言う条件をクリアするためとは言え、君達を利用する形になるだろう。そもそも我ら機関が、これより君達へ一日体験をと集めた誘いは最終的にそこへと帰結する。つまりは、間違いなく君達を利用すると言う事実だ。」


 アミューズメント施設駐車場で、彼を含めた子供達を乗せた任務車両RX‐8内で皆へ向け放つ。幸いにも彼らは聡明と感じていたから。問題児とのレッテルは。自分達が押し付けたルールにそぐわぬからと……大人は彼らを社会不適合者と言う悪評で突き放したんだ。そこに秘められた聡明さや思考的柔軟性、そして未来招来に不可欠な内なる可能性さえも、だ。


 僅かの沈黙を挟み、奨炎しょうえんは口にする。驚くほど素直に……そしてやはり聡明な頭脳より出た言葉で。


「ずばりそれを言ってくるぐらいだ、その辺の大人より全然信用は出来るな。どうせ俺もヒマだし、家に帰ろうと金づるに使われるのは正直御免だから。一日くらいは、適当に付き合ってやるよ。それ以降は状況を把握してからだ。」


「ありがとう、それで構わないさ。何より君達自身の意志こそが、今後の機関運用に拘わって来るからね。」


 彼が洩らした事実で理解に至る。その親御は彼が持つ能力を金銭の絡む何かしらへと誘導せんとしている。事を望まぬ彼の了承も無しに。


 昨今溢れた一部の子供のメディア進出の影では、子供達のあずかり知らぬ所で親御の計略が働いている。わが子との絆を重んじる親御によるものならいざ知らず、大半が子供の人権さえも無視した大人の身勝手な都合だ。


「……なんか他人の気がしないわ。そっちのニート確定さんも同じなの? 」


「い……一体その名をいつまで続けるんですか!?この友達いない子さんはっ! 」


「いやだから、名前まだ名乗ってないでしょうがあんた(汗)。私もそんな呼び方されてる内は名乗らないわよ? 」


 と、彼の心情から今までの悲惨な家庭状況を推察していると……なにやらまた後で揉め始めてしまった。それも相性が悪いと言うより、互いが素直になれない感じは否めないが。

 それを見やった苦笑の俺と呆れ顔の奨炎しょうえん。時間がかかるであろう彼女達の関係も、彼を加えさらに新たな局面を迎えるだろう。そんな思考を抱きつつ、建設中のメガフロート飛行施設へ急ぐ。



 そこへ着陸する輸送機より、彼らを我らが誇る守りの要……地球防衛施設〈アメノトリフネ〉へと招待するために――



†††



 ジェット音が太平洋の空を振動させ、宗家が擁する輸送機が天を舞う。搭乗する少年少女を一時機内へと移した状態で。時間にして一時間もかからぬフライトであったが、子供達にとっては未体験の出来事となった。


「ちょっ!?雲、雲だよ!? 周り全部雲だよっ! こんなの初めてっポイ! 」


「……あーうん。すげぇな。俺も旅客機とか乗った事ないからな。けど初体験の空のフライトが、ってどうよ(汗)。」


 乗員用フライトルームでシートベルトに固定される見抜く少年奨炎愛に飢えた少女沙織は、思わぬ体験で一喜一憂していた。その傍らでは、興味なしと持参したゲーム機に没頭する引きニート少女がひとりごちる。


「何をはしゃいでいるんでしょう。と言うのに。ロボットですよロボット……それに乗ればきっと空なんか当たり前に飛行して、をどかんと放ち――おっといけね、よだれが出て来た。」


「……うん。なんか、話には聞いてたけど……やっぱりあんた引きニート確定だわ。」


「ししし、失敬ですね!この友達いない子さん! ロボット物アニメを知らぬあなたは黙ってて下さい! いいですか、ロボット物アニメと言うものはですね、よく上辺の内容だけで語られる事も多いジャンルのSF作品ですが――」

「そこには人類への啓蒙や啓発と言ったメッセージを込められた、それはもう考えさせられる人類の至宝とも言えるサブカルチャーなのです! それを一つにまとめたかの名作ゲーム〈鋼鉄機大戦〉をなめてもらっては困りますね! 」


「おーい、そこの友達いない子さんよ。そのを止めてくれねぇか? 」


「なっ……!? あんたにまでその名で呼ばれるいわれはないし!? この、この……? 」


「バカにしてんのかよ……(汗)。」


 未だ名乗りを済ませていない彼らは、互いに互いを特徴から来る勝手な名前で呼び合う中。憂う当主炎羅が頃合いと……改めて彼らを紹介して行く。一向に名乗らない彼らに業を煮やす形で。


「まあまあ……今日は一日体験の仲だ、皆。今日ぐらいは協調性を重んじてもいいんじゃないか? まずそちらのゲームに没頭する彼女は狩見 音鳴かりみ ななる君。そして希場 沙織きば さおり君――」


「「仲良くなんてありません! 」」


「ハモってんじゃねぇかよ。」


「はは……。そして彼は叶 奨炎かのう しょうえん君だ。彼に話した時に明かす形となっただろう? これより一日体験の後、願わくば仲間として歩んで貰いたい面々だ。くれぐれも。いいかい? 」


 強引な自己紹介が人任せに行われる中、憂う当主が言葉に混ぜた互いを傷付けるなとの注釈は、柔らかに……しかし確実に子供達へと刻まれて行く。それは彼らが、共に親御や社会に刻まれた深い心の傷を持つ同士と察して欲しいとのメッセージ。


 憂う当主は、子供達が皆心へ傷を持つ者であると理解に足る様促したのだ。


 それから暫しの時間輸送機がジェットの爆音を吐きながら太平洋上空を舞う。程なく彼らの視界には大小無数の島々が映った。当然、その中心に広がる未体験の光景に子供達は息を飲む。


「……く、草薙さん。ここ洋上ど真ん中だよな? なんであんなデカイ人工施設が? 」


「マジガチでデカイじゃん。何なの?これ。」


「……ひ、ひ……秘密基地!? 」


 三者三様の驚愕が走る中、憂う当主は宣言する。これより少年少女へ一日体験と言う体でいざなう巨大機関へ与えられたその名を。


「目にした通りだ。島は最長で2kmに達する人工島。しかし全体が失われたいにしえの超技術体系で構成された巨大施設そのものであり、その名も〈アメノトリフネ〉と言う。まあまだ、機関運用上の組織名は未定なのだけどね。」


 当主の口にしたいにしえの超技術体系と言う言葉の羅列へ、疑問符を浮かべる見抜く少年と愛に飢えた少女。対して……あらぬ程に双眸を輝かせたのは引きニート少女だった。そして輸送機が巨鳥施設の滑走路へホバリングで降り立つや、数名の人と思しき影も出迎える。機関に同じく参集を呼びかけられた機関員らである。


 その光景を目にし、静かに洋上へ視線を移した憂う当主。何れ訪れるであろう未知なる脅威へ、険しき双眸で意識を飛ばしていた。



 が――その脅威となる存在は、彼らの想像を上回る勢いで地球と言う大地への侵攻を開始していたのだ。

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