第十話  夜千代の代わり 続

 皆、水鏡に顔を近づけて見ていた。華響の肩に顎を乗せて見ていた剛海は、にやりと笑って言った。

「大したもんだ。間合いに入るだけでも。」

華響も頷き、

「息の合う方達ね。」

と腕組みした。雅龍は当たり前だと言わんばかりの涼しい顔で、水鏡に映る様子を眺めていた。その間に、風神雷神の下へ白虎と朱雀が到着し、更に激戦を繰り広げていた。もはや薄暗い煙の中で、何が起こっているのかわからなかった。青龍と玄武が様子を見ながらゆっくりと近づく頃には、座波と氷杍が地に転がっていた。

「なんで、四鬼神様が。」

桜花は訳が分からなかった。遠方の国を守る四鬼神である白虎、朱雀、青龍、玄武がいたから。獄家の守り鬼神である風神雷神とは勝負が付かないだろう。そう思っていると華響が

「有利さを与えたかった様ですよ。風神雷神様は。四鬼神様の力を得て戦えと言う事でしょう。」と苦笑いした。風神雷神に勝てる鬼などいなかった。だから自分達への特訓も兼ねてだと。そう言う事なのか。

 鬼の中では風神雷神に立ち向かうものなどいなかった。それぐらい力は圧倒的なもので普通の鬼とは違い、鬼神と呼ばれる鬼なかでも完璧な純血だった。閻魔様の代からずっと大鬼門を守ってきたのだから。雪那が、

「確かに普通の鬼じゃ、無理だよね。大鬼門を突破なんて八鬼頭でも無理じゃん?」

才蔵も険しい顔で

「そうだな、冷静に考えると。」そう言って水鏡を見るのをやめて、

「腕は立つ奴だが、風神雷神様は無理だな。」と笑った。その時、黙って水鏡を覗いていていた千寿が

「何やら風神が押され始めたぞい。」

髭をなぞりながら呟いた。大鬼門の前では四鬼神が風神雷神を呪縛していた。その狙ったかの様な完璧な隙に到着した猛赤【もうせき】と鳴青【めいせい】が風神に猛攻撃を仕掛けていた。流石の風神も四鬼神の呪縛を解くのに手こずっていた。猛赤と鳴青はもちろん分かっていながらの攻めだった。猛赤が得意技の赤岩爆砕で風神の視界を奪った。鳴青がよろめく風神の背後から鋭く尖った爪で頭を狙った。が、掌で止められた。四鬼神の加勢で手足を自由に動かせてはいないがやはり勝敗は決まっているかに思えた。しかし、猛赤が捨て身の全身を使った鬼術を使うと、四鬼神が、呪縛を強め、尽かさずそこに鳴青がトドメの一撃を放つとあの風神が片膝を地に着いたのである。水鏡を見ていた皆は息を呑んだ。千寿にいたっては息が止まっていた。

「やるじゃん。すげー。」

雪那が放心状態のまま、煎餅をかじった。

その瞬間、水鏡が割れた。

「えっ。」

「なんで。」

「あ"ー!」

「いいとこなの‥に。」

「まじかよ。」

「はぁ。」

「うそ。」

「へ?煎餅かじったから?」

「。」

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主婦の暴走妄想シリーズ第一弾  千鬼姫 濡れ着の雨音 @senkihime

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