第15話深森の結界

「おーい。咲希はよこいって」


「秀太!ちょっと待ってって」


多治見川の上流付近の森に差し掛かる

岩場で、村の者でも一部しか知らないという、イワナ釣りの穴場があるときいて

秀太は友達と3人で来ていた時に見たという、白い浴衣の少女を、咲希と二人で確かめに来ていた。


秀太は気になってはいたが、なんだか見てはいけないものを見た気がして、今日まで咲希以外には誰にも言わず、その場に行くなんてとんでもないと、気が進まないでいたが、咲希の強い押しに負けて、連れてきてしまっていた。


穴場スポットについてすぐに、視界になんだか白いふわふわしているものが見えた気がした。



「あ、あれは?」

秀太が向こう岸に目をやるタイミングで

咲希がやっと追い付いた。


「あんたホンマに見たん?この辺石多いから歩きにくいわ」


「今なんか、向こう岸になんか見えた」


「え?向こう岸?どこどこ?」

咲希は秀太の前に出て、秀太の指を指してる方向を見たが、そこにはなにも見えなかった。


「なんも見えへんで」


「いや、確かに…先に吊り橋があるから、向こう側に渡ってみよう」


秀太と咲希は、さきにある吊り橋を渡り、向こう岸に行くことに。

向こう岸までは、川幅は狭いのでさほど距離はないが、上流付近の川の流れはきつく、急に深くなっているので、地元民は皆、この辺では川に入らないようにしている。

秀太もここまで来たら、むしろ咲希より先に少女を見つけて、男を立ててやるんだ。と思うようになっていた。


「何してんねん?はよこいや」


「わかってる。この橋大丈夫なん?」


「なに言うてんねん。10年前にロープが鋼製のワイヤーに作り替えられて、めちゃめちゃ丈夫やんけ」

と言って、秀太は橋の真ん中付近で楽しそうに跳び跳ねていた。


「ちょっとあんた!跳ねんといて!ゆれるやん!」


「そうか?」


「そうやん。…え?…あれ…」


その時、咲希の視界に森の木に隠れるようにこちらを睨むように見ている、白い浴衣の少女が目にはいった。


「いたー!秀太!そこ!」


「え?」

秀太が振り向き、その間に秀太を追い越して橋を渡る咲希。

秀太もすぐに咲希の後に続いた。


「あれー?この辺に居たのに…居ない」


「やっぱ気のせいなんかな…」


「いや、気のせいちゃうし。私、視力2.0やで」


「いや、視力の問題ちゃうと思うで。なんかおとんが言うとったけど、山の磁力かなんかのせいで、たまに、幻のようなもん見えるときあるとか言うてたで」


「あんたのおとん、マタギやったっけ?」


「ちゃう。マタギはじいちゃん。おとんは猟友会の理事」


二人は回りをくまなく探しては見たが、ここに誰かがいたと言う気配すら見つからなかった。


ただ、咲希の頭の中にははっきりと、白い浴衣の少女の顔が残っていた。

二人は、そのまま帰ることにしたが

咲希の頭の中には、あの睨むように見ていた少女の顔が、日中の間離れなくなり、胸にはモヤモヤしたものが渦巻いていた。

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