第6話ハーメルンの笛吹者3

「このへんかな?」

夏の虫が鳴き誇る夜刻の時間、

一二三は神社の境内に忍びこみ

木を背に中の様子を見ていた。


決して大きくはないが、なかなか立派やないか。

拝殿には賽銭箱もないし、ご神体もない。

それどころか、拝殿の正面の壁には十字架が飾られていて、神社なのかなんなのか…


どうやらこの奥が。中庭をはさんで右が皆で食事をする部屋で、左側が寝室になっている


そこからさらに奥にある六畳ほどの部屋が

キアラ氏の寝室か。


皆寝室で布団をひいて寝る準備をしているのか。しかし、20人の年頃の男女が雑魚寝とはな。


それに、寝る準備の最中一言も言葉を発しない。淡々と虚ろな表情で動きもゆっくりした感じだ。会話をするのが禁じられているのだろうか?

まるで皆、傀儡のようだ。


皆が寝静まる頃、3人の男女が起き出し布団から出た。

厠にでも行くのか?

いや、厠とは逆だ。


3人は、奥の部屋へと真っ直ぐ白浴衣の寝間着を床に擦らせて歩いていた。


夜も夜、こんな時間にいったい…

この神社の廊下は窓も塀もない橋作りのようになっているので、木々の茂りを利用すれば

容易に隠れ見ることができた。


が、奥の部屋となると、上がり込み戸の隙間でもないと見ることができない。

迷っている場合もなく、すぐに足音を忍ばせ奥の部屋へと向かい、壁に聞き耳をたてた。


「これを飲みなさい」

キアラ氏は、なにやら素焼きのかわらけのような物を渡し、廻し飲みさせていた。


御神酒?いや、なんやあれは?

一二三は、襖戸を指半分入るかどうかの隙間を開けて見ていた。


あれは、勝又ん家の次男のたつお男と、近所の雪とさだ子だ。

いったい何をする気だ。

そう一二三が思った瞬間だった。


なっ!

思わず声になりそうになり、自分の手で口をふさいだ。

目の前には、一糸纏わぬ姿の3人の子が。


キアラは、巫女と従者として預かっていた子達を、自らの性昌として扱っていた。


年端もいかぬ少女、男子までもが代わる代わるキアラと交接し、馬鍬っている姿には驚かされたが、それよりも、そんな行為が行われているにも関わらず、子達はまるでいやがる様子もなく、いや、その姿はまるで何の感情ももたない傀儡のようだった。


信じられん。神の使いと思ってた人が、これじゃまるでただの性的倒錯者じゃないか。こんなことがこの神社内で行われていたなんて。


一二三は、さっそくその足で村長宅へ向かい、逐一報告した。


明日、それを聞き付けた村のもの達が、怒り狂って神社に詰め寄った。


夕刻時の日も暮れかけた頃、村人達は神社に集まりキアラ氏にその真贋を激しい口調で聞き寄ったが、何を聞いても知らぬ存ぜぬと言ったキアラの態度に、業を煮やしたのは、

勝又家の長男の晴之と、昨日様子を実際に見てきた一二三だった。


二人は、持っていた作業鉈と鎌で問答無用とばかりにキアラに切りかかった。


晴之の作業鉈は、キアラの左腕に当たり血が飛び散った。

一二三の振り回した鎌は、服を切り裂き中から何か落ちた。

落ちたのは、あの例のオカリナのような笛だった。

キアラはすぐに立ち上がり、後ろを振り向き逃げ出したが、村長の「追え!」の一言で

村人達はキアラの後を追った。


奥の廊下から出て山の方へ逃げるキアラを

村人達は鬼の形相で追いかけていく。


すると、山の斜面が落ち着く辺りに、お花畑のようなものが広がっていて、キアラはその真ん中辺りで、 こちらを振り返り息を切らし立ち尽くしていた。


キアラが持ち込み、育てていたのだろうか。

その一面のお花畑を見て、村人達は少し驚き躊躇し始めた。


が、一二三だけはちがった。

皆、子を預けた親の気持ちは同じだが、一二三の家は両親が早くに亡くなっており、祖父母に育てられ、その中の祖父母も一昨年亡くなり妹と二人暮らしをしていた。


たった一人の家族を神の使いだと思い込んで預けてしまった自分を悔い、

可愛いい盛りの妹を悪戯に汚したこの男のだけは許せないと。


「うおー!」 と、大きな叫び声を上げて一二三は一人、真っ直ぐキアラの方に向かっていき、命乞いをするキアラのひたいから顔にかけて深く鎌をり振り下ろしました。


おびただしい血を流して倒れこみ、苦しみもがくキアラを見て村長は、

「火を放て!」

すぐに一二三をこちらがわにもどし、村人達は持っていた松明でお花畑に火をつけた。

回りを取り囲んで火を放ち、全てが終わったと退散していくなかで、火と煙に覆われ始めたキアラが突然立ち上がった。


そして、村人達に向かってこう言った。

「私は必ず甦る!そして復讐する!50年後に必ず甦り復讐する!お前達にー!お前達の子孫に!」

そう叫ぶと、倒れこみ煙に消えた。


「この煙を吸うんじゃない!」

村長は、そう叫んで村人達をすぐにこの場から立ち去るぞと促した。


最後のキアラの言った言葉は、往生際の悪い死に際の戯れ言のように聞こえるが、

村人達には少なからず恐怖の念を与えていた。

あの害獣を、天に両の手を掲げただけで山へと追いやった、神の奇跡の如く力を使うものの言葉。


人は甦ったりできるものなのだろうか…


次の日、気になった村人の何人かが、焼けた花畑に野ざらしにするのもと思い、キアラの遺体を回収に行ったが、そこには、遺体らしきものはなかった。


あの状態で、あんな火の回った場から逃げれるはずもなく。

ただ、彼は神のごとき力を使うものだと、その場にいたものの頭を過らせ、

皆、気になったのか、少し離れたところまで念入りに探したが、見つからなかった。


だが、村人の一人が叫び声を上げ、皆を呼び集めた。


そこには、人の手らしき物を咥えた野犬が何匹かいて、こちらを伺っていた。


まさかと思い、周辺を探っていると、野犬達に掘り起こされた土の中に、二人の外国人の遺体が出てきた。


かなり腐敗は進んでいたが、山の森の中の土の下は、かなり気温が低いせいか保存状態はよかった。


一人は、何も衣服をつけておらず

かなり食い荒らされている無惨な状態だったが、もう一人は、キャソック姿でそこまで酷くはなかったが、辛うじて金髪の性別が男性用ということがわかるくらいだった。


結局キアラの遺体はいくら探しても見つからなかった。


それと同時に、預けていた子供20人の内、15人が何の音沙汰もなしに居なくなってしまい、こちらも、いくら探しても見つからなかった。


残った5人も、家に帰ってしばらくした後に、気がふれたような状態になる者や、川に身を投げたものなど、皆急逝していた。




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